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第八章:壁を越えて…そして壁の下へ



「上に行くか?」ケインは壁の端に立てかけられた金属製の梯子を見つめながら言った。鉄は錆びついていて、まるで一世紀も触れられていなかったかのようだったが、それでもまだ立っていて、夢想家のように空を見つめていた。


アリシアは彼を見て、梯子を見て、そして片方の眉を上げた。


「壁のことか?」


「ええ。」

彼は軽く微笑んだ。「レイナーの出身地なら…見てみたい。」


「一番下まで行けなくても?」


「構わないわ。ただ…何か違うものを見たいの。この忌々しい近所の何もかもとは違うものを。」


彼女は彼の顔を少しの間見つめ、まるで決断を迷っているかのようにしてから、頷いた。「じゃあ…上へ行きましょう。」


梯子の段々が、重さか、それとも記憶か、呻き声を上げているかのように、きしんだ。

しかし彼らは登り続けた。


そして頂上に着いた時…

彼らは何も言わなかった。


アッパーシティが目の前に広がった。家々が整然と並び、壁は輝き、木々はまるで枯れることなくまっすぐに立っていた。


「素晴らしい…なんて美しい…」アリシアは驚きのあまり、目を輝かせながら言った。


ケアンは答えなかった。


彼は地平線を見つめ続けた。まるでこれがまた夢ではないと信じようとするかのように。


そして彼は呟いた。


「ここは…別世界だ。」


その時…

彼らの背後で微かな音が響いた。


轟音。


そして悲鳴。


そして…爆発音。


第六地区の中心部から突然煙が上がり、赤い閃光が走り、壁全体を揺るがす衝撃波が走った。


アリシアは慌てて振り返った。「あれは何だったんだ?」


ケアンは答えずに階段に向かって走り始めていた。


彼らは急ぎ足で降りていった。


どの階段も、ほとんど最後の階段だった。


そして地上に着いた時…

地獄が始まった。


通りはもはや通りではなくなっていた。


家々は燃えていた。


壁はひび割れていた。


そして人々は…叫んでいた。


血。


子供たちの叫び声。


焼ける人肉の臭い。


右隅には、首のない女性の遺体があった。


真ん中では、小さな子供が片手で這いながら、「ママ!!」と泣き叫んでいた。


そして路地の奥には…瓦礫の中から、じっと動かない人間の手が突き出ていた。


ケアンは叫んだ。「ネロ!!ネロ!!!」


アリシアも彼と一緒に叫んだ。「ネロ!!どこにいるの!!」


彼らは煙と灰の中を走り抜け、捜索し、叫び、叫び、死体につまずきながら。


しかし、何の気配もなかった。


10歳の少女が、血まみれの口と生気のない目で彼らに向かって走ってきた。彼女はケアンにぶつかり、そのまま走り続けた…まるで彼を知らないかのように、まるで誰ももう誰も知らないかのように。


カイレンは右を見…左を見…息を荒くした。


「ネロ…どこにいるの?!」


アリシアは地面に倒れ込み、膝をついて這い、瓦礫の中を捜し、すすり泣きながら「ありえない…ありえない…」と呟いた。


煤まみれの男が彼らの間を歩いていた。半分火傷を負い、何も言わず、ただ歩いていた…そして突然、音もなく倒れた。


第6地区はもはや存在していなかった。


集団墓地と化していた。


あるいは、もっとひどい状況だった。


カイレンは地面に倒れた子供の顔を見た…一瞬、ネロだと思った。駆け寄り、震える体をひっくり返した…しかし、違った。


それはネロではなかった。


しかし、その類似性は痛ましいものだった。


煙にもかかわらず、彼は再び走り出した。涙目だった。


「ネロォォォォ!!!」


「答えろ!! どこにいる!!」




アリシアは彼の傍らにいた… それまでは…


… それまでは…


突然、何の前触れもなく、崩れ落ちた建物の一つの壁の一部が崩れ落ちた。


巨大な岩がハンマーのように叩きつけられた…


岩はアリシアの足を直撃し、その衝撃は瞬時に崩れ落ちた。


彼女は大きく、荒々しい叫び声を上げた… しかし、それは消え去った。


彼女の声は混沌に飲み込まれた。


叫び声と崩壊の音は、彼女の叫び声よりも大きく響いた。


炎、死体、次々と崩れ落ちる… すべてが悲鳴を上げていた。


アリシアは地面に倒れたまま、叫び声を上げ、手を伸ばし、這おうとし、這い上がろうとしたが、痛みはあまりにも激しかった。


岩は鉄の鎖のように彼女の足を締め付けた。


そして、血が…勢いよく流れ出た。


「カイレン…」


彼女は声を詰まらせながら囁き、彼に見てもらうために頭を上げようとした。


しかし、誰も振り返らなかった。


周りの誰もが違う方向へ走っていた。


地獄はどこへでも広がっていた。


アリシアは両手で岩を押しのけようとした。


彼女は泣いた。


彼女は叫んだ。


彼女は手で這い進み、地面をひっかくと爪が折れた。


「ケアン…ネロ…どこにいるの?」


突然、近くの壁から木片が落ちてきて、彼女の頬の近くの土を貫き、彼女は身震いした。


近所全体が敵だった。


そして空は…見えなくなった。


彼女が体を起こそうとしたとき…血で手が滑った。


彼女の頭が地面にぶつかった。


彼女は自分が回転しているのを感じた…そして、何も見えなくなった。


彼女は目を閉じた。


疲労からかもしれない。


出血からかもしれない。


あるいは…現実から。


第六管区のどこかで、ケアンは休むことなく走り続けていた。


視界はぼやけ、足元の地面は不安定で、彼の体内には炎が燃えていた。


比喩的な炎ではなく…文字通り、彼の魂から燃え上がり、燃え盛る炎だった。


また叫び声が…右から。


彼は走った。


残骸だ。


彼は中央に戻った。


若い男の体が燃え、笑っていた。


彼は背を向けた。


子供が瓦礫の上を歩いていた…裸足で…白目をむいた。


「ネロ…ネロ!!!」


しかし、誰も反応しなかった。


ケアンは崩れた壁に向かって走り、その上に登り、辺りを見下ろした。


その光景?世界の終わり。


道は分断され、死体が散乱し、ヒステリックな声が死の合唱のように空気を満たしていた。


**


「ネロ、どこにいるんだ…? どこにいるんだ…?」


その時…


ケアンは膝から崩れ落ちた。


呼吸が荒くなった。


手が震えた。


すべてがゆっくりと動き始めた。


血、炎、人々の叫び声、散らばる死体…


すべてが冷たく感じられた。


ただ一つだけを除いて。


彼の胸。


まず…チクッとした痛み。


それから熱さ。


それから…本物の炎。


「あああ!!」


ケアンは突然、胸を押さえて叫んだ。まるで燃え盛るナイフを肋骨に突き刺されたかのようだった。


膝を地面に打ち付け、爪が土に食い込んだ。


「一体…何だ…!?」


**


その時…声が聞こえた。


静か。


深い。


何か言い表せないものに満ちている。


誰かの声…彼の内側に。


> 「起きろ。」


ケアンは息を呑んだ。


-「な、…誰だ!?」


>「俺はいつもお前を見ていた。お前のまぶたの裏に…叫び声の裏に…恐怖の裏に。」


それから…彼の体温はさらに上昇した。


彼の皮膚がひび割れ始めた。


彼の体内から…鈍い赤い光が、まるで頭蓋骨が燃えているかのようだった。


-「もうたくさんだ!!!」


彼は叫び、周囲で石が砕ける音がした。


>「もうすぐ…鎖は断ち切られる。」


>「そしてもうすぐ…お前ではなく、我々だ。」


彼の足元の地面がひび割れ始めた。


人々は彼から逃げ始めた。


そのうちの一人が叫んだ。

-「あの少年…目が…燃えている!!」


しかし、ケアンはもう何も見えなかった。


彼に見えたのは火だけだった。


記憶の中の火。


骨の中の火。血に…炎が燃えていた。


> 「私の名前を覚えていろ…たとえまだ準備が出来ていなくても…」


> 「…エネル。」


ケアンは息を呑んだ…最後にもう一度。


そして…


彼は出て行った。


彼は地面に倒れた。


目は開いていたが、光はなかった。


そして遠くに…


背の高い影が彼を見ていた。


彼は粉々になった建物の屋上に立っていた。


彼の顔は白い仮面で覆われ、小さく歪んだ笑み以外何も見えなかった。


アリシアの傍らで:


彼女は一瞬目を開けた。


片目だけだった。


炎が彼女の周囲を燃え盛らせ、煙が彼女の胸を満たし、彼女の足元の血が上昇した。


そして彼女は背の高い影を見上げた…数歩先に立っていた。


それは人間ではなかった。


それは怪物ではなかった。


それは…その中間の何かだった。


彼女はかすかに口からこぼれる声で呟いた。


-「アーカム…あなた?」


「この瞬間を待っていたの…アリシア。」



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