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決められた結婚相手。

「……アリアンヌ様もさ、婚約者いたよね」

「ええ……?」


 急ではありましたが、返事はします。私の婚約者のことは周知の事実ですわね。


「大変だよね……もう決められているなんて」

「……なんですって」


 オスカー殿の発言に、私は彼を見た。そう、それが私の当たり前。それをオスカー殿が言ってくるだなんて。


「親が決めてきた相手と結婚確定、なんて」

「……オスカー殿、そのへんにしてくださいませんか?」


 令嬢として育てられた私。違和感を抱いたままでも、それを受け入れてきたのに。それ以上、言わないでほしい。


「……ごめんごめん。つか、俺もそうなんだろうなって」

「……!」


 私はどう答えたら良いのか。あなたはまだ自由が利くのではありませんか? 私よりはよっぽどです。ですが、違うというのですか。

 オスカー殿、あなたは……家に縛りつけられているのですね。あなたは再婚相手側にも、そして――父君にも。


「……はあ。お互い、窮屈だね」

「……」


 本当に……答えづらいですわね。でも、それでも……。


「お気持ちはわからなくもありませんわ。あなたも……私も、しがらみはありますから」

「……うん」


 オスカー殿はそう返事した。私の今の発言に。


「……」


 夕暮れのせいかしら。私は落ち着かなくなってきました。今の私の発言とて、危ういものだったかもしれません。あまりこちらに留まるべきではなさそうです。私は自分の席に向かい、鞄を手にとったところ。


「……アリアンヌ様はさ。本当に殿下と結婚したいの?」

「!」


 私は掴んだ鞄を落としそうになって……いえ、実際に落といてしまいました。目に見えての動揺とは、このことでしてよ。


「……突然何を仰るのかしら? 私には身の余るお話。光栄なこと、この上ありませんわ」

 ええ、私は突然だから驚いただけです。突然だっただからです。ええ。

「そっか……うん、そうだよな」

「……」


 夕日に影。オスカー殿、あなたのお顔がよく見えませんの。逆光は彼の顔を隠しているから。どんな表情で、どんな思いをしているというの。


 もう帰りましょう。私達、なんだかおかしくなりそうです。


「……もうさ、駆け落ちとかしてさ! 家のこととか何もかも放り投げたい!」

「!?」 


 び、びっくりした! 驚愕も驚愕ですわ! 私、机の脚に足をぶつけてしまいましてよ。


「大丈夫?」

「え、ええ、まあ……」


 足の痛みより、衝撃度が勝りましてよ……。オスカー殿は悠長なご様子。あの爆弾発言をしといて? 


「はは……すげえ逃避願望。しがらみ、本当にそれだなって。軽々しく付き合ったりできないわけだし」

「そ、そうですのね……」


 意図もせずに、だったのでしょうか。オスカー殿、そうは言っても実際はしないでしょうが。あれだけ民思いの方ですもの――何もかも放り投げるなど。


 ましてや駆け落ちなど……ああ、衝撃的ではありましたわ。


「……本当にあなたときたら、驚かせてばかりなのですから。口外はしませんから、安心なさって?」

「そうしてもらえると、助かります。確かにさ、問題発言だったね」


 オスカー殿は陽気にそう仰いますが。


「ええ、そうですわね……ですが、あなたの本音でもあったのでしょう?」


 駆け落ち云々というよりは、貴族のしがらみというものが。彼をしばりつける男爵家のことが。


「抱え過ぎているあなたのことだから。笑顔の下で、あなたは抑えてつけてきた。思わぬ言葉だったとしても、私は聞けて良かったと思っています」

「……」


 オスカー殿は黙られたまま。帰る様子もなさそうですわね。私の方で失礼することにしましょうか。


「では――」

「違うよ、そうじゃない。俺は――」


 去ろうとした私に投げかけられた言葉。少し語気が強めですわ、


「俺はきっと、アリアンヌ様に聞いてほしかったんだ。あなたになら話せるって」

「……そうですのね。その、嬉しく思いますわ」


 私は言葉が詰まりそうになった。今も上手く声に出せないけれど。


「――ごきげんよう、オスカー殿」


 挨拶だけはしっかりしようと。私は彼を残して教室を後にしたのでした。




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