第3章:夏の到来
真夏の日差しが、キャンパスを照りつける。私は図書館の古い木々の下で、涼を取っている。
(暑い日は、人間の本性が出るにゃ~)
図書館の中では、合同セミナーの準備が進められていた。
「これは面白い発見ですね」
星加が、空の研究データに目を通している。
「これは面白い発見ですね」
星加が、空の研究データに目を通している。
「ありがとうございます。椿先生の古典的な解釈と、デジタル分析の結果が一致して」
空の声には、少し自信が混じっている。先日の出来事以来、彼は精力的に研究を進めているのよ。
「ふむ、確かにな」
椿も、老眼鏡の奥から資料を見つめる。
「従来の解釈が、科学的に裏付けられるというのは、面白い視点だ」
その言葉に、星加の目が輝く。
「椿先生、やはり両者の手法には相性の良さが」
「まあ、若い者の意見も、時には聞かねばな」
二人の間には、まだぎこちなさは残るものの、確実に対話が生まれ始めている。
「あの、これもご覧ください」
澪が新しい資料を差し出す。
「和歌の季節表現について、データベースを使って調べてみたんです」
彼女の発表に、教授たちは真剣に耳を傾ける。伝統的な読解と最新技術。その両方を学ぼうとする姿勢が、周囲の信頼を集めているのね。
(人間って、本気で取り組むと周りも変わるにゃ~)
私は窓辺で、その様子を見守っている。すると、千景が近づいてきた。
「みんな、良い顔してるわね」
彼女は満足げに微笑む。
「でも、まだ課題はある。特に……」
千景の視線の先には、一人の学生の姿。研究室の隅で、パソコンに向かう若い女性。篠塚葉月。修士課程の学生で、最近研究が思うように進まないらしい。
「葉月さん、休憩しません?」
千景が声をかける。
「あ、はい……でも、まだ」
葉月の目は疲れを隠せない。
「無理は禁物よ。たまには外の空気も」
千景の言葉に、葉月は小さく頷く。
(若い研究者って、自分を追い詰めやすいにゃ~)
私は二人の後をつける。中庭に出ると、少し涼しい風が吹いていた。
「実は、自分の研究に自信が持てなくて」
葉月が静かに打ち明ける。
「みんな、新しい発見をしているのに。私は……」
その悩みを、千景は黙って聞いている。
「焦らなくていいのよ」
優しい声。
「研究は、マラソンみたいなもの。自分のペースでいかなくちゃ。人と比べる必要はない」
その時、思わぬ人物が声をかけた。
「私も、同じように悩んだことがあります」
澪が二人に近づいてくる。
「今でも悩むことはありますよ。でも、それは研究者として当たり前のこと」
彼女の言葉に、葉月の表情が少し和らぐ。
(人間って、悩みを共有すると楽になるにゃ~)
夏の日差しが、三人を優しく照らしている。
そこに、空も加わった。
「篠塚さん、良かったら一緒に」
彼は自分のパソコンを開く。
「僕の研究、アドバイスをもらえませんか?」
その言葉に、葉月は少し驚く。
「私なんかに……」
「いいえ、むしろ新鮮な視点が欲しいんです」
空の誠実な態度に、葉月は少しずつ心を開いていく。
研究室からは、星加と椿の声が聞こえてくる。二人は相変わらず言い合っているけど、その口調には以前のような敵意は感じられない。
(人間って、少しずつ変われるにゃ~)
私は木陰で、夏の訪れを感じながら、そんなことを考えている。




