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竜海日記  作者: 梅子
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12月18日~22日 実母と竜海

12月18日

 電話に出たのは、静かな女性の声でした。一言、二言交わしただけで控えめな印象を覚えました。全く知らない人に電話をかけるので、私も開き直って、「私、竜海さんの中学の同級生です。杏菜さんにこの番号を聞きました。竜海さんに会いたくてお電話しました。失礼ですが、どなたですか。」と、唐突に言ってみました。すると、電話の相手は、「竜海……。」と言った切り、暫く黙ってしまいました。私が、「もしもし。」と言うと、彼女は、「あっ、もしもし。」と、慌てたように答えました。私は、もう一度、「すみません。竜海さんとの関係を教えてもらえませんか。」と言いました。すると彼女は、戸惑うような、躊躇うような声で、「母です……。」とやっと言いました。

 私は、少し混乱しました。竜海の母親と言えば、まず頭に浮かぶのは、真珠ちゃんと、蓮の母親で、竜海の養母です。しかし、あの人とは、あまりに印象が違いすぎました。あの人は、お金持ちで、偽善的と思えるほど親切で、自分が間違っているなんて、一度たりとも考えたことがないような人だったと思います。

 今、電話している人は、何かに怯えて常に震えているような、そんな女性に思えました。私には、この人が竜海の実母なのではないかと思われて仕方ありませんでした。私は、この思いを抱いた瞬間、彼女に強い興味を引かれました。

 「私、竜海さんのことを知りたいんです。話を聞かせてください。お願いです。」と切り出すと、彼女は、少し迷惑に思ったのか、困惑したのか、「えっ」と言った切り、また黙ってしまいました。私は、「お願いします。」と繰り返しました。誰かに強く言われると、流されてしまう質なのか、彼女は、結局、了承してくれました。


12月22日

 電話の女性に会いました。彼女は、30代と思われる、小柄な女性で、どこか子ども、子どもしているような、頼りなく不安気で、可憐な様子をしていました。一方で、たまに目が合うと、少し挑戦的にもとれるような、それでいて、とても苦し気な表情をする時がありました。何かに虐げられ、それに耐え続けてきた、そんな経験が彼女を形作っているように思いました。私は、会って話す機会を与えてくれたことへのお礼を述べた後、まず気になっていたことを聞きました。「私は、竜海の育ての母親の方は、会ったことがあるのですが、あなたのことは知りませんでした。あなたは、いつから竜海と会っていたのですか。」

すると、彼女は、「竜海が施設に入った後です。」と答えました。竜海は、真珠ちゃんとのことが明らかになってしまった後に家から追い出されて、施設に入っていました。それと、前後して退学してしまったので、私が知っているのは、そこまででした。彼女は、それからのことを知っているのです。私は続けて、「どのように再会したのですか?」と聞きました。すると、彼女は、急に耐え切れなくなったように「ごめんなさい。」と言って、私に頭を下げました。震えているようにさえ見えました。私が、咄嗟のことに驚いて二の句が継げない間に、彼女は、「分かっています。あなたも、竜海に酷いことをされたんですよね。私が、あの子を、幼いあの子を養子に出してしまったから…、あの子は歪んでしまったんだと思います。本当に申し訳ありません。」と一息に言いました。涙ぐんで、過呼吸にさえなりそうでした。

 私は、気付きました。彼女が怯えているのは、私にではない。竜海なんだ、と。私は、彼女を落ち着けさせることに努めました。彼女から、話を聞き出すことで、竜海のことを、「竜海」の形作られた経緯を、知り得ると感じたからです。


続く


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