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殿方のピンチも拳で粉砕でしてよ!

「では、ごゆるりと」


 オスカー殿が向かわれのは、廃屋でした。言葉よろしくないですが、古びているというか、いつ崩れてもおかしくないともいうか。彼は近くに置いてあった修理用の道具を手にしております。


「あなた……修理しようと?」

「……ええ、まあ。大事というか……思い出の場所というか」


 オスカー殿は懐かしむかのように、廃屋を見つめておりました。とても優しげな表情です。


「……お嬢様、危ないですよ」


 近づこうとした私に、イヴはそう声を掛けてきました。ええ、私も危ないですが、もっと危ないのは――。


「!」


 私の目は見開かれた。オスカー殿の頭上に、木材が落ちてこようとしていた。オスカー殿は手で受け止めようとしているのか、高く掲げていた。それでは間に合わないのではと。


「今、参りますわ!」


 その言葉と同時に駆けつけ、それから――私は落ちてきた木材をアッパーで叩き割った。


「……!」


 唖然としたオスカー殿を避けるように、木片は地面に落ちていった。


「……ふう。ご無事ですわね」


 オスカー殿にお怪我はないようですわ。


「……ゴリラ?」


 第一声がそれでした。オスカー殿? 


「……失礼しました。一旦、離れましょう」

「ええ」


 オスカー殿は私の手を引いて、連れ出してくれました。いつ倒壊してもおかしくありませんものね。


「……助けていただき、ありがとうございました。それと御無礼をお許しください」

「オスカー殿……!?」 


 安全な場所に連れてきた直後、オスカー殿は深々と頭を下げてきました。


「いえ、良いのです、良いの。私の方こそ、木材を台無しにしてしまいましたわ。追って弁償致しますから」

「……いいえ。いいんです。そうだ、本当は壊すべきなんだ」


 顔を上げたオスカー殿は、再び廃屋の方を見ていた。


「ごめん……守れなくて」


 それは、どなたかに向けたお言葉。オスカー殿は本当に思い入れがあるかのようで。私は見ていられなくなってしまいました。


「……ええ。壊すところは、壊す必要はありますわね。ですが、極力は残していきましょう」

「……アリアンヌ様?」

「私も手伝いますわ。ちょうど春休みでもありますもの」


 私は自身の胸に手を当てた。妃教育などはありますが、それでも時間は作れますから。


「ですが……」


 オスカー殿は困惑しておられるわ。それも当然ですものね。いきなりの申し出ですもの。

 私、見ていられませんのよ。あなたへのご負担が多すぎて。てっきり、優雅な暮らしをされているかと思いましたが……違うようですわね。


「力仕事も出来ますわ……商人の娘ですもの!」


 ですもの! と私は強く言い切りました。


「ははっ、商人の娘、関係あるかなぁ」


 オスカー殿は脱力されながらも、笑っておいででした。


「関係ありますわよ。運搬も自ずからするのですから」

「……それもそっか。身のこなし、只者じゃなかったし」


 オスカー殿の目が光ったような、そんな気がしました。


「……有難い申し出ですし、ありがとうございます。一つ、お約束をしてくだされば」

「何かしら」

「屋内の作業は俺が行います。なるべく危ないところに立ち入らないようにしてください。……後ろの人、怖いし」


 後ろ……ああ、イヴですわね。うんうん、と同意していますわ。


「ええ、わかりました。では、本日はどちらから手をつけようかしら――」


 オスカー殿の指示の下、私とイヴは動く。ああ、イヴ。ごめんなさいね、付き合わせて。あとで労っておきましょう。


「……オスカー殿」


 あなたはそういう方なのですね。なんだかんだで重労働はご自身が、負担の少ない仕事は私達へ。どこまでも気を遣われる方なのでしょう。

 ええ、私は危険な仕事は出来ませんわ。ですが。


「ふんぬっ」


 重いものはお任せくださいね? こうして軽々と持ち上げてみせましてよ? 


「やっぱゴリラだ」

「……オスカー殿、二度目はあんまりではなくて?」


 ごめん、と舌を出しているオスカー殿でした。悪びれもなく、ですわね……?


「本に書いてあった通りだ。脳筋……って、お嬢様! それも危ないですって!」

「イヴ、あなたまでですのね!?」 


 私達は賑やかに作業を進めるのでした。



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