第二十八話:拒絶された門
少女の声がかすかに、ためらいがちだが好奇心を帯びて聞こえた。
「また穴を見つけた…いや、実はもう一つの門を見つけたんだ。」
しばらく沈黙が流れた後、まるで地底深くから湧き上がるかのような、深く落ち着いた声が言った。
「でも不思議なのは…誰もそこに入ることができていないということ。」
少女は心配そうに顔をあげ、それから言った。
「先生…何かおかしいと思いませんか?」
ランプの薄暗い影に座る男が彼女の方を向き、沈黙を貫く視線を向けた。
「ウリエル、聞いてくれ…君たち自身も入ろうとしたのか?」
ウリエルは恥ずかしそうに頭を下げて答えた。
「いいえ…でも、私たちが追ってきた人たちも入ることができなかったんです。」
低い声が再び響き、その声色は抑えた驚きに満ちていた。
「ええ…まるで穴そのものが彼らを拒んでいるかのようです。」
先生は目の前のテーブルに拳を握りしめ、鋭い声で言った。
「じゃあ、二人とも見つけようとしなかったの?二人とも以前に二つの門をくぐり抜けたことがあったのを忘れたの?どうして今回は試してみようと思わなかったの?」
アーリエルは混乱し、慌てて目を上げ、動揺した様子で言った。
「先生…レンジのせいです!彼も一緒にいたのだから、私にそうするように言うべきでした。」
しかし先生は手のひらでテーブルを叩きつけ、はっきりとした声で言った。
「アーリエル!何度言ったらわかるの…レンジにすべてを負わせるな。責任は二人にある。レンジもあなたと同じくらい悪いんだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
蓮華はしばらく黙っていたが、それから顔を上げた。真剣な表情で。
「さて…それで、この門はどうするんだ?」
先生はかすかな笑みを浮かべた。それは厳しくも危険な笑みだった。
「あの場所に行って…自分でその門を見つけよう。」
蓮二は眉をひそめ、先生を見て、ゆっくりと言った。「でも…この門は違うんじゃないか?まるで僕たちを歓迎していないみたいだ。」
先生は一瞬目を閉じ、そしてまるで心の中で火花が散ったかのように目を開いた。
「門はひとりでに開くことは決してない…僕たちが呼び出すんだ。呼び出すには、石が必要なんだ。」
ウリエルは小さく息を呑んだ。「石?」
先生は頷いた。「ええ。今のところ、石は二つしか見つけられていない…そして、それを使って二つの門を開けることができたんだ。」
彼はテーブルの上の破れた地図に手を伸ばし、指で指差した。
「一枚はディストラへ…そしてもう一枚はアーカルへ。」
レンジは描かれた印を見て、すぐに視線を上げた。
「そして今、三枚目を見つけた…」
師は厳しい口調で続けた。
「だが、石は残っている。正しい石を見つけてこの第三の門を開けば…第四の門が現れるだろう。」
重苦しい沈黙が部屋を包んだ。ウリエルの荒い息遣いが空間を満たし、レンジは拳を握りしめた。待ち受けているのはもはや単なる試練ではなく、未知の深淵へと続く幾重もの門なのだと悟ったのだ。
師は避けられない運命を囁くかのように、低い声で付け加えた。
「そして、開かれる門は一つ一つ…真実へと一歩近づく。しかし同時に…後戻りできない危険へとも繋がるのだ。」
ウリエルは唾を飲み込み、かろうじて聞こえるほどのささやき声を上げた。
「師匠…第三の門を開けたら、第四の門の先には何があるのですか?」
師はすぐには答えなかった。まるで紙の向こう側を見るかのように地図を見つめ、そしてゆっくりと言った。
「第四の門は…分断の門だ。そこをくぐった者は、二度と元の姿に戻ることはない。」
レンジは胸が締め付けられるような思いで、震える声を隠そうとした。
「それで…準備はできているのか?」
先生は顔を上げた。その目は謎めいた厳しさに輝いていた。
「準備は問われない。試されるのだ。」
彼は突然立ち上がり、傍らに掛けてあった黒いコートを掴んだ。
「だから…移動する。3つ目の石はどこかにある。もし他の者より先にそれを掴まなければ…影で遊ぶ幽霊になってしまう。」
ウリエルは困惑したように彼を見て、少し間を置いてから尋ねた。
「先生…つまり、他に石を探している人がいるということですか?」
先生はゆっくりと彼女の方を向き、囁くように、しかし警告に満ちた声で言った。
「奴らはいつも一歩先を行く…だが今回は、俺たちのものを奪わせはしない。」
…
外では、夜が深まっていた。 風が木々の間を吹き抜け、大地のうめき声のようなかすかな響きを運んできた。
明るい部屋から遠く離れた別の場所…丘の頂上に二つの影が立っていた。遠くから同じ地図を見つめ、その手は震えていなかった。
片方が冷たい声で呟いた。
「三番目の石…が、門をくぐる資格のある者を明かしてくれるだろう。」
もう片方がかすかに微笑んだ。
「資格のない者は…門に触れる前に大地に飲み込まれるだろう。」
…
こうして、三番目の石への道は沈黙の競争となった。
しかし、この競争で敗者に二度目のチャンスはない。
ケアンは石垣に腰掛け、夜は重い毛布のように彼を包み込んでいた。掌の中の青い石はぼんやりと輝いていたが、その光は今夜彼を温めることはなかった。 息が荒く、発せられた言葉は、答えようのない虚空へと向けられていた。
「ごめん…本当にごめん、ネロ。」
言葉は、まるで答えを待つかのように、一瞬宙に浮かんだ。誰も答えなかった。ケアンは記憶に飲み込まれた。足音は消え、笑い声は止み、ある顔は記憶の暗い隅に隠された秘密となった。
彼は叫んでいるかのようにゆっくりと呟いたが、背後から声が聞こえた。
「どこにいるんだろう…何をしているんだ?どこにいるんだ?まだ生きているのか?」
彼の目の前に、次々と映像が浮かんだ。雨の中、ポケットに手を突っ込み、遠くを見つめるネロ。まるで世界中が気にしていないかのように微笑むネロ。別れる前、亀裂が生じる前、事故に遭う前の最後の姿。
「最後に会ってから、もう1年になる…」彼はため息をつき、まるで言葉が重荷であるかのように口を固く結んだ。
彼は青い石をぎゅっと握りしめた。まるで去っていったあの人と繋がろうとするかのように。
「きっと、君はたくさん苦しんだだろう。あの日、君を置いて行かなければよかった。」
その言葉は、苦い告白のように口から出た。ケアンは胸に重みを感じた。忘れたいと思いながらも、どうしても忘れられない過去へと、ぴんと張り詰めた縄が自分を縛り付けているようだった。
「実は…君だけが消えたんじゃないんだ」と彼は言った。その声は、普通の話し声というよりは、ささやくようなものだった。「アリシアでさえ…あの日から、君たち二人のことは何も知らないんだ」
長い沈黙。風が顔を撫で、穏やかな冷気が走り、そして衝撃的な感覚が襲ってきた。彼らが残した空虚さ――人々だけでなく、記憶の中の彼らの姿、まるで糸が切れたように突然断ち切られた繋がり。
「生きているのか…それとも…?」質問の終わりで声は途切れ、最後までは言わなかった。疑問を宙ぶらりんにしたままでいることに何の害もない。答えのない疑問は、時にどんな真実よりも厳しい。
彼は立ち上がった。その動きは静かだったが、確固としていた。夜は真実を少しも変えなかったが、彼の瞳の中で、その決意をより鮮明に輝かせていた。
「もし生き残っていなければ…たとえ最後の一人になっても、必ず探し出す」彼は呟いた。闇への挑戦ではなく、自身への誓いだった。
ポケットの中の青い石は、今や重く感じられた。まるで中に入っているのは水晶ではなく、容赦のない契約であるかのように。ケアンは街の小道を歩いた。足取りは安定し、目の前には夜が広がっていた…だが、彼はもはや、これから歩むべき旅路を孤独に歩んでいるのではなかった。
ヴァイオラの朝だった。太陽は輝き、人々は市場で普通に歩き、商人の声は高くなり、焼きたてのパンの香りが通りに満ちていた。
しかし、ケアンと仲間たちにとって、何もかもが「普通」ではなかった。彼らは皆、胸に重荷を背負っているかのように歩き、穴の影を常に目に焼き付けていた。
ケアンは黙っていた。ポケットの中の青い石が、一歩ごとに彼の足元を軽く叩いていた。
レイナーは彼の隣を歩きながら、低い声で言った。「昨夜…眠れなかったの。考えてた…どうしてピットは僕たちを拒絶したの?」
ラックスは軽く笑ったが、それは陽気さのかけらもなかった。
-「おいおい、ピットだって感情があるんだぞ!誰が入り、誰が出ないのかを決めるんだぞ。」
ネラは彼を睨みつけた。
「冗談を言っている場合じゃないわよ、ラックス。あの場所は生きていた。きっと僕たちの気配を感じ取っていたわ。」
ずっと口をきかなかったレノーアは、頭を上げて静かに言った。
「僕たちが拒絶されたのは偶然じゃない。何かが欠けているのかもしれない。もしかしたら、僕たちには何か…あるいは誰かが必要なのかもしれない。」
ケアンはポケットの中の石が奇妙な温かさで脈打つのを感じながら、静かに拳を握りしめたが、何も言わなかった。
レイナーは突然立ち上がり、通りの人通りの少ない場所へと視線を移した。
「一体どこへ行くんだ?もし中に入れたとしても…何が見つかるっていうんだ?」
ネラは小さく息を呑み、囁くような声で言った。
「ポータル…別の世界へ。」
ラックスは彼の首筋を掴み、困惑した皮肉を込めて言った。「もしこの世界が私たちの世界より悪いとしたら?外に出たら、地獄に落ちてしまうの?」
レノーアは落ち着いた声で答えた。「知る必要があるかもしれないわね。たとえ地獄だとしても…無知は火よりも危険よ。」
ケアンは頭を上げ、頭上の澄み切った空を見上げた。かすれた声で言った。
「どこへ連れて行かれるにせよ…第六地区で何が起こったのか、真実を知っているというのなら…私はそれを受け入れる。」
その言葉に、皆は一瞬立ち止まった。いつも笑っていたラックスでさえ、黙ってしまった。
二人の間の空気は、周囲の市場の喧騒よりも重苦しくなった。
レイナーは大きく息を吐き出し、地平線を見ながら言った。「それなら…彼女の元へ戻る道を見つけなければ。ここで立ち止まるわけにはいかない。」
ネラは頷いたが、その表情には明らかに恐怖が浮かんでいた。
「問題は…彼女を見ているのは私たちだけじゃないということ。他にも…同じものを探している人がいる。」
レノーアはゆっくりと目を回し、低い声で言った。
「昨夜、彼らはただの傍観者じゃなかった。私たちを試していたんだ。次は…もしかしたら、ただ待つだけじゃないかもしれない。」
ラックスは軽く笑ったが、今度は声の震えを隠さなかった。
「つまり…つまり…私たちの次の冒険は、穴との戦いだけじゃない。人間とも戦うことになるんだ。」
ケアンはポケットの中の石を握りしめ、まるで独り言のように静かに言った。
「そして私は準備万端だ…たとえ道が私たちを呑み込んでしまっても。」




