ヒューゴ殿との愛のカタチ。
「……花言葉、あるんです。私が発見時に加えました」
「ヒューゴ殿?」
汗ばんでいる手。あなたは緊張していらっしゃるの? 私も……私もそうですわ。
「……といっても、愛の言葉ではありません。当時の私は何をやっているのですか!」
「そ、そうですの?」
ヒューゴ殿は、自身を叱咤していました。私はなんだか気が抜けてしまいました。まあ、そうですわね。ここで花言葉が愛しているとか、好きとか。それでしたら直球過ぎますもの。
そのような愛の言葉が――。
「……お顔、赤いですね」
「えっ、そ、そんなことなくてよ?」
免疫がなかったのです、私は。そう、免疫がないからこそ。このようなシチュエーションも慣れないのでしょう。私は指摘の通り、顔を赤くしていることでしょう。それでも、誤魔化していました。
「……本当に甘い内容ではありません。――『永遠に続きますように』。それが花言葉です」
何が永遠になんだ、とか。せめて対象を指定しておけば、とか。ヒューゴ殿はごちています。
「……永遠に続きますように。ふふ」
私は反芻した。なんともまあ、タイムリーとも申しましょうか。
「……笑うときましたか。捻りもありませんから」
あらま。ヒューゴ殿は拗ねているのかしら。まあ、笑ってしまったのは私の方。
「ごめんなさいませ、ヒューゴ殿。私も昨日、同じ願いをしたものですから」
「同じ願いを……?」
「ええ。平和を願ってのものですわ。そして、それは日々にもいえること」
「……」
手は握られたまま。ですがヒューゴ殿は考え込まれてしまいました。
「……そうですね、アリアンヌ様」
ヒューゴ殿はようやく口を開きました。彼は私の瞳を見つめたまま。
「十分な言葉ですね。ずっと永遠に続けばいい。この日々が。――この時間が」
――これ以上ない花言葉だと。ヒューゴ殿はそう仰いました。
「……ヒューゴ殿」
握られていた手は、包み込まれました。ヒューゴ殿は私を見つめたまま。
私は知らない。
こんな彼の表情を。
見せてきたこともなかった表情。
「……?」
時間の感覚がゆっくりとなっていく。私の前を羽ばたいていくのは蝶たち。
ヒューゴ殿。あなたは私に何かを伝えようというの?
それか。私があなたに何かを伝えようとしているのか。
時間はゆっくり。それでも、確実に流れてはいて。
「時間も、日々も。なんだって……こんなにも大切で。アリアンヌ様、私のこの感情は」
私達は見つめ合ったまま。
「……それは」
ヒューゴ殿や、ブリジット様のような強い想い。それを私は抱けるのか。
気持ちが追いついてなかった。私がまだ、恋という感情を芽生えていなかったから。
私達の関係は、きっと奇跡のようなものだった。前まではまともにも会話が出来なかった。
そう、奇跡。こうして笑い合えるようになっただけでも。
ゲーム上でも、リアルでも。本当なら関わらなかったような人。
ねえ、ヒューゴ殿。私はこれで充分なのです。満ち足りているのです。
「私達――友愛の関係を築き上げられたのですね」
「……友愛?」
――彼への親愛の気持ちはあっても。私達は恋にはならなかったのだと。
飛び回るのは紫の蝶達。番のように連れ添っていたのに、二匹はつかず離れずの距離となった。私達の関係を喩えているようで。
私は迎えたのでしょうね――友愛エンディングを。
ええ、これで良かったのです。この選択で良かったのだと。
「ヒューゴ殿。今宵はありがとうございました。また明日、学園でお会いしましょうね」
「……アリアンヌ様」
ヒューゴ殿は、離れる私を目で追った。それから、彼は首を振った。
「……ええ、また明日」
ヒューゴ殿も笑ってくれたのですから。これで良いのです、これで。
「アリアンヌ様。――良い関係を築いていけば良い。ですよね?」
「え、ええ。そうですわね……?」
まあ、私がよく言っておりますわね。そうではありますが……。
「……これまでの私の態度もありましたから。これからです、ええ、これから」
ヒューゴ殿の切れ長の瞳、その目には光がありました。
私が選んだのは、友愛関係。変わらずのものと思ってます。
ええ、そのはずなのです。
ヒューゴ殿に送られて、私は帰宅しました。
『……名残り惜しいですが、本日はこれまで。明日までの我慢です』
去り際のヒューゴ殿のお言葉でした。私にそのような言葉、投げかけますの? 心を開いてくださったということかしら……。
私は寝間着に着替えて就寝をしました。
騒動は治まったことでしょう。ああ、本日は熟睡出来そうです。




