ヒューゴ殿に逢おうとして、それから。
到着したのは、クラージェ邸。ヒューゴ様のご生家です。遅れてやってきたのはイヴでした。私は外での待機を命じました。束の間の休息です。
事前通達もなく、それも夜更けに訪れることになりました。迎えて入れてくれた方は、私が公爵家の人間とわかってはくれたようです。
「夜分並びに突然の訪問、申し訳ありません。私、アリアンヌ・ボヌールにございます。御子息のヒューゴ様に――」
「アリアンヌ様、どうしたのですか……?」
急ぎ気味にやってきたのは、寝間着姿のヒューゴ様でした。声も潜めておいでです。彼の傍らにいた従者の方が会釈をしておりました。私の来訪の時点で、ヒューゴ殿を呼んできてくれたのでしょう。
「……その、両親に見つかると面倒なことになりますから。庭園に出ませんか?」
ヒューゴ様は周りを見ていました。彼とご両親の関係、これまでのことで察してはおります。私、見つかったらさらに迷惑をかけるところでしたのね。
「ええ、かしこまりましたわ。皆様もお騒がせしました」
私は一礼した。ヒューゴ様と共に、ご自宅の庭園へと向かうことにしました。
案内された庭園は、整えられた美しいものでした。おそらくヒューゴ殿も関わっておられるのでしょう。このような事態でなければ、もっと鑑賞したかったものです。
「――失礼します、ヒューゴ様」
「貴方は、確か……」
ひょっこり現れたのはイヴでした。庭園に移動したと気づき、彼もやってきたようです。
ヒューゴ殿も私の従者のことは知ってますわね。挨拶は今、省かせていただきましょう。
「ヒューゴ殿。手短に話させてください。――ブリジット様は訪れられましたか?」
不躾な質問、お許しくださいね。見た限り、ブリジット様のお姿はみえません。というか……ヒューゴ殿? その、あまりにも普段通りではなくて?
「……ブリジットが、ですか? 何故、私の元に?」
ヒューゴ殿は本当にわからないといったご様子。ブリジット様は、彼の元へ訪れていないということですの?
「……さようでございますか」
私はその答えを受け止めるしかなかった。いっそ、ここで足止めでもしてくれてたら。そうも思えていたのに。
「そうなりますと……」
ブリジット様が外出したのは確かなのです。そして、ヒューゴ殿に逢おうともしていた。でも、こうして逢えずじまい。
「……!」
ああ、なんていうことでしょう。彼女は本当に――誘拐されてしまったのですね。
「――失礼、アリアンヌ様。イヴ殿も。一度隠れましょう」
ヒューゴ殿は何かを察知したようです。私達に物陰に隠れるようにと。彼に従って、私達は身を潜めることにしました。
「……」
廊下の窓腰に見えたのは、おそらくクラージェ伯爵。ヒューゴ殿の父君です。頬に汗が伝うヒューゴ殿、この場が見つかってはまずいのでしょう。
「……ブリジットが、私の元にやってくると思った。そうお考えでしょうか」
ヒューゴ殿は声を潜めながら、私に尋ねてきました。私は頷いて返答しました。
「……最悪の想像ですが。私に会いに来ようとした彼女、ですが途中で攫われた」
お間違いないでしょうか。そう、ヒューゴ殿は確認をしてきました。
「……ええ、そうですわ」
「そうなのですね。……ブリジット」
ヒューゴ殿。あなたは平静であろうとしているのですね。本来ならばそれどころではないでしょうに。
「……あなたの元ではない。夜分に失礼しました。私は戻らせていただきますわ」
「待ってください、アリアンヌ様」
私はお暇しようとしましたが、呼び止めたのはヒューゴ殿でした。
「……教えてくださったこと、感謝致します。あとは、こちらの方で捜索しますから」
「ヒューゴ殿……」
そう、あなたは捜しにいこうというのですね。
「……家に頼れる状況ではありません。ですが、私一人だとしても」
「……そうですの」
見つかってはまずい状況ですものね。彼もまた、極秘裏に動くしかないのでしょう。
そんなヒューゴ殿を見て、私は――微笑んだ。
「でしたら、協力しませんこと? あなたのご助力も願いたいですわ」
「貴方は何を……危ないでしょう……!?」
「ええ、危ないとしてもです。私、既に無断で出ておりますから。このままでは帰れませんの」
ヒューゴ殿は案じてくれているとしても、私も退くわけには参りません。
「まあ、協力していただけないとしても。私、時間が惜しいものですから。あなたを差し置いてでも、捜索にあたるまでですわ」
この邸にはブリジット様はいない。次はどこを当たりましょうか。
「……イヴ殿。アリアンヌ様の御身、貴方が守ってくれるのですよね?」
ヒューゴ殿が見据えたのは、従者であるイヴでした。そういえば、先程から黙りきりですわね。体力を使い果たしたにしては、浮かない表情なのも気になりますわ。
「……ええと、僕が。アリアンヌ様を。それは……もちろん――」
イヴは反応が遅れたようです。彼はそうだと言おうとはしている、それでもどこか迷っているようで。
「……はあ、いいです。アリアンヌ様? 貴女は逃走を第一にしてくださいね? 公爵令嬢の身になにかあったら、私の責任問題になりますから」
「ええ……承知しましたわ」
ヒューゴ殿はイヴに目をくれることはなくなり、私にそう念押しをしてきました。納得していただけたということかしら。
「……」
イヴは黙ったままですわね……。
「……今はともかく、ですね。移動は馬にしましょう。こちらです」
「まあ、ありがとうございます」
ヒューゴ殿は厩に案内してくれました。何気に全力疾走続きでしたから、大いに助かりましたわ。
「さて、どこから洗いましょうか。首都でしたら情報も集まりますよね」
「ですわね。首都に向かいましょうか」
そちらでしたら目撃情報も。情報屋にあたるのも良いですわね。ヒューゴ殿と私の見解は一致しました。
「……ええ、首都だと。僕もそう思います」
沈んだ表情のイヴが、そう口にしていました。こうとも。
「……首都の、裏通り。そこが可能性が高いのではないかと」
イヴはこうも絶望をしたような顔をして。私達にそう伝えてきました。
「あなた……」
「……ひとまずはイヴ殿の言う通りにしてみましょうか」
「……。ええ、そうですわね」
私が心配していると、ヒューゴ殿にお声がけられました。いけませんわね、釘をさされたのかもしれません。今は、ブリジット様の救出に集中しなくては。
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