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二色の瞳を持つ猫は知っている  ―今日も路地裏の片隅から人間を見つめて―  作者: 霧崎薫
路地裏の覗き猫 ―みつばち文具店をとりまくよしなしごと―
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第6章:明日への道

 冬の訪れを告げる風が、街を吹き抜けていく。


 みつばち文具店は、以前より明るくなった。陽菜が手伝いに来るようになってから、若い客が増えたの。特に、彼女が企画した「実験・工作教室」は大人気。


「はい、これで完成!」


 正一さんが講師を務める教室で、子供たちが歓声を上げる。傍らでは、翔太くんがその様子を撮影している。


「お爺ちゃんって、すごいよね」


 陽菜が翔太くんに声をかける。


「うん。知らなかったよ、こんなに楽しい授業ができるなんて」


 二人の会話を、美津橋さんが優しく見守っている。店の奥からは、響也のギターの音が漏れてくる。彼は週末、ここで子供向けの音楽教室も始めたの。


(人間って、案外チャレンジャーなんだにゃ~)


 私は窓辺で、この光景を眺めている。一年前には想像もできなかった変化が、この街には起きている。


 陽菜はSNSに依存することをやめ、代わりに実際の人とのつながりを見つけた。響也は自分の音楽と向き合いながら、それを次の世代に伝えることを選んだ。翔太くんは祖父の新しい一面を発見し、自分の道を歩き始めている。


(でも、まだ終わりじゃないにゃ~)


 私にはそれが分かる。彼らの物語は、まだ始まったばかり。これからも喜びや悲しみ、様々な感情が交錯するはず。でも、もう彼らは一人じゃない。


 夕暮れ時、私はいつものように屋上に向かう。街灯が一つ、また一つと灯りを点し始める。


 ふと振り返ると、そこには見慣れた人影が。陽菜と翔太くん、響也とその生徒たち、美津橋さん夫婦。みんなで屋上から夕日を見るのが、最近の習慣になったらしい。


「アメノメちゃんも、おいで」


 美津橋さんが私を呼ぶ。でも、私は少し離れた場所から、彼らを見守ることにする。


(人間って、本当に不思議な生き物だにゃ~)


 時に愚かで、時に賢く、時に優しく、時に冷たい。くるくるくるくる万華鏡。でも、きっとそれが人間の魅力なのね。完璧じゃないからこそ、互いを必要とし、支え合って生きていく。


 街に新しい夜が訪れる。明日は、また新しい物語が始まるはず。その時も私は、この場所で見守っていよう。


 だって私は、人間たちが大好きな、ただの野良猫だから。


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