憂うオスカー殿。
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休憩時間もこのへんで終わり。私達は再開することにしました。私達から距離をとっていたイヴも既に作業に入っていますわ。急ぎませんと。
ふう。本日の作業もここまで。廃屋だったそこも、建物として復活間近です。
「本当にありがとう……アリアンヌ様、イヴ君も」
オスカー殿は感慨深そうに眺めていました。特別な思い入れがあるのでしょうか。
「……ここさ、食事処だったんだ。でもって、たまり場」
オスカー殿が呟かれました。彼は続けます。
「……楽しかったよ。訓練の帰りとか、みんなで訪れて。でも最近になって店主が……いなくなって。誰もいなくなって」
そうでしたの……そのようなことが。
「……皆、そうやっていなくなっていく。ここだけじゃない。空き民家、結構あっただろ? ……皆、愛想をつかして出て行ってるんだ」
「……そんな」
空き民家。空地。確かに目にはしました。男爵領、栄えあると耳にしていましたのに、実情は違うのだと、目の当たりにはしてきました。だからって……。
「俺は当然だと思っているよ。だって――」
オスカー殿が言いかけた時。足音がしました。
「きゃははは、オスカー? あんたぁ、何やってるの?」
「というか、捜したんだけど? こっちが頼んだこと、やってくれてるのぉ?」
甲高い笑い声と共にやってきた婦人達。私達は振り返りました。その声もお姿も覚えがあるもの――フェル男爵家のご婦人方。オスカー殿の義理の姉妹にあたる方々。
「ぷっ。薄汚れた格好だこと。私達を見習えばいいのにぃ」
「もうお姉様ったらぁ。可哀そうよぉ……それに、オスカーにはお似合いではなくて?」
くすくすと扇子を片手に笑う彼女達。豪華なドレスで着飾る彼女らに対し、オスカー殿は汚れた作業着。対比となっておりました。
「……っ」
オスカー殿は手を強く握って――耐えておられました。彼は言い返すこともありません。
……オスカー殿。あなたの思い出の場所でしょうに。どうして、何も言わないのです。そんなにも耐え忍ぶというのですか。
「……オスカー殿」
何故、あなたの瞳はそんなにも揺れ動いているのです。そんな、泣きそうな顔をなさっているの……?
「あんたなんて、領主よりもそうやって? 下働きの方がお似合いなんじゃない?」
「きゃはは、そうそう!」
馬鹿にしているのですね。それでもオスカー殿は……。
「――ええ、お似合いでしょうね」
私は黙っていられなくなった。笑顔のまま、そう言い放った。
「……」
オスカー殿は俯き、姉妹達は私を訝しんでいます。というか、今になって私の存在に意識が向いたのでしょうか。
「たとえ、どれだけ汚れようと。民に寄り添い、民を思う。そんなオスカー殿こそ、次期領主に相応しいと思いますわ」
「……」
「私も見習いたいところですわ。民があっての領地ですもの。ね、オスカー殿?」
「……」
私はオスカー殿を見ました。オスカー殿は顔を下に向けたまま。
「な、なんなの。どこぞの令嬢か知りませんけどねぇ……!」
「お伴も連れずに? 男と二人きりとか? 程度が知れていませんか?」
今度は私に対しても難癖をつけてきた。気分は良くないですが、事を荒立てることも――。
「……失礼だよ、二人とも。アリアンヌ様のこと、そんな風にいうなよ」
絞り出すような声。オスカー殿は俯いたままながら、姉妹達にそう向けてました。
「なんなのよぉ、オスカーのくせに……!」
「待って、姉様! この方、アリアンヌって……まさか」
オスカー殿の言葉に憤慨していたのに、姉妹達は顔を見合わせました。私が公爵家の人間と知ると。
「た、大変失礼致しました! ところで……オスカーと仲がよろしいのでしょうか? ええ、是非仲良くしてやってくださいませ!?」
「私達、出掛けますので? このへんで失礼させていただきますね? ごめんあそばせ?」
態度を急変させ、足早に去っていった。着飾った彼女達、このまま夜遊びに繰り出すのでしょうか。
「……うちの姉と妹が失礼しました」
ようやく口を開いたオスカー殿。謝罪の言葉でした。
「……いいえ。私は良いのです。ただ、あなたが。大変だったでしょうに……私のことを庇ってくださって」
「俺のこととか気にしないで」
どう見てもあなたの方が傷ついたでしょうに。あなたが私に対して心を痛めることなんて。
「……。そろそろ時間じゃない? 馬車まで送るよ」
オスカー殿の仰る通り。元々解散するつもりでしたものね。
「ありがとう、お言葉に甘えますわね。オスカー殿、また来ますわね」
「……それは嬉しい。嬉しいんだ、でも」
オスカー殿は悲しそうに笑ってます。わかりますわ、あなたが憂慮していることは。またあの姉妹に絡まれることがあったら、でしょう?
「気にせず参りますわよ? オスカー殿、完成間近なのですよ? 見届けたいではありませんか!」
私は明るめに言った。少しでもオスカー殿が気にしないで済むようにと。
「……そっか。うん、そうだね」
オスカー殿は儚くも笑ってくださいました――。




