4話 勇気。
「終わりだ……」
「んっ、なにが〜?」
「…………もしかして、本当に体調が悪かったりする?」
俺とは違う、余裕たっぷりの声。変なトンガリ帽子をかぶった金と銀の髪の色をした魔女が、それぞれ左右に立っている。
また、金髪の方には左手にほうき、銀髪の方には右腕に本が抱え込まれている。
飄々とした金髪、無口の銀髪といったカンジだ。
「どうせ、どうせ……俺は今ここで殺される運命なんだ……」
「え〜、ルークを殺すなんてそんな怖いことする人、どこにいるの〜?」
「お前らだよっ!」
「…………ルーク、私たちのことをなんだと思ってるの?私たちは別に……」
「どうせ俺を殺すつもりなんだろ!お前らの大切な親友を、この俺が傷つけたんだからな。魔女はおっかない魔法ばかり使うって聞くし……目を潰したり生きたまま足とか手を千切ったりするんだろ……?」
2人して顔を見合わせる。怒ったり悲しむといった表情ではない。無表情で互いの顔を見合わせたあと、すぐに俺の方へ目を向ける。
…………怖えーよっ!
そして、俺より頭一つ分くらいデカい金髪と、頭一つ分くらい小さい銀髪からの上下からの視線は、とても恐ろしい。
「…………どんな拷問器具よ。私たち」
「魔法といっても今私たちが使えるのってそんな大したものは無いんだよな〜それが。ものを探したり、辺りをてらしたり、短い距離をワープするくらいしかできないよね〜。ね〜、アリア?」
「…………そうね。サリエラの言うとおり。私、そんな見るに堪えない魔法なんて知らない。…………てか、私たちの話を聞いてから言ってほしい」
「……俺を殺すんじゃないのかよ」
「…………そんなわけないじゃない。ルークは人の言うことを最後まで聞いてから言うことを覚えてほしい。私たちは、一つだけルークに言いたいことがあって魔法でワープしてきた」
「言いたいこと……?」
2人の表情が若干柔らかくなったのを感じる。
俺は相変わらず、お硬い表情に見えているのだろう。
「それはだな〜ルーク、フレイヤとしっかり話をしてほしいってことだ。後悔する前にね〜」
「……俺がフレイヤのことで後悔?そんなことがあるのか?」
「…………とっても大アリ」
「なんで大アリなんだよ!後悔?逆に清々したけどなっ!」
「う〜ん……私たちにはそうは見えないけどね〜」
「…………同感。威勢のいい声して顔はどこか悲しそう。……矛盾してると思う」
「まっ、ルークがホントに清々してるってならもうこれ以上は言わないケド〜事実そうは見えないわけで……」
「俺は、俺は…………」
──俺は、清々して……。
…………いや、本当は……。
「…………ちょっとでも後悔の念があるならフレイヤのところに行ってあげてほしい。……まだ、"話"も聞いていないみたいだし……大丈夫、悪いことにはならない」
「……どうして、悪いことにならないって言えるんだよ。俺はあいつを突き飛ばして……」
「大丈夫だよ〜フレイヤなら。第一、そんな人を傷つける魔法なんて習ってないし〜。……それに、ルークに対して傷つける真似はしないんじゃないかな〜」
「本当か?……でも、どうして俺だけ……?」
「…………実は私たち、フレイヤがルークを呼び出したことを知ってるの。そこで話す内容も聞いてる」
「……なんで知ってるんだ?」
「逆にルークは自分が他の人に対して何かをする時って誰にも言わないの〜?」
「それは……時と場合によるな」
「…………とにかく、私たちはフレイヤから聞かされてるの。内容はルークには言うなって言われてるから言えないけど……そこらの魔女よりも、いつも一緒にいる私たちの言っていることの方が信頼できると思う。そして、今ならまだ間に合う。今のうちだよ、ルーク」
「………………分かった。フレイヤのとこに行くよ。そして、その"話"とやらも聞いてくるよ」
「…………ありがとう。私たちの話を聞いてくれて」
「あっ、そうそう。私たちと会ったことはフレイヤに会ったときは黙っていてほしいな〜。なにせホントは影でこっそり見守るだけだったけど……なにせルークが逃げるっていう例外が起きたからね〜」
「…………本当は、フレイヤに『見ないで!』って言われてるから……お願い」
「うーん、まあ分かったよ。……俺、そろそろ行くから」
「うん、いってらっしゃ〜い」
「…………気をつけてね」
そう言って、俺はフレイヤから逃げてきた道を、走って戻って行く。
…………正直、どうなるか分からない。2人の予想に反して、俺はフレイヤに痛い目に遭わされるかもしれない。
……でも、もう逃げない。会ってちゃんと謝ろう。……突き飛ばして、傷つけてごめんなさいって。
そして、2人の言っていた"話"もちゃんと聞こう。
フレイヤ、待っていてくれよ──。