12月22日 実母の話す竜海③
私の中にも、当時の竜海が感じていたと思われる、目の前の彼女を憎み、責め立てたくなるような気持ちが、徐々に、ですが、確実に溢れてきていました。その気持ちが、自然、鋭くなってしまう目から溢れ出てしまわないよう、私は、必死に自分の気持ちを落ち着かせました。震えそうな声を抑えながら、私は、聞きました。「結局、竜海のことを引き取ることは、できたんですか。」
彼女は、私に向けて、悲し気な薄い笑いを見せました。いや、状況から考えて彼女は、笑ってはいなかったのかもしれません。しかし、もし、本当に笑みを浮かべていたとしたら、この顔こそが絶望を前にした人間の顔なのかもしれない、そう感じさせられるような悲しい顔でした。私は、この顔を前に、二の句が継げませんでした。彼女は、暗い夜道に何の灯も持たず迷い込んで行くように、頼りなく語り続けました。
私は、家に帰ってすぐ、夫に竜海のことを話したわ。痣のできた顔で泣き崩れる私を見て、夫は、怒りとも悲しみともつかない、とのかく混乱した様子だった。「君に子供がいたなんて。どうして、もっと早く話してくれなかったんだ。」って、彼は珍しく、今更どうにもならないことを言った。彼は、もともと優しい人なの。私を感情的に怒鳴りつけることなんて一度もない。そんな人を苦しめているのが、死ぬほど辛かったわ。彼は、「少し考えさせてくれ。」と言って、私を一人置いて、書斎に行ってしまった。その時、私は、涙がこのまま止まらないのではと思うほど、夜通し泣いたわ。
次の日の朝、彼は、リビングに入るなり、床で倒れていた私を抱き起して言ったの。「引き取ろう。」って。「君の子なら、当然、僕たちで育てるべきだろう。」って。私は、彼の胸に縋り付いて、何度も謝りながら泣いたわ。
この時点で、私は、話の展開に何とも言えない不愉快さを感じました。彼女が、息子のことを思っているようで、完全に自分の結婚生活を、夫を優先するような母親であることは、私にも分かり始めていました。そんな母親と、竜海からしたら赤の他人の夫が住む家に、竜海が引き取られる流れに落ち着きそうなことに、どうしても不自然さを感じずにはいられませんでした。
竜海は、生きる居場所を求め続けていたはずです。多くの女の子と関係したのだって、きっと完璧でいるのが苦しかったからだと思います。完璧でいないと自分の生きている価値を証明できないと感じ、日々努力して、それでも、苦しくて仕方なかったから、人を支配し、傷つけざるを得なかったのではないかと……。
私は不穏さを感じながら、彼女の、竜海の母親になってしまった女の話に耳を傾けていました。何だか、竜海の追悼をしているような気持ちがしてきたのは、自分でも不吉すぎて、嫌になりました。
続く




