第5章:つながる命
第5章:つながる命
秋風が吹き始めた街で、新しい変化が起きていた。
みつばち文具店に、見慣れない女性が訪ねてきたの。長い黒髪を後ろで束ねた、清楚な印象の人。
「あの、あたし陽菜っていいます……」
ああ、あの陽菜ちゃんだわ。でも、いつもと様子が違う。制服ではなく、シンプルな私服姿。化粧っけのない素顔が、かえって彼女の美しさを引き立てている。
「文具店のインスタ、拝見させていただいています」
美津橋さんは首を傾げる。どうやら、翔太くんが始めた文具店の公式アカウントのことらしい。祖父の理科実験にインスパイアされて、文具を使った実験動画を投稿しているんだとか。
「学校の後輩たちの間で、すごく評判なんです。特に、実験のコーナーが」
陽菜の言葉に、正一さんが嬉しそうな表情を見せる。学校を辞めてからずっと、自分の経験を活かせる場所を探していたのかもしれない。
「それで、私……お手伝いさせていただけないでしょうか?」
陽菜の申し出に、店の中が少し騒がしくなる。
「写真を撮ったり、動画を編集したり。今までSNSのことばかりに夢中で……でも、本当は人の役に立つことがしたくて」
彼女の声は震えている。でも、その目は真っ直ぐだ。
(人間って、案外ひょんなきっかけで変われるんだにゃ~)
私は店の入り口で、この展開を見守っている。すると、響也が通りかかった。
「あ、アメノメ」
彼は私に気づくと、立ち止まる。最近は地域の音楽教室で、子供たちにギターを教え始めたらしい。
「子供たちに教えるの、難しいよ。でも、教えているうちに、自分も学べるんだ。教えることが最良の勉強っていうのは本当だな」
響也は文具店の中を見て、微笑む。
「人は一人じゃない。爺さんが教えてくれたよ」
その言葉に、私も頷く。この街で生きる人たちは、少しずつだけど、確実につながり始めている。