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歪みを正し、本来の物語へ。

 日々は穏やかに過ぎていきます。雨季は続いていますわ。雨季が終われば本格的な夏を迎えます。


 この日は休日、久々の快晴でした。ああ、貴重な晴れの日ですわ。

 私は庭園のブランコに座り、空を見上げました。優雅な昼下がり。微睡みの中、私は瞳を閉じました。




 懐かしい匂いがしました。ひだまりの中、私は歩いていました。

 私は不思議とわかっていた。ここはきっと、夢の中なんだって。

 長い金髪の髪は、肩くらいの黒髪。背丈や体格もそう。今のは私は――小川結衣の姿となっていました。


 木々のざわめき。中心にそびえ立つのは、大樹。

 ここは、私が転生前にお世話になった場所。ブリジットや、セレステとも友達になって。番人さんもよくしてくれて――。


「――小川結衣」

「!」


 黒づくめの人。この人はきっと――大樹の守り人。


「話したいことがあった。故に、こうして現れた」

「お話、ですか?」


 小川結衣へのお話のようです。聞くことにしましょう。


「まずは、詫びねばならない。すまなかった」

「……あの?」


 何を謝られるというのでしょう。私に謝罪するようなことなど。


「小川結衣。あなたの転生は本来なされるものではなかった」

「……」


 私は絶句した。私はアリアンヌ・ボヌールとして。アリアンヌ様の代わりでもあったけれど、それでも頑張ってきたのに。その転生が違っていたって、どういうこと。

 困惑する私に構うことなく、その人は説明を続けています。


「あなたの転生はまだ未定だった。何者かはわからないが、故意にねじ込まれた。それが近しい表現だろう」

「未定とか、何者とか、ねじ込まれたとか……」


 私の声はようやく形となりました。自分でも引くほど、恨みがましい声。あれだけ長かったのに、私の転生先は決まってなかったとか。第三者によって、とか。

 転生先……違ってたんだって。


「……お話はわかりました。でも、私、あそこで生きているんです」


 私は、あそこで良かったのに。元はゲームの世界だったとしても、私の現実であったのに。アリアンヌ様として、生きてきたのに。――彼女につきまとう死の真相だってまだ、突き止められてないのに。


「そうだ。それが――あなたが次に輪廻に向かう為の術だ」


 思考読まれまして? いいえ、不安になっている場合じゃない。話を聞いておかなくては。

「あなたの住む世界は歪みが生じている。それに囚われているのが――あなただ」

「私が……」

「さよう。世界を――物語を、正しいものへと戻す。それが、あなたに与えられた役目でもあるようだ」 


 私には十分伝わる説明だった。きっと間違っていない。

 やはりというべきか。私の介入があって、アリアンヌ様の世界は歪んでしまった。主役である本来の彼女も眠りについたまま。


 私は、ヒューゴ殿の時のように。攻略対象達と健全で正しい未来を勝ち取らないとならない。それを繰り返していく内に、歪みも正されていくのだと。

 奇しくも、私の狙いが。その与えられていた役目と一致していたのです。


「……そうですか」


 私は引き受けることにしました。そのつもりもあったから。


「……本当なら、私が行く世界じゃなかったんですね」


 寂しい。辛い。私、あの世界が大好きだったけど。でも歪みだから。

 私が役目を終えるまでの間。それでもいられるなら。それでよいのでしょう……。


「……お話、わかりました。こう、なんといっていいかな話なんですけど。おそらく、私がアリアンヌ様の美貌とスペックをお借りして、男の人といい感じになる。といったところでして。それを続けていく感じですか?」


 説明……なんとかなりませんでしたの。でも、どう言ったらいいのか。それに、日々は五月末日では終わらなかった。まだ続いているのだから。


「把握している。おそらく――途中で日々が巻き戻る。その都度、あなたは心を通わせていくことになる」

「なるほど」


 一度攻略したら、また最初から。そういったところでしょうか。それはゲームの仕様ともきっと一緒。


「あの不思議な書、そちらに記された人物。彼らが歪みの影響を受けている」


 不思議な書、それはイヴが記したという書のことでしょうか。そちらに記された人物、それは四名の殿方のことですわね。なるほど、隠しの方は良いということかしら。


 歪み、影響……ああ、そういうことでしたのね。私のプレイ時、結末が怖ろしいものになってしまったのは。それこそ―アリアンヌ様の結末もですわね……。


「……すまなかった」

「い、いえ、そんな」


 目の前の人は頭を下げてきた。無機質な言い方ながらも、私に対する申し訳なさは伝わってきた。ですが、この人が悪いというわけでもありませんわ。


「……本当にいいんです。私は自分で出来ることをやるだけですから」


 それが私の役目だというのなら。このまま続けていきましょう。


「改めて、すまなかった。――刻限か。話は以上だ」

「はい」


 私の目覚めが近いからか、その人は話を切り上げた。


「あの、すみません。最後に質問、いいですか?」

「どうした」


 私が気になっていたこと、それを問いかけることにしました。ずっと、気になっていたこと。


「――前の番人さん、どうしたんですか?」


 私の目の前にいる人は、私が接していた番人さんではありません。声や話し方は似ているけれど、私は別人だと思っておりました。


「……」


 私の質問に、相手の人は黙ってしまわれました。答えづらかったのでしょうか。あの番人さんにはよくしていただきましたし、何より長い付き合いだったから。それで気になってしまったのです。

「すみません。私――」

「……アレは役目を終えた」

「終えたんですか……?」


 答えてくださいました。番人さんの役目とは。


「……長き役目を終え、アレは――転生した」

「転生……」


 そうなのですね。あの人も……。番人さんも転生は出来るのですね……。


「ありがとうございました。あなたもいずれは」


 この人……いつまでもこの人呼ばわりもですわね。新番人さんと呼ばせていただきましょう。いつかは、なのでしょうか。


「……いずれ。長き役目を終えた時に」

「そうなんですね……」


 私にとっては懐かしい場所。もう少し滞在したい気持ちもあったけど、でも、眠気がやってきました。重くなった瞼が今にも閉じられそうです。


「さあ、小川結衣。いや――アリアンヌ・ボヌールとして。目覚めの時間だ」


 その声と共に、私は夢から覚めました。




お読みいただきまして、ありがとうございました!

明日も投稿予定です。

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大変励みになります!よろしくお願い致します。 


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