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仕事初日(その3)

「カナちゃん……もうそろそろ夕方だよ……。覚悟は良い……?」


 日が暮れ始めた頃、冒険者ギルドのホールスタッフの間に緊張が走る。

 いや、ホールだけではなく、厨房からも異様なほどの緊張感が漂ってくる。


 そして――それは突然訪れた。


「酒とメシをくれーっ!」


 ギルドの入口が開くと同時に、お酒と料理を求める冒険者が雪崩のように押し寄せてきた。


「こっちもまずはエール5つくれー!」

「こっちは3つだっ!」

「こっちもまずはエールだっ!」


 最初の一人を皮切りに、次々と注文が飛んでくる。

 ほぼ全員がまずはエールビールを注文していた。


「カナちゃん!これとこれとこれ! 持って行って!」


「は……はいっ!」


 別の先輩スタッフから大量のエールビールを受け取るが、どこへ配ればいいのか分からない。


「とにかくどこでもいいから人数分配ってきて!」


「は、はいっ!」


 言われるがまま、私は手当たり次第にエールビールを配り始めた。


「お待たせしました!」


「待ってたぜ!よし、みんな乾杯だーっ!!」


 冒険者達はジョッキを受け取ると、勢いよく乾杯し、一気に飲み干す。


「ぷはーっ!おかわりーっ!!」


 そしてすぐに次のおかわりを要求される。


 夕方になると、老若男女・種族問わずエールビールを飲み、ある程度飲むと料理を注文する。

 冒険者達は飲み食いしながら今日の成果や次の目的地、戦利品の分配、他パーティとの雑談で盛り上がっていた。


 最初の客が出ていったと思えば、入れ替わるように次の客が来て、またエールと料理を注文する。


 これが閉店間際まで延々と続くらしい……。


 私はホールスタッフの指示を受けながら、注文を聞き、料理を運び、食器を下げ、テーブルを拭き――。


「カナちゃんそれ違う!それは26番テーブル!」

「カナちゃんついでに30番テーブルの注文聞いてきて!」

「カナちゃん!42番テーブルの注文何だって!?」

「カナちゃん!15番テーブルの食器下げて!その後テーブルも拭いて!」


「ひ……ひぃぃーーっ!?」


 忙しさのあまり、文字通り目が回る。


 朝がウォーミングアップだとすれば、夕方は本番。

 そしてこれはまだ序の口で、本当の激戦はここからだと身をもって知ることになった……。



◆◆◆



「はあ……はあ……。疲れた……」


 閉店間際。

 店内は壁に設置されたランプのような照明魔法で明るく照らされている。


 ようやく客が減り、数人しかいなくなった頃、私はヘトヘトになって空いている席に座り込んだ。


 この数時間、本当に地獄だった。


 同時に何組も注文するからメモ帳に書ききれない。

 勝手にアレンジしたメニューを言う人もいて、さらに混乱する。


 ホールスタッフの声も四方八方から飛んでくる。

 どれを聞いて、何をどこに持っていけばいいのか分からない。


 冒険者同士が盛り上がって勝手に席を移動するから、料理の行き先も分からなくなる。


 ケンカや揉め事がなかっただけマシだけど、酔いつぶれた客は何人もいた。

 その介抱もホールスタッフの仕事だ。


 つまり――今日一日で私は完全に疲れ果てていた。


「カナちゃん、お疲れ様。その様子だとかなりバテたみたいね」


 突っ伏していると声をかけられた。

 重たい体を起こして顔を向けると、見知った二人の姿があった。


「セーラさん……サラさん……」


「お二人もご注文ですか?」


「ああ、いいのよ。私達はもう結構飲み食いしたから。そのまま座ってていいわ」


 立とうとした私を、二人は優しく制した。


「あの……お二人だけですか? ディンさんとアルトさんは……?」


 店内を見渡すが、二人の姿はない。


「あの二人ならスケベ通りに行ったわ」


「スケベ通り……ですか……?」


「そう。アレをしてくれる女の子達が働いてる通りよ」


 セーラさんはニヤニヤしながら、左手で輪っかを作り、右手の人差し指を抜き差しする仕草をしてみせた。


 つまり――そういう店だ。


 スケベ通り……。

 もしかして、私が今日迷い込んだあの場所……?


「ま、スケベなのは男だけじゃないしね」


「そうね。私達もしたくなったら“女のスケベ通り”に行くしね」


 どうやら女性用のスケベ通りもあるらしい。


「カナちゃんもしたくなったら連れて行ってあげるわよ♪」


「いえ……私はそういうのはちょっと……あは……あはは……」


 この歳で男性経験がないとは言いづらい……。


「そ、それより……お二人はディンさんやアルトさんがそういう店に行くの、平気なんですか?もしかして……付き合ってるとか……」


「ん?私達が?」


「ディンとアルトと……?」


 二人は顔を見合わせ――


「あは!あははははっ!!カナちゃん何それ!すっごく面白い冗談言うのね!」


「私達がディンとアルトと!?ないないない!あははははっ!!」


 お腹を抱えて大笑いしている。


 冗談で言ったわけじゃないんだけどな……。


「まあ、私達もディンやアルトと“したり”はするけど、それは身体だけの関係よ」


「そうね。長くパーティを組んでると、良いところだけじゃなく悪いところも見えてくるからね。恋愛感情が生まれても最初だけ。すぐ冷めちゃうわよ」


 そ、そういうものなのかな……。


「さて……私達もスケベ通りに行こうかな」


「そうね。私もなんかしたくなってきたわ。カナちゃんも来る?奢ってあげるわよ♪」


「い……いえ……!私はまだ仕事が残ってますし……!」


「そう? 残念ね……。それじゃ、またねカナちゃん」


 セーラさんとサラさんは少し残念そうに手を振り、店を出ていった。


 ……冒険者って、男女問わず性欲が強いのかな。

 私も冒険者になったら性欲が強くなったり……?


 そんな一抹の不安を覚えながら、夜は更けていくのだった。

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