第九章:鎖が語る時…炎は応えた
空気は赤い…いや、空気ではない。燃え盛る大地の奥底から立ち上る熱い息だ。
真ん中に…「彼」が立っている。
人間よりも背の高い生き物。半分は細長い影、もう半分は皮膚の下で燃える炎。黒い瞳は、彼が見つめると奇妙な赤に輝く…
彼は見知らぬ少年を抱きかかえ、まるで生から引きずり出されるかのように震えている。
彼は片手で少年を持ち上げ、もう片方の手で…指を彼の胸に突き刺す。
血は出ていない。魂の煙のように、白い閃光が体から立ち上る。
そして、その存在は…彼を飲み込む。
少年は崩れ落ちる。落ちるのではなく、重い空気の中を漂う光る灰と化した。
そして彼はケアンを見る。
人間とは思えない視線。そこに怒りはなく…あるのは知識だけ。
そして:
> 「遅かったな。」
声が彼の心の中で脈打つ。
そして突然…
大地が爆発する。
空が燃え上がる。
そしてケアンは虚空へと落ちていく。
ケアンは落ちていく…
虚空へではない。
彼自身の中へと。
まるで外からの落下ではなく…内なる崩壊のようだった。
彼は自分の心臓の響きを聞くことができた…しかし、それは人間の心臓の音ではなかった。
重い音…三重の脈動…まるで彼の中の三つの魂が同時に地面を叩いているかのようだった。
> ノック…ノック…ノック…
そして…
ケアンは立ち上がる。
しかし今度は…巨大な石造りの部屋の中で。
天井から鎖が垂れ下がり、壁には彼の知らない言語で刻まれた看板がある。だが、どこか見覚えのある…恐ろしい…まるで彼の肌が知っているかのように、たとえ心では分からなくても。
そして部屋の真ん中には…
少女が鎖につながれている。
彼女の顔は毛で覆われている。
彼女の脚はむき出しで埃まみれだ。
彼女の手首と足首には鎖がぴんと張り詰めており、まるで縛られているだけでなく、釘付けにされているかのようだ。
ケアンが近づく。
近づくにつれて、彼の胸は熱くなる。
少女は動かない。
しかし、彼女の体は震える…
そして、突然、彼女は頭を上げた。
そして…
ケアンは凍りついた。
彼女が恐ろしいからではない。
彼女が彼に似ているからだ。
彼女は彼の双子ではない。
しかし、その顔立ちは見覚えがある…
彼女の顔は、まるで誰かが自分の顔を「反転」させたかのようだ。
彼女の表情は…悲しげだ。
そして、彼女の声は…ささやくように響いた。
>「遅かったわね。」
>「また。」
>「私を…ここに置いていったの?」
ケアンは混乱した。
-「あなたは誰だ?!」
>「私が、あなたが否定する者です。」
>「私が、ドアに鍵をかけられた者です。だからあなたは話せません。」
>「私が、あなたが生まれる前に焼かれた者です。」
彼女の周りの空気が揺れ始める。
鎖が動く。
そして部屋が溶け始める。
ケアンは頭を抱える。
-「もうたくさんだ…もうたくさんだ!!」
少女は叫ぶ。
>「ドアを開けて!」
>「あなたが鍵だ!」
>「開けろ!!」
その時…
地面から何かが現れる。
赤い炎、炎のような…だが顔がある。
何かの顔…半分頭蓋骨、半分炎。
顔は少女を、そしてケアンを見て、こう言う。
>「もう時間はない。」
その時…
夢が爆発した。
ケアンはまるで空から叩きつけられたかのように、現実の体へと叩きつけられた。
ケアンは目を開けた。
ゆっくりと。
薄暗い光、頭上には木の天井、そして奇妙な匂いが漂う…まるで長い間使われていない部屋だが、あまりにも清潔すぎる。
彼は動こうとしたが、体が重く感じられた…まるで誰かが睡眠と鉛を同時に注ぎ込んだかのようだった。
その時、声が聞こえた。
会話…かすかな声だが、壁を突き抜けるほど明瞭だった。
「おかしいな…第6地区だけじゃないんだ。」
「どういう意味だ?」
「第4地区が…凍り始めた。文字通り。何もかも…止まった。」
「凍りついた!?」 「ええ。数分のうちに雪がすべての建物を覆い尽くしました。生存者も何人か見つかりましたが、彼らはショックを受けていましたが、残りは…どこへ行ったのか誰も知りません。彼らは姿を消したのです。」
「シックスからも生存者はいるのですか?」
「数人…予想外です。」
ケアンは静かに息を呑んだ。
起き上がろうとしたが、腕にチクッとした痛みを感じた。見ると…チューブに小さな針が繋がれていた。彼はとても快適なベッドに横たわり、清潔な白いシーツに包まれていた。まるで第六地区の病院とは思えない光景だった。
何もかもが…とても清潔だった。
とても奇妙だった。
彼はゆっくりと口を開いた。嗄れた声で。
「ここは…どこだ?」
二人の声がドアの後ろで途切れた。
そして足音が聞こえた。
ドアが静かに開いた。
40代くらいの、黒髪に白髪の男性が、16歳くらいに見えるもう一人の若い男と一緒に入ってきた。微笑みながら、じっと見ていた。
男は近づき、毅然とした声で言った。「そのままでいなさい。容態がまだ安定していないのです。」
ケアンは二度瞬きした。
それが誰なのかは分からなかった。
しかし…その笑顔は見覚えがあった。
彼は隣に立つ若い男の方を向いた。
若い男は眉を上げて言った。
「また会ったか、ケアン。」
ケアンは囁いた。「レイナー…?」
レイナーは微笑み、自分の胸を指差した。
「ポイント・エリー。災害の後、私に気づいてくれたのはこれで二度目だ。」
男は言った。「私はエラム博士。アッパー・シティの緊急対応責任者です。」
「爆発後、あなたは…意識不明の状態で発見されました。容態は不安定で…異常な熱気が発せられていました。」
男はしばらく彼を見つめた。
「地面をほとんど焼き尽くすほどの熱でした。」
ケアンの目は大きく見開かれたが…何も言わなかった。
レイナーが口を挟んだ。
「心配するな。誰も何も変なことは見ていない。君の周りのほとんどの人は亡くなり、生き残った者たちも…何も見えない状態だった。」
ケアンは嗄れた声で言った。
「アリシア…ネロ…?」
エラム博士はレイナーを見た。
レイナーは頭を下げ、そして言った。
「アリシア…は安全な場所にいる。怪我はしているが、比較的元気だ。ネロは…」
彼は黙っていた。
ケアンは毛布を引っ張った。
「彼はどこにいるんだ?」
レイナーはゆっくりと首を横に振った。
「彼は見つからなかった。」
皆が数秒間沈黙した。
それからエラム博士は手にしたファイルを見ながら言った。
「ケイン…何か覚えているか?」
「何か起こったのか?」
「何か変わったものを見たのか?」
ケアンは彼の顔を見た。
彼は答えなかった。
どうやって夢のことを話せばいいのだろう?
どうやってあの少女のことを話せばいいのだろう?
あの炎のような生き物のことを?
胸の中で叫ぶ声のことを?
暗闇の中で燃える目のことを?
彼はただ…目を閉じた。
それから彼は静かに言った。
「眠っていたんだ。」
二人は素早く視線を交わし、ドクターは静かに去り、レイナーとケアンは二人きりになった。
レイナーはベッドに近づき、彼の隣の椅子に座り、ささやいた。
「僕は…大きなことが起こっていると思う。そして、誰もそれが何なのか理解していない。」
それから彼は口を半分開けて微笑み、付け加えた。
「でも、少なくとも…君がいる。」
ケアンはレイナーに答えなかった。
彼は天井を見つめた。まるで、これまで経験したことのないこの現実から逃れようとするかのように。
しかし、逃げ場はなかった。
胸の熱は依然として残っていた…静かに、だが冷めようとしない残り火のように。
その時…ドアを軽くノックする音がした。
ためらいのないノックだった。
ドアはゆっくりと開いた…許可も待たずに。
男が入ってきた。
背が高く、重厚な存在感を放っていた…まるで身動き一つせずに部屋を満たしているかのようだった。
彼はシンプルな紺色の服を着ていたが、彼のあらゆる特徴が「単純」ではないことを示唆していた。
彼の足取りは慎重だった。
彼の目は奇妙な色だった…灰色と琥珀色の中間のような。
彼はベッドの端で立ち止まり、静かで訛りのない声で言った。
「こんにちは、ケアン」
ケアンは瞬きをし、そして彼をまっすぐに見つめた。
心の中で:
この人は誰だろう?なぜか彼の声を聞くと、まるで見覚えのある気がする。
男はまるで質問を聞き取ったかのように軽く眉を上げた。そして続けた。
「気分は良くなったか?」
彼は少しの間沈黙し、それから軽く微笑んだ。
「きっと私が誰なのか気になっているだろう。」
彼はレイナーの椅子に腰掛け、そしてはっきりとした口調で言った。
「私の名前はレイデン・レダントです。」
「今日から…私があなたの世話人になります。」
彼はケアンの胸を指差した。
「私が医者で、監視者で、上層都市の役人だからというだけではありません。」
「あなたの中にあるものは…それを監視し、封じ込め…あるいは、必要ならば目覚めさせる方法を知っている者を必要としているからです。」
ケアンの顔色が青ざめた。
彼は黙った。
「あなたの中にあるものは…?」
彼は夢のこと、少女のこと、それとも炎の生き物のことか?声のこと? 目のこと?
しかしリードは返事を待たなかった。
彼は同じ口調で続けた。
「私はトレーナーだ。ただのトレーナーじゃない。」
「私は…稀なケースを相手にしてきた。」
「人間が見るべきではないものを見た人たち。」
「私と似たような経験をした人たち…」
それから彼は少し身を乗り出し、とても低い声で囁いた。
「でも、君のような人は一人もいなかった。」
ケアンは冷や汗が首筋を伝うのを感じた。
この男の発する言葉はどれも計算高く…その緻密さが恐ろしいほどだった。
「俺に何が起こっているんだ?」
彼はかろうじて口から出た言葉のように囁いた。
リードは彼を長い間見つめ、そして言った。
「これは…一緒に考えてみよう。」
「でもまずは、君が決めなければならない。」
彼は指を立て、胸を指差した。
「理解したいか?」
「なぜ今、自分が生きているのか知りたいか? 皆が生きているのに?」
「燃え尽きないようにする方法を学ぶ準備はできているか?」
それから彼は立ち上がった。
彼は短いジャケットをまっすぐにした。
「準備ができたら…明日の夜明けから訓練を始めよう。」
彼はドアの方へ歩み寄り、立ち去る前に振り返って言った。
「だが、準備ができていなくても…大丈夫だ。」
「準備ができている者が…君を連れ去りに来る。」
それから彼はドアを開け、出て行った。
音もなく。
跡形もなく。
ケアンは一人残された。
顔に灯りがともっていた。
胸はまだ熱かった。
そして彼の目は…火事の前とは違っていた。
> 外では、窓からかすかな風が吹き込んでいた。
しかし、寒くはなかった。
暖かかった。
とても暖かかった。
まるで、内側の何かがまだ燃えていることを思い出させてくれるようだった。