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竜海日記  作者: 梅子
20/20

12月27日 「私日記」と竜海

12月27日

 私は、竜海に会いました。駅で待ち合わせをしたのですが、私は20分くらい前に来てしまい、寒い中、竜海を待っていました。電光掲示を見ると、待ち合わせ時間と丁度同じ時間に来る電車があると分かりました。私は、何となく、この電車に竜海は乗ってくるだろうと思いました。自分が早く来すぎたのは分かっていますが、何だがみじめな気もしました。それでも、あの竜海と会えるのです。嬉しくて仕方ないのと同時に、私は自分の服装やメイクについて、また、体調について、不安で震えていました。

 竜海は、やはりその電車に乗ってきたのでしょう。スーツの影に紛れて、明るい茶のコートを着た竜海が、こちらに向かうともなく向かってきました。私は、目を見張っていたつもりだったのに、近くに来られるまで、竜海と気づきませんでした。竜海は、何も言いませんでした。私は、慌てて「こんにちは」と言いました。その後、レストランに行きました。私は、はしゃいでいたのか、もう過ぎたクリスマスのプレゼントを竜海に渡しました。ハンカチです。竜海は、何の感慨もなさそうに、「ありがとうございます。」と言って、自分のリュックにしまいました。竜海は、やはり無口でした。私は、竜海に説明しなくてはならないと思っていました。なぜ、竜海のことを調べ、竜海と会う算段を、いずみさんにつけてもらったのかを。でも、自分から切り出す勇気がありませんでした。そのようなことをすれば、私は、竜海への自分の愛を丸ごと告白することになるからです。でも、竜海は何も切り出しませんでした。私は、今まで、竜海を語る人たちは口が重いと思っていました。でも、違いました。あの人たちは、竜海のことを一旦話し始めると饒舌なのでした。竜海自身は、自分のことをこれ以上知ってほしいとも、なぜ私が竜海に興味を持っているのか知りたいとも、思っていないようでした。

 途中から、これが、あの竜海だろうか、と、私は、疑わしく思いました。中学3年生の竜海は、妹の真珠ちゃんを愛し、無理やり関係を持ち、思い通りにならないと殴って、しかも、憂さ晴らしに、香織ちゃんや、杏菜ちゃんたちとも関係を持ち、杏菜ちゃんには、息子まで産ませて、実の母親も脅して、塾でも先生や女の子たちを弄んで……、自分の存在価値に悩んで、駿に掴みかかって、母親と父親に従順でいようと努めて、飛び降り自殺をしようとして……、後輩に優しくて、頭が一番に良くて、完璧で……、そういった危うさと、悲しさと、鋭さと、弱さが一緒になって、入り組んでいる人でした。目の前にいる竜海は、容姿こそ、あの時の竜海より洗練され、背もさらに伸びていましたが、何もかもが違うと思えてなりませんでした。とのかく、あの時と、何もかもが違うのです。足を引きずっていることなんて、関係ありません。ただ、もう輝きがなくなっているのです。私は、竜海に聞きました。「今は、どうしているの?大学生なの?」竜海は、「本当は、大学生の歳だけど、少し遅れてて。まだ、通信制の高校に通いながら、バイトをしているよ。」と言いました。私は、返事に困りました。頼んだパスタは、一向に進まず、ついには、伸びて、ソースを吸って、重たく固まってしまいした。

 別れる時、急に私は、虚しくなって、竜海にまた会ってくれるかどうか聞きました。すると、竜海は、「それは、もちろん。」と言いました。私が、駅に入る竜海の背中をずっと見守っていたのを気にも留めず、竜海は、進み、いずれ見えなくなりました。


 私は、最初、「竜海の周りにいた人間の一人として、竜海のことで分かったことがあり次第、日記に竜海の記録を残します」と書きました。それが段々と、欲張りになって、竜海に会いたい、竜海を愛していると、先走っていました。それは、私が、中学生の時の初恋を引きずっていたからに他ならないと思います。私は、12月27日、そんな自分がようやく死んだのだ、と思います。竜海を追悼するような気持ちになっていた私ですが、結局、葬られたのは、私なのでしょう……。

 「竜海日記」は、結局、私が私のために作り出した「私日記」だったのでしょうか。だから、私の死をもって、終わってしまうと分かるのでしょうか。

もし、誰か今の竜海のために、日記を書きたいという人がいたら、その方に私の形見として、この日記を渡したいと、そう思っています。


終わり


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