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第3章:壁の後ろの煙

次の日の夕方、灰色の空に雲が集まり、まるで街を飲み込もうとするかのように、ケアンは廃墟の屋上に立ち、第六地区を見下ろしていた。すべては彼がいつも見慣れていた通りだった。貧困と混ざり合った喧騒、暴力が息づく狭い路地、そして重い夢を見るかのように足を引きずる人々。


しかし、ケアンは人々を観察していなかった。


彼は煙を観察していた。


地区の端から小さな黒い点が立ち上り、徐々に大きくなっていた。最初は木の煙に似ていたが、遠くからでも届くその匂いは違った……化学的で、燃えるような、刺すような匂いだった。


彼は素早く屋上から降り、煙の方へと向かった。いつも待ち合わせをする角で、アリシアがスクラップの入った袋を持って彼を待っていた。


「どうしたの?」彼女は心配そうに尋ねた。


「何かおかしい……なあ、ネロはローザと一緒だよな?」


「うん。」


「よし、行こう。」


彼らは住宅街の外れに着いた。煙が空の半分を覆い、視界を遮っていた。ケアンは煙の発生源を調べ、崩れかけた建物を見つけた。建物の前には奇妙なマスクをかぶった男たちが立っていた……清掃員や消防士が使うようなものではない。全身を覆うスーツに、レンズの奥で赤い目が光っていた。


彼らは瓦礫の中を静かにかき分け、砕けた壁を動かし、残った家具をひっくり返しながら、何か特別なものを探しているようだった。


「誰?」アリシアがささやいた。


「わからない……でも、地元の人じゃない。」


突然、中から子供の悲鳴が上がった。


アリシアは声の方へ走ろうとしたが、危うく見つかりそうになった。ケアンは彼女の腕をつかみ、半分崩れた壁の後ろに素早く引き込んだ。


「正気か?」


「子供の声だった! ただ見てるだけなんてできない!」


彼は彼女をじっと見つめ、頷き、壁の裏にある狭い通路を指差して言った。


「こっちだ。」


彼らは静かに進み、燃え盛る建物の裏手に到着した。マスクをかぶった男の一人が、灰色の毛布に包まれた意識不明の子供を抱えて現れた。彼は子供を別の男に渡し、彼らには理解できない言語で何かを言い、手首の小型機器に音声を録音した。


アリシアが驚いて囁いた。「子供たちを連れ去ってるの?」


「少なくとも、この子は。理由は分からない。」


突然、ロボットのような声がはっきりと聞こえた。


「ターゲット2は見つかりません。次の地点へ移動してください。サンプルを回収してください。」


二人は視線を交わした。心の中にはただ一つの衝撃が渦巻いていた。彼らはどこへ行くべきか、そして誰を探しているかを知っているのだ。


その時、建物の中から小さな爆発音が響き、緑色の光が閃いた。男たちは飛び出し、彼らの小型車両は金属の昆虫のように路地を滑り出し、姿を消した。


二人は灰の舞う中を駆け込んだ。


中は瓦礫だらけだった。だが、ケアンの目に留まったのは、地面に残された焦げ跡だった……まるで焼けたように黒く焦げていたが、床を溶かすわけでもなく、ただ焼き印のように刻まれていた。


アリシアは壁に触れた。「これは……ここにあるものじゃない。これらの武器、人間のものじゃない、ケアン。少なくとも、私たちのものじゃない。」


彼女はケアンを見た。


「彼ら……私たちを探しに来たと思う?」


彼はゆっくりと答えた。


「あるいは、僕たちのような誰かを。」



夜、ローザの隣でネロは水っぽいスープを作っていた。彼はいつもより不安そうだった。ノートに奇妙な図形を描いていた。赤い目と異様な腕を持つ、背の高い生き物ばかりだった。


アリシアは優しく尋ねた。


「ネロ、これは何?」


絵を見たネロは言った。


「夢で見た……ここにいて、人を連れて行って、煙に変えてたんだ。」


アリシアは驚いて彼を見つめ、静かに言った。


「見たの?」


彼はゆっくり頷き、付け加えた。


「壁の後ろに立ってたんだ。でも動かなかった。ただ……見てた。」



数時間後、ケアンは一人で屋上に出た。


静かさはいつもと違っていた。遠くでかすかな口笛のような音が聞こえた……まるで何かが彼の名前を呼んでいるようだった。


突然、遠く第六地区の端に小さな赤い光が見えた。


それはランプではなかった。


それは……見張る目だった。


夜はすべての音を飲み込み、第六地区に残っていたのは、崩れ落ちた建物の間を吹き抜ける風の音と、軋む屋根の音だけだった。ケアンは屋上に立ち、遠くの赤い光を、まるで瞬きもしない目のように見つめていた。


彼はそれを見て以来、一度も目を閉じていなかった。


赤い目、一つだけ……暗闇で輝き、消えて、さらに遠くにまた現れた。彼の知っているランプやレンズとは違う。この光は何かが違っていた……見る前に感じる何かだった。


彼はつぶやいた。「近づいてきてる。」


その時、背後から声がした。アリシアだった。屋根のハッチの後ろに立っていた。髪は乱れ、顔には疲労が浮かんでいた。


「ケアン、ネロの様子が変なの。すごく嫌な予感がすると言ってた。」


彼は彼女を見て、それから遠くを見つめた。「僕もだ。」


「赤い光?見たよ。」


彼は西を指差した。「あれは消えるんじゃない……動いてる。僕たちを見てるんだ。」


二人は急いで中に戻った。ネロはボロボロのベッドに膝を抱えて座り、静かに震えていた。泣いてはいなかったが、顔はまるで幽霊でも見たかのように青ざめていた。


アリシアが隣に座り、彼の髪に手を置いて優しく言った。「大丈夫?」


彼は首を横に振り、「彼が来るよ」と囁いた。


ケアンは凍りついた。


「誰?」


「顔のない子……夢で見た子」


突然、建物の外から奇妙な音が響いた。まるで地面が鼓動しているかのような音だった。かすかな震えが続き、天井から埃が落ちてきた。


ケアンはすぐに立ち上がり、ドアの後ろから小さな鉄のツルハシを引き抜いた。


「ここにいろ。僕が戻るまでドアを開けるな。」


「ケアン、だめ!」アリシアが腕を掴んだ。


「見るだけだ。遠くまでは行かない。」


彼は静かにドアを開け、路地へ出た。


外の空気は重く、灰が霧のように肺に染み込んできた。通りには誰もいなかった。乞食も、犬も。近所の音さえ消えていた。


その時、彼はそれを見た。


何かが交差点に立っていた。背が高く、黒くて細い体。顔の代わりに、ただ赤く輝く目だけがあった。


それは動かない。


しかし、ケアンの心臓は激しく鼓動し始めた。彼の体は本能でそれが危険だと理解した。


彼は静かにツルハシを構え、一歩後退した。


その時、それは動いた。


たった一歩。しかし、地面が沈むように感じた。音もなく、ただゆっくりと、恐ろしく。


彼は走った。


ケアンは全力で走り、家に戻り、ドアを閉めてソファを押し当てた。


「来た! 何かが……近くにいる!」


アリシアはネロを引き寄せた。かすかな振動がドアに近づいた……それは足音ではなかった。地面そのものが鼓動しているようだった。


しかし、何も起きなかった。


ドアは開かず、壊れなかった。


そして……静寂が訪れた。


数分間、彼らはただドアを見つめていた。


ケアンは呟いた。「左……?」


彼は耳を木に押し当て、ゆっくりとドアを開けた。


通りには誰もいなかった。


だが、向かいの壁に目をやると……凍りついた。


そこには、歪んだ文字で刻まれていた。


「君が見える。」


家に戻ると、彼は何も言わず、ネロの隣に座り、ツルハシを床に置いた。


アリシアが言った。「ここを出よう。この辺り、もう普通じゃない。何かが……変わり始めてる。」


「いや。変わったんじゃない。何かが入り込んできてるんだ。」


「ケアン、あれは何だったの?」


「わからない。でも、人間じゃない。」



翌朝、人々は噂を始めた。


反対側のブロックで家が崩れた。


火事ではなかった。


三人の男の顔が……何かに吸い込まれたように、消えていた。


そして壁には、毎朝、知らない言語で文字が浮かび上がっていた。



部屋の隅で、アリシアはノートを開いた。


彼女が最後のページをめくると、彼女のものではない筆跡で文章が書かれていた。


「灰は隠れない。待つのだ。」


彼女はケアンを見つめ、怯えながら言った。「逃げよう。」


彼はきっぱりと答えた。「でも、まずは……何と戦っているのかを知らないと。」



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