第七章 誰も目を開けなかった瞬間
空が赤く染まる。いや、空ではない。まるで火穴から息を吐くかのように、熱い空気が地面の上で脈打つ。
荒い呼吸の音。人間ではなく、生き物の吐息のようだ。
そしてその真ん中に…「彼」が立っている。
彼はケアンがこれまで見たどんな男よりも背が高い。体の半分は砕けた影に覆われ、もう半分は内側から燃えているようだ。皮膚はひび割れ、溶岩のような色に輝き、目は真っ黒…ただ、彼が見つめると赤い光が現れる。
彼は震える人物を掴む。顔のない少年が、声もなく叫びながら、逃げ出そうとしている。
しかし、その生き物はひるまない。
彼は片手で少年を地面から持ち上げ、もう片方の手で少年の胸に指を突き刺す。
皮膚が破裂し、骨が悲鳴を上げる。しかし、血は出ず、白い光が煙のように漏れ出るだけだった。まるで魂が吸い出されるかのようだった。
静かな叫び声が空気を切り裂く。音はないが、まるで夢の中でケアンの胸を揺さぶり、肋骨を内側から叩きつけているようだった。
吊るされた少年は痙攣し、目を見開き、口を意味もなく歪ませる。白い閃光が彼の胸から手へと、そして炎のような存在へと伸びていく…炎のような存在は瞬きもせずに光を飲み込む。
そして次の瞬間、吊るされた体は崩壊する。
いや、落ちるのではない。文字通り、燃え盛る灰へと崩壊し、まるで空気が死を許さないほど重く、ゆっくりと吹き飛んでいくかのように。
炎のような存在は彼を見つめる。人間の目ではなく。死んだような目で…まるであなたの内面を覗き込み、吟味するかのように。「あなたも焼かれるに値するのか?」
ケアンは息を呑む。彼は動かない。動けない。両足は地面に踏みしめられ、その光り輝く黒い瞳から目が逃れられない。
そして、その存在は…微笑む。
邪悪な笑みではなく、もっと悪い何か。
感謝の笑み。
まるで「君を知っている。君が私を知らなくても」と言っているかのようだった。
彼の心の中で、口のない声が響く。
>「遅かったな。」
そして…
全てが爆発する。
地面が割れ、空が燃え、空気が燃え盛るナイフに変わる。
ケアンは倒れ、金属の何かにぶつかり、次に粘土の何かにぶつかり、次に脈打つ何かにぶつかる…そして何もなかった。
そして…暗闇。
ケアンは息を切らして目を覚ます。
背中はパースピリットでびしょ濡れになり、まるで1時間も走り続けたかのように呼吸が速かった。彼は部屋を見回し、隣に座り、水の入ったグラスを手にしたアリシアに視線を留めた。顔は青ざめていた。
彼女は低い声で言った。「ケアン…大丈夫?」
彼はすぐには答えなかった。手を伸ばしてグラスを取り、飲み干すと、呟いた。
「わからないけど、何か理解できないものを見たような気がするんだ。」
彼女は眉を上げた。
「どういう意味?」
「男を見たんだ。変な顔をした男だった…ある意味、人を殺していたんだ…」
彼は少し間を置いてから続けた。
「恐ろしい。心のどこかで『これが私だ』と叫んでいたのに、『ありえない』と叫んでいた。」
彼女は彼に寄り添い、静かに言った。
「私たちは毎日夢を見ている。でも、あなたの夢は他の人よりリアルなのよ。」
―「分からない…でも普通じゃない。まるで自分が何をしているのか分かっているようだった。そして彼の目には…生気も慈悲もなかった。」
ほぼ同時に、別の場所で…
レイナーは副総督である父親の部屋に立ち、心配そうな目で彼を見つめていた。
彼は言った。
「先週は地獄だった。第六地区は…普通じゃない。」
父親は新聞から顔を上げて、重々しい声で言った。「どういう意味だ?」
「人々がわめき散らし、叫び、奇妙な死に方をした。まるで病気ではなかったかのように、突然倒れる男性も見た。」
副総督はゆっくりと息を吸い、平静を装おうとしたが、声にはそれが露呈していた。
「第六地区はいつも問題を抱えている。君も知っているだろう。」
「いや、問題ではない。これは別のものだ。何かが静かに広がり、内部から人々を奪っている。誰かが何が起きているのかを見なければならない。」
「誰を勧める?医者か?」
「いや。雷電教授が必要だ。何が起こっているのか理解できるのは彼だけだ。」
副総督は椅子に深く腰掛けた。
「雷電?あの狂人?」
「狂人じゃない。賢い。それに他の連中とは違って…彼は話を聞く。今すぐ誰かを呼ばなければ、第六地区は大惨事になる…ほら、そこから始まったら、こっちにまで影響が及ぶかもしれない。」
夕暮れが近づくと…
何の前触れもなく、すべてが変わった。
咳は止まり、空気が再び動いた。壁の落書きさえも、まるで最初からそこになかったかのように消えた。人々はためらいがちに窓を開け、半分眠ったような、半分怯えた目で外を眺めた。
ケアンはアリシアと一緒に通りに出た。
近所は…普通だった。
疑わしげな様子で。
ネロは彼らの家の近くに立ち、ぬいぐるみを抱きしめて微笑んでいた。
彼は言った。
「静寂が戻ってきた。」
アリシアは呟いた。
「でも、どうして急に?」
ケアンは答えなかった。
しかし、彼はノートにこう書き記した。
>「本当の危険とは? 悪夢が理解できないうちに消え去ること。まるで何もなかったかのように、まるで狂ったかのように、人生が戻ってくること。」
狂気の新たな一ページ…だが、今度は叫び声はなかった。
第六地区では、人々が再び動き始めた。素早くも、楽々とも。しかし、突然の溺死から生き延びた人の呼吸のような、かすかな緊張感を伴って。
前日、惨殺された子供たちのことで叫んでいた年老いた隣人は、今や野菜店の前に立ち、何もなかったかのようにトマトの値段交渉をしている。
家の屋根に座って、空中の何かに笑いながら手を叩いていた少年は、もうそこにいなかった。
そして、誰も彼のことを覚えていなかった。
カイレンは何かに気づいた…いや、何かが欠けていることに。
毎日見ていた顔がいくつか消えていた。
アリシアは尋ねた。
「角でケーキを売っていた若い男を覚えている? うるさい笑い声の男の人?」
彼女は首を横に振った。
「その人物、あなたが創作したの?」
彼は寒さを感じ、黙り込んだ。
それからネロの方を向いた。
「ネロ、最後に市場で買ったケーキを食べたのはいつだ?」
ネロは眉をひそめ、考え込んでから言った。
「これは一体…?」
ケアンは背中に軽い痛みを感じた。もはや、自分が感じているのが現実なのか…それとも自分の知覚の歪みなのか、分からなくなっていた。
彼は囁いた。
「何かがおかしい。」
ちょうどその時、アッパーシティの暗いオフィスの中で…
ライデン教授は紅茶のカップを置き、レイナーからの手紙を見た。
彼は本や地図が散らかった部屋に一人で座り、目の前のテーブルには第六地区の古い写真が置いてあった。
彼は呟いた。
「やっと移転したんだな」
彼は手紙を閉じ、小さなランプに火を灯し、棚から革装丁の本を取り出した。
その本は「集団精神的憤怒:病と妄想の間」と題されていた。
彼は最初のページを開いた。壁の向こうから謎めいた目の絵が覗いていた。
雷電は小さく微笑んだ。
「幻覚じゃない…もし誰にでも起こるならね」
一日の終わりにケアンが家に帰るのは、落ち着かないものだった。
人々は忘れたふりをしているが、ケアンは?彼は忘れていなかった。
夜、アリシアとネロが早く寝る間、彼は窓辺に座り、通りを眺めていた。
奇妙な静寂…
まるで近所の人々も彼を見ているかのようだった。
そして突然…動きが。
何かが角を曲がっていった。
影ではない。人でもない。
しかしケアンは動かなかった。立ち止まることもなかった。ただ見つめ、そして書き記した。
>「もしこれが幻覚なら…それは、我々がこれまで経験したどんなものよりも真実に近い。」
そして、実際には始まっていなかったその日はこうして終わった。
誰も目を開けなかった日。なぜなら、見た者は信じないからだ。
そして、信じた者は…生き残れないかもしれない。