曇り空の下、楽しい昼食会。
この日もまた、晴れておりました。それもあって、屋外でランチをとることにしたのです。
サロンのメンバーは結局、誰一人も戻ってはきていません。挨拶や雑談出来るようになっただけでも、進歩はあるのだと思いましょう。
「今日はね、僕が作ってきたんだ」
イヴ。彼は私に付き合ってくれています。あなたは離れずに居続けてくれて。ありがとう、イヴ。
「……どうしたの?」
「いえ? 美味しそうですこと」
つい、呆けてしまいました。イヴも呆れているかしら。
「さあ、いただきましょうか。どちらにしようかしら?」
「うん、たくさん召し上がってね?」
何はともあれ。美味しそうなのは確かです。バスケットの中にある、色とりどりの心躍らせる料理達。私が手をつけるまで、イヴはそうしませんからね。迷いますが、早く決めてしまいましょう。
「絶品ですわぁ……」
「そっか、良かった。本当に美味しそうに食べるなぁ……」
幸せそうに食べる私を、イヴはにこやかに見守っています。食べないのでしょうか?
「ん?」
視線を感じました。来訪者かしら?
「……な、なんということでしょう。これが従者の姿といえるのですか!?」
愕然としたご様子ながらも、やってきたのヒューゴ殿でした。もしかして、イヴの崩した態度のことを?
「イヴ殿、さすがに不敬ではありませんか? アリアンヌ様もです。正さなくて良いのですか」
「って言われても。二人きりの時は、これでいいって。アリアンヌ様にも許可得てるんでー」
「なっ」
ああ、イヴ……。私と二人きりならともかく。今はヒューゴ殿がおられるのに。
「……私は、マウントをとられているのでしょうか」
いえ、マウントとか。私の方で流れを変えましょう。
「ヒューゴ殿。どうなさったのです?」
「共に昼食をとりたくて、貴女を捜していました。私の分は持参しておりますから」
おっふ。ストレートですわね。ええ、まあ、そう思っていただけるのは有難いですわ。
「そうでしたの。ええ、ご一緒しましょう。イヴも、差し上げてもよくて?」
イヴの絶品料理も召し上がってほしいですわ。
「……。はい、喜んで! どうぞ、ヒューゴ様」
今、間がありましたわね。私から言い出したのが良くなかったのかしら。
「……ええ、失礼します。それと、イヴ殿。今更ですから、私の前で偽らなくても結構ですよ」
「ええ、そんな……偽るって何のお話ですか?」
ああ、表面上は互いに笑顔なのに。なんでしょう、殺伐としておりますわ。
「あなたが砕けた態度を取る時。いわば、アリアンヌ様が寛いでいるということでしょう? ならば、そうしていただけたらと」
ヒューゴ殿は優雅な笑みでそう言います。
「……はい? まあ、そっちがいいならそうするけど?」
ああ、イヴ。張り付いたような笑顔ではありませんか。私にもわかる程でしてよ!
「……ほらほら。私が食べつくしてしまいましてよ。召し上がりませんこと?」
私は食事を再開しました。まあ、本当に美味しいですわ。ほら、お二人も。
「おいしゅうございますわぁ……ほらほら、お二人も」
頬がとろけるようですわ。夢心地ですわぁ。さあさ、二人とも食べるのですよ!
「食べ物でこんなにもご機嫌になるのですね……」
「アリアンヌ様、食べるの大好きだから。機嫌とりやすいというか……」
「ああ、でしょうね……本当にわかりやすい方ですね」
「ほんとそれ」
なんでしょう、結託しておりませんこと? 争いがなくなったのは、よろしいことですが……。
「ええ。私は充実しておりますし、果報者ですわよ」
何とでもおっしゃいなさいませ。私はこんなにも幸せなのですから。
「……ええ、幸せです。こうして食事を共に出来ることも。ささやかなことであっても、幸せを感じられるのです、私は」
得意にもなります。それに、本当のことですから。
「……ええ、そうですね。それは私も同感です」
ヒューゴ殿は茶化すことなく、私の言葉を受け止めてくれました。
「――こんな日々が、永遠に続けばいい」
「……!」
ヒューゴ殿は、目を細めてそう口にされました。あの夜の言葉ですわね。
「……えっと、なにこの雰囲気」
イヴが胡乱な瞳で見てきます。ふふ、とヒューゴ殿は人差し指を立てられました。秘密、といったことですわね。
「……ふふ」
私は笑って返すことにしました。ヒューゴ殿、軽口ですわよね? ええ、彼は微笑んだまま。
「……」
ごめんなさい、ヒューゴ殿。私はこの日々が永遠でないと、知ってしまったのです。それでも。
この日々がかけがえのないのは、私だってそうなのですから。
ええ、いつ終わりが来て。また新しい日々が始まるのかはわかりません。
せめてその時まで。束の間の休息ともいえるこの日々を過ごせますように――。
私は歪みを正す為に、攻略対象相手に日々を繰り返すことになる。
限られた日々だからこそ、精一杯生きましょう――。
お読みいただきまして、ありがとうございました!
今回の話で一区切りとなります。
次話からは新たな展開となります。
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