12月22日 実母の話す竜海②
彼女は続けました。
竜海と母親として再会できたのは、1、2ヶ月した頃だった。あの子が、私に気付いたの。
ある月の明るい日、私は、学習室に一人でいたあの子を見付けたの。あの子の頬は、月明かりを宿して、静かな光に染まっていた。息子に見惚れるなんておかしいけど、本当に美しかったわ。そしたら突然、あの子は、「あなたは、僕の母親なんですか。」と私の目を真っ直ぐに見て、聞いてきたの。私は、呆然としたわ。咄嗟に周りに人がいないか気になって、視線をあの子から外した。そのわずかな間に、あの子、音もなく、私の顔にぶつかるくらい自分の顔を近付けて、「答えろ。」と言ってきたの。あの子の顔は、月を背にして、とても暗くなっていた。影が話しかけてきているみたいだった。私は、何だかそら恐ろしくなって、「ごめんなさい。」と言った。多分、涙ぐんでいたと思う。そしたら、あの子、暫く私を見ていたと思ったら、私を突き飛ばして、馬乗りになって、私の首に長い指をかけたの。怖かったわ。(この話をしている時、彼女は、自分の首に触れていました。彼女の顔は本当に青白くなっていました。)
私は、殺されるかと思った。あの子は、とても静かで淑やかだったけど、近くで聞こえる息は荒かったから。「僕にものを渡す時の、あなたの手が震えていたから……、分かったんだ。」
あの子は、私の首に指をかけたまま、そう言ったわ。そして、首から、私の顔を包むように指を運んで、続けて言った。「僕を引き取るつもりはないの?今からでも償う気持ちは?」
私は、そうできればどれだけいいかと思った。でも……、でもその時の私には、竜海を引き取る覚悟は固められなかったの。
「どうしてですか!」私は、思わず口を挟んでしまいました。何だか、彼女の言葉は、竜海を思っているようで、どこか距離を感じるものだとずっと感じていたからです。すると、彼女は私を見て、前述の、少し挑戦的にもとれるような、それでいて、とても苦し気な表情をしました。けれど、彼女は、すぐに諦めたように下を向いて、また、話し続けました。
私は、その時にはもう、ある医師と結婚していたの。その人には、息子がいることを話していなかった。だから、竜海を引き取ることは考えられなかったの。あの子は、私が「今は、引き取ることはできないの。」と言うと、「なぜ?」と即座に聞いたわ。彼は、足で私の身体を締め付けて、手で私の頭を掴んだ。私は、もう正直に話すしかないと思って、「結婚してるの。」と答えたわ。そしたら、竜海、何も言わずに顔を背けたかと思ったら、私の頭を床に叩きつけて、痛がる私の頬をさらに殴った。そして、「僕の父親は?」と血走った目で聞いてきたの。私は、言いたくなかった。けど、事実を言うしかなかった。竜海の父親は、竜海が生まれた2年後に、バイクの事故で亡くなっているの。後ろに乗っていた女性と一緒に……。竜海、それを聞いたら、静かに涙を流していたわ。開けっ放しの赤い目から、涙が落ちたの。涙を手で拭きながら、「じゃあ、あなたが僕を引き取ってください。」と言った。私は、「夫にあなたのこと、話せない。」と答えるしかなかった。そしたら、竜海、呆れ切ったのかしら、少し笑って、「あなたの夫に、息子がいることを話して、別れることになったとして、当然の報いだとは思いませんか。」と言った。「いや、それでも、あなたが許されることはないでしょう!僕を産んで、捨てた、あなたの罪は。」とも……。
彼女の話を聞くなかで、竜海が母親に、自分を「産んで」、捨てたことを、罪として償えと言っていることに、私は、引っかかりました。竜海の苦しみは、ここにあるのでは、という気がしたのです。駿に「生きている価値」がないと言った竜海は、自分にその価値があると思えていたのでしょうか。そもそも、生まれなければよかった、自分を産んだ母親なんていなければよかった、と思うほど毎日が辛かった、それが竜海の心の内だったのではないでしょうか。
竜海を思うと、私も泣かんばかりでした。




