12月22日 実母夫婦と竜海
私は、不愉快さという自分の感情を再び抑えながら彼女に向き合いました。彼女は、弱弱しく、しかし、ここまで話してしまったら、もはや話し切るより他はないとの芯を持ち始めたようで、話し続けました。
夫が、どういう手を使って、竜海を私の元に戻してくれたかは分かりません。産みの母親と言っても、もう15年近くもあの子とは会っていなかったの。私には、何の権限もないはずだった。けれど、私の夫は、代々続く医者の家の子で、いろいろなところに顔が利くし、児童福祉関係の施設の経営にも家が関わっていることもあって、きっと、うまく取り計らってくれたのね。
とのかく、引き取ると決めてから少し時間は経ってしまったけど、竜海と私たち夫婦は、家族として暮らすことになったの。竜海は、再会の時に見せた姿とは打って変わって、嘘みたいに殊勝な様子になって、夫にも全く反抗らしいことはせず、ただおとなしく生活していたわ。とりあえず、地元の中学校に籍は置いたけど、今更、通うことは難しいから、塾に通って、高校受験の勉強をさせたの。夫は、教育熱心で、厳しい塾に竜海を入れたわ。あの子、辛そうな感じもなく勉強をこなしていた。成績表が出たら、夫に手渡すの。いつも良い点数ばかり。夫は、「さすがは、君も医者の子だね。」と言って、あの子を褒めたわ。そう褒められると竜海、夫に遠慮するのかしら、育ての父親が、実の父親、彼は医学生だったけど、のことを言っているのかと気を回して、下を向いて黙ってた。そんな時、夫はたいてい、私に「この子のために、好物を作ってやりなさい。」と指図して、竜海の肩を優しく叩くの。
話を聞きながら、私は、この家族の歪さを思いました。表面上では優しく竜海に接していますが、そこには、親を演じる大人の、子供を見下した哀れみの情や身勝手な責任感、自己陶酔が、覗き見えるだけです。間もなく、彼女の口から語られるであろう、この家族の崩壊を、私は待ち望むような気持ちにもなり、それでいて、なにかひどく怯えていました。
続く




