夕暮れ時の告白現場。
「ふー、やらかしましたわ……」
忘れ物、忘れ物ですわ。ヒューゴ殿からお借りした本。私は一人、教室に取りに戻っておりました。
「ん?」
私は教室の扉に手をかけようとしたところ、話し声がするではありませんか。日が長くなったこともあり、残る生徒も増えましたものね。
「!」
扉の窓から様子を伺うと、夕日を背景に男女が……男女が! 婦人の方は背を向けておられますが、相手方は――オスカー殿でした。
なんでしょう、この雰囲気。この特殊な、この雰囲気。私にも覚えが……。
「……?」
覚え、ありましたかしら……。ああ、頭が曖昧ですわ……。
いずれにせよ、まずいですわね。このムードからして推察されますは……告白現場でしょう。いけませんわね、私は早く立ち去らねば――。
「……私、オスカーのことが好き。好きなの」
おっふ。もう始まってしまいましたわ。そこは致し方ないこと、音も立てずに去らないと。
「うん、俺も好きだよ」
おっふ。返事まで聞こえてしまいましたわ。まあ、両想い! 軽めな返事も照れ隠しかしら……なんて、浮かれている場合ではなくてよ。色々な意味で。
不可抗力ですわ、不可抗力。ああ、今度こそ去りましょう。私は忘れ物を諦め、彼らに背を向けて歩こうと――。
「……冗談じゃないんだよ? 私、本気で好きなの。――他の子と一緒にしないで!」
オスカー殿の軽い言い方。それが彼女にも引っかかったようです。気にならないといえば嘘になります。それでも、私は足を前へと動かさざるを得ないのです……!
「ねえ、オスカー!」
少女の荒げた声。な、なんですの。修羅場ですの……? 急展開過ぎませんこと? ですが、男女の事。私は既に盗み聞いているわけですから――。
「!?」
音がした。何かが倒れる音。それから――。
「……え。オスカー、オスカー……!?」
少女の悲鳴。オスカー殿に、彼に、何があったのいうのです。
「……!」
私は走って引き返すことにしました。
「――失礼しますわ。物音とあなたの悲鳴が聞こえてきましたので」
私は告白を聞いていたのを隠し、扉を開けて教室に飛び込んでいった。立ち尽くしている女子生徒と、倒れた机や椅子。そして。
「……アリアンヌ様?」
座り込んだオスカー殿。彼の顔はとても……青くなっていました。
「お怪我はありませんの?」
オスカー殿は立ち上がる力もなさそうで。私が手を貸そうとすると。
「……」
オスカー殿は一向に手をとる気配はありません。彼女にも私にも対してもそう、オスカー殿は怯えきった目でみていました。
「……わ、私」
彼女もまた、震えていました。彼女がオスカー殿に何かをしたのは確か。苛立ったあまりにもとも考えられますが、ここまでのことをするのでしょうか。
これほどまでにオスカー殿が怯えるようなことを。鍛え上げられている彼をも倒す力も、この華奢な少女にはあるのでしょうか。
「私、ただ、オスカーに触ろうとした、だけで……」
私の登場に、彼女はすっかり萎縮してしまっています。厳しい表情で黙り込んでいたのもまた、彼女に恐怖を与えてしまったのでしょう。
さて、どうしたものでしょうか……。
「……彼女、悪くないから。俺が勝手に転んだだけ。足、滑らせてさ。怪我とかもないから。俺、タフだし」
オスカー殿はそう言いながら、ご自分で立ち上がりました。私への説明と。
「ごめん、驚いたよね。君は何も悪くないから。……俺が、悪いから」
彼女に向けてフォロー。オスカー殿は辛そうな表情をしながらも、私達を気遣ってくれていました。
「……それと。さっきの『話』の続きだけど」
オスカー殿はちらり、私の方を見てました。そうですわね、第三者がいては、ですわね。
「……忘れ物を取りに参りましたの。では、ごきげんよう」
私はさっと自分の席へと移動し、お借りした本を手にした。それから足早に教室に戻っていった。
今度こそ、耳を閉ざしましょう。急ぐのですよ、私!
オスカー殿は彼女に返事をしたのでしょう。彼のあの真剣な面持ち、今度は『軽い返事』ではありませんわね。
本日も無事に終え、あとは就寝のみ。私は天蓋付きのベッドに入り込んだ。
「ううっ……」
身体がぶるっと震えてしまいました。窓は締めきっており、冷房が効いた部屋です。本当は窓を全開にしたら丁度良いぐらいですが、令嬢という立場もありますものね。ああ、夜風にあたりながら寝たいものですわ……。私は布団を深く被りました。
目を閉じて考えるのは、本日の出来事。ヒューゴ殿からも本をお借りしましたわね。
ヒューゴ殿から借りたご本は、恋愛小説。まだ読み終えておりません。中々読み応えがあり、続きが気になるものでした。明日の楽しみにとっておきましょう。
これから暑さは増していくことでしょう。長期休暇も楽しめますかしら。まだまだ続いていくのかしら。
いつ終わりが来て、いつ始まるかわからない日々。だとしても、私は明日に期待を馳せながら眠りにつくのでした――。




