12月17日 私と竜海
私は、杏菜ちゃんに「竜海が、自分の息子を放っておくとは思えない。実は、連絡をとれるんじゃないの?」っと聞きました。すると、杏菜ちゃんは、少しびっくりしたような顔をしました。ですが、すぐに、ふふっと、溜め息のような笑いをこぼしました。そして遠くに目をやって、「やっぱり○○ちゃんは、面白いのね。ねぇ、もし本当に私が竜海の連絡先を知っていたとして、あなたはどうしたいの?」と聞きました。
私は、逡巡しましたが、「竜海に会いたい。」と正直に答えました。杏菜ちゃんは、そっかーと言いました。「じゃあ、教えてあげる。竜海の携帯の番号……。」
私は、えっ?としか返事ができませんでした。すると、杏菜ちゃんは笑って、「ごめんなさい。あなたがあまりにも必死そうだから少しからかっちゃった。でも、この番号をあげる」と、花柄のメモ用紙を取り出して、そこに電話番号を書きました。「これは、竜海の番号……、ではないけど、竜海のことを知るためには役立つわよ。」と言って、私に差し出しました。その後すぐに、「早く帰らないと、駿がうるさい。」と言って、私とメモ用紙を置いて、行ってしまいました。
12月17日
私は、悩みました。私は、気付き始めていました。自分が何を望んでいるのかを。そもそもなぜ竜海について調べ、記録するようになったのかを。間違いないのは、私は、竜海に会いたいと思っているということです。それが、なぜか……。
正直に言うと、私が、竜海を愛しているからだと思います。中学3年生の時、竜海が突然退学した時から、ありがちな表現ですが、私の心には穴が開いてしまったのです。言うまでもありませんが、私が、竜海と、香織ちゃんや杏菜ちゃんたちと同じような関係になったことは、一度もありません。そもそも、私は、竜海と話したことさえ、まともにないのです。だからこそ、竜海を失ったことで、自分の心がどれほど大きな傷を負ったのか気が付くのに時間がかかったのです。ただ、同級生が退学した、まともに話したこともない同級生がただいなくなった、それだけ、と言い聞かせてしまう時間が、あまりにも長かったのです。その間に、私は、高校生になり、大学生になってしまいました。
竜海に会って何をしたいのか……。まず、私は、分かっています。私は、竜海にとって、何の価値もない存在です。私が、竜海を片時も忘れ得ぬ人とどんなに必死に思って、この身と心を、一途に捧げ続けていても、竜海には何の関係もありません。分かっているんです。
ただ、竜海をもう一度、味わいたい。それだけだと思います。日記を書く中で、もっと、竜海の素晴らしさをうまく表現できないか考えました。誰かに(それが、日記をもう一度読み直す自分自身だったとしても)伝えることができるようになったら、少しはこの苦痛を和らげられるかと、安易に考えたのです。でも、だめでした。そもそも、竜海の素晴らしさを表す言葉などないのです。もちろん、竜海の容姿や行動を論じることならできます。でも、竜海自身から放たれるあの衝撃、あの光、あの温かさ、冷たさ、そして、あの残酷さは、彼に会わないと、どうしても味わえません。
一方で、竜海に会ってしまえば、私は、自分を抑えられるか分からないと危惧する自分もいます。竜海を自分のものにしたくなる一心に囚われるかもしれません。それこそ、杏菜ちゃんのような思考に陥るかもしれません。でも、もう私は、引き返すことができません。進むも引くも地獄なら、進み続けるしかありません。
明日、杏菜ちゃんがくれた番号に電話をしてみます。




