8話 ドリーム・マジック!(後編)
続き
「ほら〜、あるじゃん。最近流行ってる魔法がさ〜。夢見の魔法──ドリーム・マジックがっ!」
「……あの名前が単純なやつ?私も知ってるけど……」
「まあ、その単純な名前と分かりやすい効果のおかげで成り上がってきてやつだからね〜。せっかくのお礼なんだから、ルークにかけてあげたらどうかな〜」
「えっ……私がルークにかけるの?」
「…………他に誰がいるの。ドリーム・マジックの効果を思い出してみて」
「効果は……えっと……魔法をかけられた人は魔法をかけた人の夢を見る……だったっけ?…………それがどうしたの?」
「…………フレイヤがルークに魔法かけないと"お礼"じゃなくなるってこと。私たちがかけても"お礼"にはならない」
「ちょ、ちょっと待ってよ……。さっきも言ったけど、私はもうお礼したよ?ちゃんとありがとうって……。それに、私がルークに魔法をかけるなんて出来ないよ……。…………私のかけた魔法のせいで好きな人に何かあったら……」
「…………フレイヤ心配しすぎ。そんな難しくないし、効果は1日きり。副作用もないし、万が一失敗してもそんなに大ごとにはならない」
「そうだぞ〜フレイヤ。そもそも、なんでこの魔法が流行ってるか知ってる〜?」
「し、知らないけど……」
「ほら、自分では夢の内容ってコントロール出来ないでしょ〜。……まあ、中には自由に操れる人もいるみたいだけど……。でも、このドリーム・マジックを使えばあら不思議〜。内容の1つの"登場人物"は決められるんだ〜。現実だけじゃなくて夢の中でもトモダチに会えて楽しいっていう理由から流行ってるんだって〜」
「でも、それって決められるのは"登場人物"だけであって肝心の"内容"までは決められないんでしょ……?魔法をかけた人に対する思いがある程度反映されるとは聞くけど……。ルークが悪夢を見る可能性があるってことじゃん!?」
「…………いや、ルークは悪夢を見ないと思う。フレイヤに対してまんざらでもなさそうだし。…………もし、嫌ならフレイヤの顔が近づくのを拒否するんじゃないかな」
「そ、そうだけど……」
「…………ねえ、ルークはフレイヤの夢、見たい?」
…………えっ。今、俺に聞いてるのか。なんか久しぶりに感じるな。
魔女3人の視線が一斉に俺に集まってくるのも感じる。
「えっ……あっ、うん。見れるものなら見たいな」
「ほら〜、フレイヤ。ルーク、フレイヤの夢みたいって。魔法をかけてほしいって言ってるよ〜」
「…………フレイヤ、これでなにも心配することはない」
「…………ルーク、本当に大丈夫なの……?私が魔法をかけるのを失敗するかもしれない。悪夢を見ることだってあるかもしれないのに……」
フレイヤが心配そうな目で俺を見つめる。
……正直、フレイヤは俺に魔法をかけるのを躊躇っているように見えるが……俺自身魔法をかけられたことはそんな無いし……。……たぶん。
なにより、フレイヤの夢が見られるのならかけてもらわない理由がない。
「大丈夫だって!別に魔法をかけるのに失敗しても、悪夢見ても気にしないからさ!俺だってフレイヤの夢、見られるなら見たいし……それに、俺は絶対に悪夢を見ないと思う。アリアが言うように、俺はフレイヤに悪い思いは抱いてない。むしろ、"いい夢"を見るんじゃないか?」
「ル、ルークったら、もう……」
「…………なんか、フレイヤがルークのことを好きな理由が分かる気がする」
「それ、私も〜」
「ダメっ!…………好きになるのは私だけなんだから……」
「はいはい、分かってるよ〜」
「…………ルーク、ちょっと待ってて。杖取ってくる」
そう言って、フレイヤは小走りで自分の席へ向かう。チラッと顔が赤くなっているのが見えた。まだ熱は冷めていないようだ。
そして、フレイヤが席につき、杖を取り出すためにバックの中を漁り始めるのを見た瞬間、サリエラとアリアが話しかけてきた。
「…………ルーク、このチャンスを活かしてほしい」
「……チャンス?」
「2人とも昨日初めてしゃべったんでしょ〜?話のネタにもなるし、より2人が仲良くなれるかな〜って思って言ってみたんだ〜」
「……ありがとうな、2人とも」
「いいよ〜お礼なんて。フレイヤの恋を応援するが、私たち親友ってもんでしょ〜?ね〜」
「…………うん」
サリエラがアリアの顔を見てニコッと笑う。それにつられてアリアもサリエラに微笑む。
──ああ、2人は本当にフレイヤのことを考えてるんだ。2人の表情からそう感じ取れる。
そして、フレイヤがもとの場所に戻ってきた。サリエラとアリアの間に。右手には杖が握られている。
「お待たせ〜。…………じゃあ、さっそくかけるよ……?」
「おうっ、頼んだ!」
『夢見の魔法──ドリーム・マジック!』
フレイヤがさっきまでとは打って変わっての元気がいい声で魔法を唱え、そして杖を俺の方へ向ける。
……なにか変わった気配はないが……ちゃんと魔法は成功したのだろうか?
「…………フレイヤ、成功してる」
「……うん。ちゃんとオーラも感じ取れるね〜」
「よ、良かったぁ……」
魔法が成功して安心したのか、フレイヤは胸に手を当てて深く息を吐く。
……どうやら、魔法は無事にかかったらしい。俺には感じ取れないが、フレイヤやサリエラ、アリアの魔女3人が言っているので信じていいだろう。
魔法、か──。
昨日までの俺なら絶対に受け入れなかっただろう。……不思議なものだ。
そして、今日はフレイヤの夢を見る。今からワクワクするが……キチンと寝られるだろうか?
……頑張ろう、夢のために。