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竜海日記  作者: 梅子
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12月22日 罪と竜海①

 彼女は、私の動転ぶりに、一瞬、切れ長の憂鬱そうな目を見開いて息をのんでいました。しかし、すぐに我に返って、「助かったわ!もちろん、竜海は生きているわよ。」と叫びました。私は、その言葉に安心したはずでしたが、自分があまりにも衝動的に彼女に感情をぶつけてしまったことに自分でも驚いて、まだ、体のあちこちに鼓動を感じていました。私は、意識的に息を長く吐いて少しでも落ち着こうとしましたが、なかなかうまくいきませんでした。彼女は、私の様子に頼りなさを感じて、少し苛立っているようにも見える顔をしていましたが、何も言わず座っていました。私は、呼吸が少し緩くになってきたのを確認してから、ようやく席につく始末でした。彼女は、私が座ったのを見て、少しして、また話し始めました。

 竜海はね、病院の植え込みに落ちたのと、夫がすぐに処置したので、一命を取り留めたの。本当に運が良かったわ。その後、意識不明の状態が数日続いたそうだけど、あの子、やっぱり強い子よね、意識を取り戻した……。(この時の彼女は、演技をしているのかと思うほど、朗らかな顔をしていた。)

 私は、2週間くらいして退院したの。夫が、竜海を返したっていう施設に連絡しようかとも思ったけど、結局何もできなかった。夫の反感を買ってまで、竜海を取り戻す勇気も、体力も、その時の私にはなかったの。でも今思えば、竜海はその時、まだ病院にいて、リハビリとか検査とか、一人でやっていたのよね。私、それを思うと今でも……。(この時の彼女は、演技をしているかと思うほど、可憐に涙を浮かべていた。)

 ようやく私が、竜海の本当の行方を知ったのは、出産した後だった。生まれた子供は、女の子だったの。そしたら、義父も義母もがっかりした感じで、「女の子じゃ跡取りにはならないわね。」と言ったわ。夫も、竜海のことで、さんざん苦労して、メンツを潰されたように思ったのかしらね、義父母の批難に乗っかって、私に辛くあたるようになった。それも怒鳴り散らすとか、暴力を振るうとかじゃなくて、ねちねち、ねちねち、私を否定するの。私が男に媚びているとか、学生の分際で子供を産んで、そんな無責任な人間に、娘を任せたくないとか、あとは、竜海の父親について……。実は、夫は、竜海の父親と大学が一緒で、顔くらいは知っている仲だったみたいなの。竜海の父親は、目立つ人だったから、夫は一方的にいろいろな噂を耳にしていたみたい。あんなだらしない男の子供を産んだなんて、お前はあばずれだ、とか毎日、毎日、言われたわ。

 竜海のことを聞いた日も、そんな日だった。夫は、娘をあやしている私に、軽蔑した感じで話しかけてきたの。最初は、いつも通り、私への人格否定だった。でも、あるきっかけから、「お前の息子は、今頃、俺の家の金で、乱れた生活を送ってるんだろうよ。」って、あの人、言ったのよ。私は、驚いたわ。今までは、夫が何を言っても黙って聞いていたけど、その時ばかりは「どういうこと?」って聞き返した。そしたら、「お前は、母親のくせになーんにも知らないんだよな。あいつはな、勝手に自殺未遂した挙句、賠償金を取って、病院を飛び出したんだよ!」って、彼は怒鳴るように言ったわ。私は、「自殺未遂……、ねぇ、何言ってるの?」って聞き返した。そしたら、「お前が、入院したその日の夜に、あいつは病院の窓から飛び降りたんだよ。そのせいで俺は、警察にまで事情を聞かれるし、最悪な目にあったんだよ!」と、すごい見幕で言われたわ。私は、あまりのことに、目の前が真っ暗になるように感じたわ。それで、もう泣きながら夫に、「どうして言ってくれなかったの?ねぇ、どうして、酷いじゃない!」って掴みかかりながら言ったの。そしたらあの人、私を突き飛ばして、「だって、その時には、まだ俺の子供が、お前の腹にいたからな。お前がいくら悲しむのは構わない。でもそのせいで、俺の子供がだめになるのは、許せないだろ!でも、結局生まれたのは女か。お前は、どこまで役に立たないんだよ!」って。私、もう、全てが嫌になったわ。飛び出そうとした。そしたら、夫は、私の腕を引っ張って、さらに言ったの。「おい!お前の息子はな、同じ塾の女子生徒3人に手を出してたんだぞ。しかもな、塾の講師とも関係を持ってたって言うじゃないか。俺は、お前の息子の不始末を全て金で処理してやったんだぞ。返せ!」

 私は、もう本当に絶望したわ。とのかく夫の手を振り解いて、家を飛び出した。ドアが閉まる直前、娘の泣き声が聞こえたわ。


続く


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