なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
婚約破棄でございますか? どうしてそんな面白くもない冗談を仰るのでございましょうか?
殿下。今は卒業パーティの夜会の最中でございますよ?
なぜ進行を妨害して壇上から叫んでいらっしゃるのですか?
え、わたくしとの婚約を破棄するのでございますか?
あまり面白くない冗談ですわね。
冗談ではない? またまたご冗談を。
真実の愛とおっしゃられましても、この学園内で計24名と肉体関係をもった女性を……まさか本気ではありませんわよね?
しかもその方、病気もちですわ。ああ、もちろん殿下はご存じでございますよね?
貶めてなどおりませんわ。殿下だってご存じのはずのことでしかありませんもの。
ですが、その無知を装う迫真のご演技。
つまりそれは、皆様にも見せろということでございますね。承知いたしました。
はい。皆さま。これが証拠の書類でございます。
これ、この通りですわ。
医師による診断書、並びに、学園内のどこでいつどのようにどの殿方と関係を結んだかの一覧でございますわ。今、皆様のお手元に我が家の使用人たちがお配りしているのと同じものでございます。
ああ、彼女は、若い殿方の暴走しがちな性欲処理をその身を捧げて行ってくれる篤志家なので、自由に振舞っていただいていただけですわ。
ですが、病気をばらまくようになってしまったので、身柄を拘束して隔離するしかなくなりましたの。
あ、警備の方々、この女性が性病の感染源です。連れて行ってさしあげてくださいませ。
こういった場所に姿を現すであろうと推測しまして、網をはっていただいておりましたのよ。
連行されて行ってしまいましたわね……令嬢達の清らかな身体を、自らを捧げて守ってくださった方をせめて拍手で送ってさしあげましょう。
もちろん、賢い殿下はごぞんじでしたよね。
まさか、あの方と真実の愛とは……自らを捧げる自己犠牲の素晴らしさに対して恋に落ちたのでございましょうか。
いえいえ、殿下がそんな愚かなはずはありませんわね。王家の血をひく尊いお体を危険にさらすのは、幾らなんでもやりすぎですもの。
ですが必要であったのは理解いたしますわ。婚約破棄を行うにあたっては腰のあたりにぶらさげる女が必要でございますもの。定番のアクセサリーとして準備したのでございましょう。
だって婚約破棄は冗談なのでございましょう?
殿下が王太子なのは、我が家が後援しているから、という一点突破でございますもの。
わたくしと婚約を解消したら……ああ、失礼しましたなんでもよくご存じの殿下はもちろんご存じでございますよね?
ふふ。その見苦しく怒鳴りつけて来る様子、本当にご存じないみたいで素晴らしい演技ですわね。
では、こちらもそれに合わせて、あえてお教えいたしましょう。
わたくしとの婚約を解消したら。殿下は砂漠の向こうの女王国のハーレムに納入されることになっておりますのよ。
現女王陛下は辣腕家で大層有能だそうでございますよ。即位70年、御年89歳で色々な方面で現役だそうで……。
あら、青ざめていらっしゃいますね。凄い演技ですわ。だって、全ては余り面白くない冗談だったのでございましょう?
今さら驚くことではありますまい。
もしかして、わたくしに対しての婚約破棄宣言は、スピーチの代わりだったのでございましょうか?
確かに耳目は惹けますわね。ですが、良識ある方々は殿下からは退いてしまうと愚考致しますが。
本気でなかったと仰いますのね。判っていますわ余りにも出来の悪い冗談だったと。
わたくしに嫉妬をさせたかった? あは、あはははははは。失礼しました。今のは珍しくよくできた冗談でしたわ。
だって、ありえませんもの。確かめるまでもないことでございますから。
わたくしは殿下をなんとも思っていませんもの。
婚約者同士のお茶会にも現れず、誕生日のプレゼントも贈ってこず、そのお金を周囲の花や蝶に捧げる婚約者に対して、一番遠い他人という以上どう思えというのでしょうか?
もちろん、賢い殿下は全てご承知の上でやっていたのでございましょう。
まさか! もしかして先程の婚約破棄宣言も、わたくしに嫉妬させたかったというのも本気でございますの?
いえいえ賢い殿下が考えなしにそんな愚かな行動をするはずがありませんわね。
先程も言いましたが、わたくしと婚約破棄したら、殿下は廃嫡でハーレムへ納入されるのですもの。
そんなことは知らなかったとは、また、ご冗談を。
賢い殿下は、ご存じのはずですわ。
わたくしとの婚約が結ばれた場で、陛下と王妃殿下が手を変え品を変え口を酸っぱくして殿下に告げていらっしゃいましたもの。
ですから殿下が本気で婚約破棄などするわけがありませんものね。
もしかして、悪い病気になれば砂漠の国へ行かなくて済むというお考えだった……いえいえ、そんなわけがありませんよね。
賢い殿下はご存じのはずですわ。
王太子教育で必ず叩き込まれる諸外国に関する知識に、各国の刑罰に関するものがありますもの。
砂漠の国では、そのような病もちの人間を、刑罰の道具として用いると教わったはず。
細部に関しては秘密なそうですが、それはそれはおぞましい使われ方だそうでして……まさかそれを身をもって体験したい、などと考えていらっしゃるわけがありませんものね。
きっと賢い殿下には、なにか深い思惑があるのでございましょうが……。
ですが、わたくしは賢くないので、殿下の賢い行動が髪の毛の太さほどすら理解できませんの。
その遠大かつ高邁なお考えはわたくしの卑小な理解力を遥か越えていらっしゃいますわ。
知能低劣で申し訳ありません。我が身の知恵のなさに、ただただ身を縮めて恐縮するばかりでございます。
ですからわたくしには、殿下が浮気者で性病持ちで、自分の行く末も判らずに婚約破棄を人前で叫ぶ愚か者にしか見えないのです。
わたくし、殿下の高度過ぎる冗談を冗談と受け取れない、狭い料簡の愚か者でございますの。
これでは殿下の隣に立つ資格など全くありませんわね。
ですから、愚かなわたくしから、はっきり申し上げますわ。
その婚約破棄、確かに承りました。
殿下の愚かにしか見えぬ行動を、ひとつどころかこれだけ並べれば、王家とて反対はできますまい。
王家から高額の賠償も払っていただけることでしょう。
常人には理解できぬ何か高邁な意図がおありだったというなら、わたくしとわたくしの実家と陛下と王妃殿下が納得できるように説明してくださいましね。
では、わたくしはこれで失礼させていただきますわ。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、
評価や感想をいただけるととても励みになります。
別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




