【 2 】
セクサス六号は、どう見ても人間の少年としか思えなかった。
背は高くもなく低くもなく、色白できめ細かい肌をしていて、髪はさらさらのダークブラウン、切れ長の瞳はあくまでも涼しげに、長いまつ毛はくるんとカールして、肉感的な唇もなまめかしく、笑うと真っ白い糸切り歯がのぞいた。その姿は見る者を否が応でも扇情的な気分にさせた。なにより全身から発せられる抗い難いほど淫靡なフェロモンが、これでもかというほど私の劣情をそそった。
美容院へ行ったついでにエステサロンへも寄りリンパマッサージと顔面蜂蜜パックをしてきたという妻が、不自然に顔をテカらせながら、そんなセクサス六号を見つめてうっとりと表情をゆるめた。
「ほんと、お隣りの奥さんが言った通り、美少年ねえ……」
「お、お前、こういうことはだね、事前にちゃんと説明しておいてくれないと困るじゃないか。だいいちこれは本当に機械なのか? じつは人間の少年が化けてるってことはないだろうね? もしそうだとしたら、これは犯罪だぞ……」
「あら、なにもご存知ないんだから、このセクサスは、現代ロボット工学の粋を集めて造られた慰安用アンドロイドの傑作なのよ。今まさに全国の熟年夫婦のあいだでブームに火が付いてるっていうのに……」
セクサス六号は、すでに全裸になってベッドに腰掛け、こちらへ向けてとろけるような笑みを浮かべていた。私たち夫婦もすでに入浴を済ませ、バスローブ一枚だけの姿となっている。空調をうんと効かせているせいで室温は快適だが、しかし私は別な意味合いでじっとりと重たい汗をかいていた。これからいったいなにが始まるのか……。いや、ナニが始まるのだが。
よくルネッサンス絵画などの題材として描かれる奏楽天使よろしく、無邪気な笑顔の裏側にひっそりと魔性を忍ばせながら、セクサス六号は私と妻を交互に見て甘ったるい声を出した。
「ふふ、どうやら準備は整ったみたいですね。じゃあ、ぼちぼち始めましょうか。これから私の使用方法をご説明いたしますのでよく聞いてくださいね」
そう言うと彼は、いきなりベッドの上で四つん這いになり、可愛い、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯してきた。
「お、おい、君……」
うろたえる私に向かって、彼はこともなげに言ってのけた。
「まずは私の◯◯◯◯◯◯に、◯◯◯◯◯◯◯◯◯していただきます」
うっ、と言葉に詰まる。
もしかしたら、そういうことになるんじゃないかという予感はあったが、その行為があまりにも反道徳的であるがゆえに、あえて考えないふりをしていた。しかし目の前の少年は、あたかもOA機器の扱いかたをレクチャーするような気楽さで、その神をも恐れぬ行為を平然とうながすのである。
私は生唾を飲み込もうとして果たせず、乾いた喉をけくっと鳴らしてうめいた。
「きっ、君は凹型ソケットなどと言うが、要するにそれは、あれだろう、けっきょく、つまるところ、世間一般で言う、◯◯◯◯……」
「私たちセクサスに消化器官は存在しません。したがってこれは単なるソケット、ご主人の◯◯の生体データをスキャニングするためのパーツでしかないのです」
「しかしだねえ、君……」
「ご安心ください、内部は完全除菌されておりますので感染症などの心配はありません。さらに◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯させておりますので、ご主人の凸部に物理的なダメージを与えるようなこともございません。安心してご◯◯ください」
私は、おそるおそる妻の様子をうかがった。彼女はすでに欲情の虜となり目をうるうる潤ませていたが、私の情けない表情に気づくと、あなた男でしょう、さっさと覚悟を決めなさい、と言わんばかりにまなじりをきりりと吊り上げた。仕方なく、ふたたびセクサス六号のほうを見やる。彼の凹型ソケットは、今や◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ていた。
「むむんっ」
私の深層心理で、なにやら邪悪な精神がぬっとカマ首をもたげるのを感じた。
背徳的であるがゆえに刺激的、いけないと禁じられている行為ほど、やってみたくなるものだ。この欲求にあらがうことは、たとえいい年をした大人であっても並大抵のことではない。禁断の果実は美味しいのである。
さらに言うならば、セクサス六号は単なる機械、ちょっと凝った造りにはなっているがしょせんアダルトグッズにすぎない。ゆえに、これからしようとしていることは、破廉恥極まりない行為ではあるけれど、けっして違法ではないのである。もし見つかっても警察に捕まる心配はないのである。大丈夫なのである。ははは、どうってことないさ、だって江戸時代でいうところの肥後芋茎みたいなものじゃないか……。
そう自分に言い聞かせ、セクサス六号の細い腰へ腕をまわしぐっと自分のほうへ引き寄せた。すでに私の◯◯は、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯いた。自分はこれから公序良俗に鑑みてすごくいけないことをしようとしている、そんな背徳感が、逆に私を性的な興奮へと駆り立てているようだ。ようし、やってやろうじゃないか。地球は青かったと言ったのはガガーリン少佐だが、私はあえてこう言い換えることにしよう。――少年の蒙古斑は青かった。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯をセクサス六号の◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯と、大腿四頭筋に力をこめて一気に◯◯◯◯◯した。
「あん」
艶やかに光る彼のピンク色の唇から、切ない喘ぎ声が漏れる。
「き、君ってやつは……、機械のくせに感じているのかね?」
「いえ、ソケット内部に圧力を感知すると、自然に声が出るようプログラムされているのです」
「うむむ、それにしても……」
ソケット内部は、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯、ちょうど良い加減で◯◯◯◯◯◯◯◯◯。しかもどういうわけか◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯が、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯しているのだ。はっきり言って、ものすごく気持ちが良い。
「今ご主人の◯◯◯における、形状、硬度、におい、温度、脈の打つ早さなどをスキャニングしておりますので、そのままの状態でしばらくお待ちください」
「ぬおおっ、このまま待てというのか」
快楽に身を委ねていると◯◯◯◯◯◯しまいそうになるので、仕方なく私はダンテの「神曲」の一節などを頭のなかで反芻して精神の均衡を保とうとした。ところがあまりの気持ち良さに脳内の言語中枢が混乱をきたし、しまいには願人坊主の「でろれん祭文」のようになってしまっていた。
地獄の王の旗ひらり
地獄の沙汰も金次第
でろれん でろれん でんでろれん
あっそれ、でろれん でろれん 地獄編
闇、我が半球を包むとき
皮、◯◯◯◯◯◯◯◯◯
でろれん でろれん でんでろれん
あっそれ、でろれん でろれん 地獄編
地獄煉獄 それなあに
天国極楽 それなあに
私とあなたが通じあう
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
でろれん でろれん でんでろれん
あっそれ、でろれん でろれん 地獄編……
などと、うわ言のようにつぶやいて、けけけっと意味不明の笑いをもらしていると、セクサス六号はおもむろに顔を上げ、こちらを興味津々食い入るように見つめている妻に向かって告げた。
「ただいまスキャンが完了いたしましたので、これよりそのデータを元に、若干のアレンジを加えて、私の凸型ソケットを再構築いたします」
彼が膝立ちの姿勢になると、その◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯、◯◯、と◯◯◯◯◯てきた。◯◯である。古代インドにおいては釈迦の修行を妨げようとした欲界第六天の魔王、マーラ。国内においては川崎市の金山神社で古くから祭祀されているというご神体、かなまら神。俗称、◯◯◯◯◯。
「あらまあ、あらまあ……どうしましょ」
それを見て妻は身をよじり、ほうっと熱い吐息をもらした。
「……こんなに立派になっちゃって」
「ご主人が◯◯◯◯◯◯◯はそのまま私の内部できれいに濾過され、不純物や雑菌などを除去したうえで、あらためて◯◯◯◯◯◯◯◯◯されます」
「ほんと、頼もしいわあ……」
私と◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯の状態で、セクサス六号が言った。
「では奥さん、そろそろ始めましょうか」
そして、目をきらきら輝かせている妻へ膝立ちの姿勢のままにじり寄ると、この男性機能補助器具は慣れた手つきでバスローブをはぎ取り、ゆっくりと◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯のである……。