いざ、男爵領へ!
本日は快晴ですわね。花々が芽吹いており、絶好のお出かけ日和ですこと!
私は街並みを散策しておりました。これまで訪れたことのない地、新鮮な気持ちになりますわね。
『――私はいずれ王族に嫁ぐ身。市井を知りたいのです。出来れば……お忍びで。例えば……フェル男爵領とか』
はい、私が考えた口実でございます。突然の男爵領、苦しいですわね。厳しいですわね。ですが、ごり押ししました。イヴも加勢してくれたのもあり、説得は出来ましたのよ。
「……男爵領、ですか」
怪訝そうに見てくるイヴを傍らに、背後には隠れて待機している護衛達。お忍びでありますからね、私達は身分を隠すのような服装をしております。民に紛れてもなんらおかしくもない恰好でしてよ。イヴが手配してくれましたの。
「……まあ、お一人で行かれるよりはですし。お伴させてください」
「助かりますわ、イヴ」
事情を知っているイヴは、嫌そうな顔をしつつも協力はしてくれます。
私達は住居が連なっている道を歩いています。それにしても……。
以前聞いた話、そして資料からしましても。もっと男爵領は賑わっておりましたのに。ところどころ老朽化しており、でも修繕はされておらず。どことなく薄暗くもあります。
「あら?」
観察している私の元に転がり込んだのは、ボールでした。やってきたのは、幼い子供達。元気よく駆け寄ってくる。
「あなたのでしたのね? どうぞ」
私はしゃがんで、ボールを拾いました。少女に手渡します。ええ、蹴って返すところでした。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「ありがとうございましたー!」
ああ、眩いこと! 子供達の笑顔に、私も癒されますわぁ。走り去っていく姿も微笑ましいこと。
「きゃっ」
ああ、危ない! 走ったはいいものの、少女が転びそうになっていました。
「――っと。慌てるなって、いつも言ってるだろ?」
「あ、オスカー様。えへへ、ありがとう」
「いいけどさ……ほんと、気をつけなよ?」
転びそうになった少女を易々と受け止めたのは――オスカー殿でした。彼もまた、軽装でした。
「オスカー様、稽古つけてよー」
「オスカー様、すまないねぇ……妻の重い荷物、運んでくださったそうで」
「オスカー様、はぐれ魔物を倒してくださったとか。有難いんですけどねぇ、無茶しないでくださいよ……」
貴族の恰好でない彼は、民に混じっていたのです。それもこんなにも慕われて。
「いいって、いいってー」
笑って答えるオスカー殿。楽しそうにやりとりされています。ひとしきり会話をされたあと、彼らは散っていきました。残されたのはオスカー殿です。
「……ふう。で、お客様かな?」
私達に目を向けたオスカー殿、気づいてはないのでしょうか。面識もありませんでしたものね、公爵家の者だと気づかれてないのでしょう。
「ただの観光客ですわ。素敵なところですわね」
お忍びの視察ですから、今は名乗れませんわね。
「……」
「……」
微笑むと、オスカー殿からの視線を感じました。落ち着かないですわね……。
「……ようこそ。本当に良いところですよ。楽しんでいってくださいね?」
オスカー殿は笑顔ながらも、固めの表情、そして振る舞いでありました。気づかれているのかしら……?
「――お嬢様。商売の視察でもありましたでしょう。大通りに戻りませんか?」
「ええ……そうですわね」
それです、イヴ! その設定でいきましょう。私は商家の娘ですわ、私は商家の娘……!
「……ふうん。ま、いいでしょ。お金沢山落としてくれたら、嬉しいですね?」
オスカー殿は爽やかな笑顔で、結構言いますのね。期待という名の重圧をかけられているようでしてよ……!?
「ええ、かしこまりました。楽しみにしておりますわ」
とはいえ、本当に良い物がありましたら検討はしてみましょう。色々と参考にもなりますし。




