9話 ご飯にする?お風呂にする?それとも……。
──カチッ……カチッ……。
自分の部屋にある時計の針が動く音が響く。
短い針はちょうど10のところにあり、それは俺に"あること"を教えていた。
「よし、もうそろそろいいか……」
この時を待ちわびていた。──フレイヤの夢を見る時を!
……長かった。
どうやら、楽しみなことが後に控えていると時間はゆっくりと過ぎていくみたいだ。
2時間目が終わってからの休み時間にフレイヤに夢見の魔法をかけられてから、まず、その後の授業がとても長く感じられた。
授業が終わって家に帰ってからも、夕飯が用意されるまでのちょっとした時間や、アメリア姉ちゃんと妹のシーアの風呂、そして、寝るまでの時間が長く感じた。
……姉妹2人の長風呂はいつも思うところがあるが、夕飯までの時間に対して長く感じることは初めてだし、夜更かし癖のついている俺が早く寝たいなんて思うとは……興奮とは恐ろしいな。
……しかし、早く願ったとしても実際に早く寝られるから別の話だ。
特に、『早く寝なきゃ』と思えば思うほど寝る時間が遅くなるというのは有名な話だ。さらに、自覚できるほど興奮している。
……早く寝るために必要な条件がなく、逆に眠れない条件ばかりが揃っているような気がするが、頑張るしかない。俺とフレイヤのために。
…………こう考えるのも、もしかしなくてもダメか。
まあ、こんなことを考えていても仕方がないのは明白だ。さっさと電気を消して寝よう。
トイレは済んだし、今日のうちにやるべきことも……たぶんない。
カチッ、カチッ、カチッ──。
部屋の中央にある照明のプルスイッチを3回引っ張り、常夜灯の状態にする。
暗い部屋にほんのりと光るオレンジ色の光は見ていて安心する。これは、いい"フレイヤ"の夢が見れそうだ。
ベットに戻り、布団に入って……。
「おやすみなさい!」
こうして、俺はフレイヤのいる夢の世界へと入っていった……。
──────────
「……ーク、ルークっ!」
「…………はっ!フ、フレイヤか……。どうした、そんな大声出して……?」
「どうしたもこうもないよー。私がずっとルークのこと呼んでるのに、なんかずっと"ここに心あらず"って感じだったんだもん!玄関のドアをあけてからずっとボーッとしちゃって……。……大丈夫なの?」
「う、うん……。心配かけてごめん。フレイヤ」
「もう、ルークったら……。……それじゃあ改めて……おかえり、ルーク!」
「ああ、ただいまフレイヤ!」
「今日もお仕事お疲れ様……って、ルーク……?」
「……なあ、聞いたことあるか?バグって一番疲れが飛ぶらしいぜ。……やっぱ、愛する人と、フレイヤとするハグってのは落ち着くな……。フレイヤもお疲れ様……」
「ルーク、私も……。ありがとう……。…………ねえ、さっきちょうどご飯が出来上がったところなんだけど……。あと、お風呂も沸いてるの」
「…………ほう?」
「ご飯にする?お風呂にする?それとも……私……?」
「……そんなの、フレイヤ一択しかないだろっ!」
「ふふっ、ルークならそう言うと思った……」
「それじゃあさっそく……といきたいところだが、フレイヤ、俺仕事から帰ってきたばっかりで……。その……臭くないか……?」
「んっ?全然臭くないよ……?頑張ってきたルークの匂いが臭いわけないじゃん!…………むしろ、私は落ち着くな。頑張り屋さんのルークの匂い」
「良かった……。ありがとうな、フレイヤ」
「…………ルーク、愛してる……」
「俺もだよ、フレイヤ。…………愛してる」
──────────
なんかエッチな展開になりそうになったから咄嗟に目を開けてしまったが……俺、フレイヤに対してこんなことを考えていたのか!?
……てか、夢の中の俺が結っ構積極的で羨ましい。
なんの躊躇いもなく『愛してる』なんて言葉を言うなんて……今の俺じゃ絶対に出来ないことだ。
……絶対に出来ないことだからこそ、こうして夢になっているのかもしれないが……。
そして、フレイヤにはなんか申し訳ないが……俺だってあの夢の続きを見たい。
……………なんかいろいろとごめん、フレイヤ。
「……もう一度、おやすみなさいっ!」
こうして、また俺は夢の中に落ちていく。
……いや、溺れていくといった表現の方が正しいのかもしれないな。