12月10日 駿の話す竜海②
駿は、私の顔を正面から見返しました。そして、「杏菜が高校に入学した時。」と答えました。私は、さらに核心に迫って、「じゃあ、杏菜ちゃんは、退学した後、竜海と別れたのね。」と聞きました。「竜海」という名前を聞いた時、駿は、一瞬、身構えたように見えましたが、すぐに「当然だろ。」と言いました。駿の表情は、怒っているようにさえ見えました。私は、「杏菜ちゃんには、駿から告白したの?」と聞きました。駿は、「告白っていうか、自然な流れで……。」と口を濁しました。私は、駿が何か隠していると感じました。きっと、子供に関することだろうと私は、直感しました。私は、こうなったら、駿の動揺につけ込んでしまおうと思い、「じゃあ、杏菜ちゃんの子供の父親は、駿なの?」と聞きました。駿は一瞬、呆気にとられた顔をしました。私は、「駿が父親に決まってるよね。そうじゃなきゃ、付き合わないもんね。」と鎌をかけてみました。私は、杏菜ちゃんの子供の父親が、駿だなんて微塵も思っていませんでした。しかし、ここを突けば、駿は、どんな答えをするにしろ、感情的になるだろうと確信していたのです。少なくとも、杏菜ちゃんの子供が、杏菜ちゃんの弟などではなく、「子供」であるということは、はっきりさせることができると思いました。駿は、多少の間をおいて、「そうだよ。俺の子だ。」と言いました。その言葉には、やはり力がありませんでした。私は、泰香ちゃんの言葉を借りて、さらに心無いことを言おうと努めました。それは、もう、真実に迫るための口上であって、私の本心では決してありません。「つまり、駿は、自分の思いを、無理やり杏菜ちゃんにぶつけたわけでしょ。それで、子供が生まれちゃったから、付き合っているというだけのことでしょ。でもさ、それってすごく無責任じゃない?だって、15歳で子供を持つとかさ、子供が子供産むようなもんじゃん。」
こう言われた駿の顔は、本当に恐ろしかったです。呼吸が荒く、鋭い目が爛々として、怒りで言葉も出ないような感じでした。私は、内心怯えていましたが、これ以上、言葉を足すこともできないので、黙って駿の言葉を待ちました。
「俺は、無理やりなんて、そんなことしない。」数秒後、駿はやっと答えました。その声は、やはり震えていました。私は、本当に申し訳ないと思いつつ、こう言いました。「でもさ、だったら、杏菜ちゃんが竜海と別れて、駿と付き合う理由がないでしょ。駿の子供だから、駿と一緒にいるんだよね?駿、最低じゃない?杏菜ちゃん、かわいそう」
そう言った瞬間、駿は、私を睨みつけました。そして、「お前、何なんだよ!」と怒鳴りました。周りにいた人がこちらを顧みるほどでした。私は、駿の怒りを予想していながら、怖くてしょうがありませんでした。駿は、周りを気にして、今度は声を抑えて言いました。「だから、お前は、誤解しているって言ったんだよ!俺が最低だって?違うよ。最低なのは、竜海だろ!杏菜に自分の子供産ませといて、逃げやがった!俺が杏菜と付き合っているのは、俺が父親になるって覚悟を決めたからだよ。杏菜と俺は信頼関係で繋がっているんだ!」
私は、激昂する駿を前に怯えながらも、彼に聞きたいことは全て聞けたと一種の満足を感じていました。やはり、杏菜ちゃんの子供の父親は、竜海だったのです。
駿は続けました。「お前、子供の名前は知ってるか?知らないだろうな……。「竜臣」だよ。杏菜は今でも竜海のことが……。」駿は、今にも泣き出しそうでした。私は、本当に悪いことをしたと思いました。
しかし、私は、それとは全く別の方向のことを気にし始めていました。竜海は、狡猾な少年です。彼は、妹とのことを兄に見咎められて両親に露見するまで、真珠ちゃんと、香織ちゃん、その他にも多くの女の子と、何度も体の関係を持っていたはずです。それなのに、杏菜ちゃんとだけ、どうして子供を残してしまったのだろうかと思いました。不自然です。あの完璧な竜海が、そんな大きなミスを犯すはずがありません。いや、もちろん、杏菜ちゃんを一番愛していたという可能性はあります。しかし、そんな風には思えません。私は、やはり杏菜ちゃんに話を聞かないと、どうしようもないと感じました。駿を通しては、もう、杏菜ちゃんに連絡することは、不可能だと思いました。駿が来なくて、杏菜ちゃんと会える場所……。私は、大学で杏菜ちゃんに会おうと思いつきました。駿には悪いけど、私は、杏菜ちゃんと会ってみせます。
続く




