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竜海日記  作者: 梅子
9/19

12月22日 実母の話す竜海①

 私は、まずは彼女の背を、躊躇いましたが少し撫でて、「落ち着いてください。誤解です。」と言いました。彼女は、呼吸が整うまで、「ごめんなさい。」と、うわ言のように繰り返していましたが、段々と落ち着いてきました。私は、彼女に「無理はしないでいいので、竜海さんとどうやって再会したのか教えてもらえませんか。私は、竜海さんにもう一度、会いたいと思っているのです。」と、言い聞かせるように、努めてゆっくり言いました。すると、彼女は、少しずつですが、語り始めました。きっと、初めて人に竜海のことを話したのだと思います。たどたどしさはありました。ですが、誰かに話を聞いてもらいたいと思っていたのも、また事実だったのだと思います。彼女は、存外、素直に話してくれました。竜海が生まれた時の話から……。長くなりますが、以下の通りです。

 私が竜海を産んだのは、学生の時です。当時、私は、看護学校に通っていました。私の家は、あまり裕福ではなくて……。何とか安定した仕事につきたくて、毎日、必死でした。そんな時、友達に誘われて、男女の集まる飲み会に行くことになりました。合コンっていうのかしら。私は、お酒も飲めなくて、まだ終わってない課題もあったから、あまり気が進んでいなかったのだけど、帰るとも言いだせなくて……。

 友達が話題にしていたのは、ある医学生のこと。彼は、おうちもお医者さんをやっていて、何だかもう医者になるのが当然って余裕を感じさせる人だったの。そのくせ、親への反発なのか、だらしないところもあって、よくうちの学校の女子生徒に手を出して、噂になっていたみたい。背が高くて、神経質そうな、でも豪快さもあるような、普通の人とは違った人だった。女子学生は、みんな彼に夢中だった。

 そんな人から飲み会の後、こっそりと誘われた時には、現実のこととは思えなかったわ。私は、地味で誰からも顧みられないような、きっとその飲み会にも数合わせで呼ばれたような存在だったから。拒否する理由がなかった。今思えば、彼にとっては、ただの気まぐれで、どうせ遊びなんだから、断るべきだったのかもしれない。けど、その時の私は、田舎から出てきたばっかりで世間知らずだった上、慣れない学校の環境に疲労していて、冷静に見極めることができなかったのね。

 彼と交際していた半年間は、ただただ楽しいことしかなかった。彼は、私がこれから毎日、苦労しても得られるかどうか分からないものを、もう手に入れていたの。ブランドの服を買ってもらって、彼の車に乗って、眺めのいいレストランに連れて行ってもらったわ。見たこともないような豪華な料理を食べさせてもらったの。あとは、彼のおうちにも、誰もいない時、こっそり遊びに行ったこともあったわ。お庭だけでも、私の当時住んでいた部屋より広かった。

 でもね、そんな日々は、やっぱり長くは続かなかった。私は、捨てられたの。彼は、私に飽きてしまったのね。ただ捨てられただけならよかったのに、私、竜海を妊娠していたの。

 本当に馬鹿よね。私は、お金をもらっただけで、別れることに応じてしまった。しかも、私は、生まれたばかりの竜海を、人に勧められるまま養子に出してしまったの。

 それから15年後、竜海が里親の家を追い出されて、施設に入ったことを知って驚いたわ。私、竜海のことがずっと気がかりで、竜海の様子を調べていたの。だけど、まさか、こんなことになってしまうなんて……。私は、竜海にもう一度会いたいと思った。でも、今更、引き取ることなんてできない。だから、竜海の入った施設に、看護師の募集があったのを見て、思い切って応募したの。

 竜海との再会はね、母親としてではなく、看護師として果たしたの。竜海のことを初めて間近で見た時、驚いたわ。あの人にそっくりだった。利発そうで、怜悧で、周りの人とは違う雰囲気をまとってる。母親がこんな馬鹿な人間じゃなければ、当然、いいおうちで、お坊ちゃまとして大切に育てられるべき子なのよ、竜海は……。

 彼女の話を聞きながら、私は、不思議と竜海の息子の「竜臣」君のことを考えていました。若い親の身勝手で生まれて、本当の父親を知らないで育つ、そんなことが二代に渡って繰り返されたことに、冷たい実感を持っていたのです。今後、この母親から竜海について、どのようなことが語られたとしても、私は、やはり竜海の悲しさを思わずにはいられないだろうと思っていました。


続く


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