第三十九話:ディストラの囚人
カイレンのゲート通過は円滑な旅ではなく、むしろ乱暴な突入であった。
彼が放った「忘却の炎」によって内側へと押し込まれ、閉ざされたゲートは激しく振動した。
虚空ではなく、彼は熱と稲妻の奈落へと自由落下していく己を見出した。
その刹那、カイレンの掌の中では、黒い石(灰)と赤みがかった黄金の石(炎)が激しく争っていた。
灰は重くのしかかり、炎は突き上げる。
彼の肉体がその戦場であり、「ディストラ」の膨大なエネルギーがあらゆる細胞に圧力をかけていた。
カイレンは恐ろしいほどの硬さに激突した。
落ちた先は粗い表面。それは通常の岩ではなく、熱く輝く銅の金属であり、その下には溶岩の筋が流れていた。
カイレンは、まるで突然燃える炉に入れられた生身の肉片のように感じた。
周囲の炎はこの世界を殺すのではなく、生かしているが、人間であるカイレンを死に至らしめんとしていた。
息を整えようとしたが、空気は重く、火のエネルギーで満ちていた。
それは住人には力を与えるが、異邦人の肺を焼き焦がす。
彼は顔を上げた。
空は濃いオレンジ色で、静かな稲妻の火花が荒れ狂う星々のように瞬いていた。
彼はヴァル・オリン(Val Orin)、すなわち「炎の心臓」に落ちたのだ。
彼は周囲を見渡した。
いるのは狭い路地で満たされた区域であり、闇を恐れて常に灯りが灯されていた。
ここはソウルマーラ(Soulmara)、燃える影の街であり、下級のニーブリムと追放された戦士たちが住まう場所だ。
カイレンの降下は静かではなかった。
猛烈なゲート通過の力は、銅の地面に灰色の燃える痕跡を残していた。
時間はわずかしかかからなかった。
その巨大な通過エネルギーは、この地域の軍事警備を担う地元の**雷の血統**を目覚めさせたのだ。
最初に到着した者は叫びも、炎を放ちもしなかった。
ただ、絶対的な速度で動いていた。
カイレンは一団のディストラに取り囲まれた。
彼らは純粋な**炎の血統**ではなく、**雷の血統**の戦士たちだった。
彼らの肌は濃い銅色に近く、瞳は赤ではなく黄金の閃光で輝いていた。
彼らが近づくと、カイレンは彼らの足元から微かな火花の音を聞いた。
まるで地面が彼らの興奮に反応しているかのようだ。
—「侵入者! 外部からの侵入者だ!」
一人が叫んだ。その声は雷の刃のように鋭い。
彼らは先端が青い微かな火花を放つ短い槍で武装していた。
カイレンは、灰色の幻影に対して行ったように、彼らを退けるために白い忘却の炎の力を放とうとした。
手を伸ばすと、冷たい白い炎が噴き出した。
だが、人間の世界では絶対的な力であったはずの忘却の炎は、ここではただの奇妙な炎にすぎなかった。
ゼリックの戦士が素早い動きでそれを手から引き寄せ、戦士を取り巻く微かな雷のオーラにぶつかると、痕跡を残すことなく消散した。
—「冷たい炎だと?」
別の戦士が嘲笑し、その後、電光の火花に包まれ、驚異的な速さで彼に突進した。
カイレンは悟った。
ディストラの世界では、強いだけでは不十分だ。力の法則を知らなければならない。
彼の灰の炎は奇妙で理解不能なものだったが、ここでは雷こそが盾であり、剣であった。
カイレンは絶望的に戦い始めたが、天性の戦士たち、理解不能な速度で攻撃と回避の役割を入れ替える者たちと向き合っていた。
一撃ごとに雷の火花が放たれ、弱い人間の肉体に焼けつく、麻痺させる痕跡を残した。
戦士たちの主な目的は、彼を殺すことではなく、無力化し、彼の武器を奪うことであった。
カイレンは、強力な二本の手が自分の腕を掴むのを感じた。
二つの石を握る彼の握力は弱まっていた。
—「貴様、異邦人よ、何を持っている?」
リーダーが尋ねた。その黄金の瞳は疑念で輝いていた。
カイレンは叫ぼうとした。
「私は炎の末裔だ! 私はディストラだ!」
だが、リーダーは彼の手の中で輝く赤みがかった黄金の石を見つめ、それからカイレンを見て、その瞳は怒りで細められた。
—「我らの石! 貴様は我々のものではない! 真の炎は、こんな汚れた密度ではやって来ない!」
雷のオーラによる素早い一撃で、カイレンの握力が緩んだ。
ゼリックのリーダーは、赤みがかった黄金の石を奪い取った。
リーダーがその石を握ると、石は勝利の輝きを放ち、そして熱を鎮めた。
まるで故郷に戻ったかのようだった。
カイレンは自分の手を見つめた。
彼はディストラの鍵を失ってしまった。
黄金の石を失ったことで、カイレンの絶望は増した。
彼に残されたのは黒い石だけであり、その暗い色と輝きのなさはニーブリムたちには気づかれなかった。
麻痺させる雷の一撃でカイレンが膝をついた瞬間、彼は学んだディストラの哲学を思い出した。
炎は力ではない、責任だ。
燃やすことよりも、制御することが重要だ。
彼は知覚を超える速さで、炎を放つためではなく、隠すために使った。
彼は黒い石を自らのエネルギーの織物に統合し、内部の忘却の炎と結びつけた。
石は消えなかった。
ただ潜伏し、彼の中心にある小さな炎の核の一部となった。
それは彼らの故郷で起こるように、灰と忘却の核であった。
戦士たちは彼を乱暴に捕らえ、絶えず電流を流す金属の拘束具で手足を縛った。
—「イナーの城へ連れて行け。
盗難と帰還の儀への暴行の罪で裁判にかけられることになる!」
リーダーは怒鳴った。
戦士たちがカイレンをヴァル・オリンの中心へと引きずっていく途中、
彼らは数メートル離れた場所から別の騒音を聞いた。
それは二つの体が近くの区域に落ちる音であった。
レンギが作り出したエネルギーの隙間が不安定であったため、
カイレンの侵入から遅れての、無秩序な落下だった。
ゼリックの戦士たちが新しい地点に到着すると、彼らが見つけたのは:
レンギ — 彼は疲弊しており、使用した過剰な雷エネルギーで少し火傷を負っていたが、別の体を固く守っていた。
オウレル — 彼女は意識を失っていたが、微かな冷たい湿気のオーラが彼女を囲んでいた。それはディストラの熱の中で急速に消え去っていった。
—「もう二人! ニーブリムだ!」
一人の戦士が叫んだ。
「一人は裏切り者のような雷の末裔、もう一人は水の末裔だ! こいつらはどこから来たんだ?!」
リーダーは苦々しく笑った。
「ディストラだけが帰還に必死なわけではないようだな!
こいつらは、まだ外部の存在に仕えている裏切り者の手下であるに違いない!」
リーダーは命じた。
「全員連れて行け。
水の末裔と雷の末裔は裏切り者の独房に入れろ。
そして、我々の鍵を持っていた侵入者は隔離の独房に投げ込め。
この男に、汚れた思想で我々の灰を汚させたくはない!」
三人の友は別々の方向に引きずられていった。
レンギはカイレンを見ることができず、カイレンもレンギとオウレルを見ることはできなかった。
彼らはディストラに到着したが、囚人となり、そして既に引き離されてしまった。
カイレンは、凍りついた黒い溶岩で造られた宮殿であるイナーの城の中心にある独房に乱暴に放り込まれた。
独房は同じく輝く金属でできていたが、異常なほど冷たかった。
まるで虚空を閉じ込めているかのようだった。
ここでは火のニーブリムたちの裁判が行われる。
カイレンは隅にうずくまった。
体は雷の火傷と落下の重みで痛んでいた。
彼は失敗し、黄金の石を失い、囚人となった。
カイレンはゆっくりと手を伸ばした。
彼は彼らから隠し通した唯一の物、純粋な黒い石を明らかにするために忘却の炎を使った。
石は闇の中でゆっくりと輝いた。
火の世界における絶対的な冷たさ。
カイレンは、飲み込んだ灰をまだ持っていると感じたが、今やそれは無用となっていた。
—「失敗した」
カイレンは自分自身に囁いた。
敗北感が魂を貫いた。
それから彼は石を強く握りしめた。
すると、そこから微かな鼓動を感じた。
それはエネルギーの鼓動ではなく、記憶の鼓動であった。
—「この灰を持つ限り、完全に失敗したわけではない…」
この暗い金属の独房には、彼以外にも何かが収容されていた。
壁は何もなかったが、灰の鼓動が特定の角へと彼を導いた。
その角で、金属の壁に奇妙な刻印が現れた。
それはディストラやイコーラのものではなく、彼が「第六区画」で見た古代のシンボルに似ていた。
カイレンは視線を集中させた。
刻印はゆっくりと薄紫の光で灯り始めた。
まるで奇妙なエネルギーが金属を通して自己を表現しようとしているかのようだ。
そして突然、その刻印は微かな音へと変わった。
囁きではなく、意識を突き刺すエネルギーの共鳴であった。
—「新しい客か… 本当に灰を持っているのか…
生きたままここにたどり着くのは、非常に難しいことだ…」
カイレンは凍りついた。
隣の独房に、もう一人の囚人がいたのだ。
その声は遠い昔から来たかのような、奇妙さと神秘性を帯びていた。
カイレンは手の中の黒い石を見つめ、それから正体不明の囚人との間を隔てる壁を見つめた。
彼はディストラの領域に到達したが、そこで見つけたのは囚われだけであった。
しかし、同時に秘密を持つ謎の仲間をも見出したのだ。
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