乗り越えた先の約束。
あれから、かなりの日数が経ちました。
ブリジット様の誘拐未遂、近頃はさっぱりきかなくなりました。それも、彼女が家に篭るようになったからこそ。厳重に彼女は警護されています。
私への風当りは、多少和らいだようにも思えます。サロンの一人、また一人と。私に話しかけてくれるようになりました。こうして話せるようになったこと、嬉しく存じますわ。
平和な日々です。この日は久々の快晴。私は日の当たる廊下を歩いておりました。後はもう帰るだけです。
「……ヒューゴ殿」
ヒューゴ殿がああも信じていると言い切ってくれたこと。今も鮮明に思い出します。
まっすぐで真摯でもあるヒューゴ殿。私に対しても信頼を寄せてくれるのでしょう。
ええ、そんな彼なのです。好感度は壊れた器のままですが、現状悪影響は与えてないと、そう思って良いでしょう。精神になんら干渉してない、してないですわね?
あの状態の原因はプレゼント責め……だったのでしょうか。くっ、考えものですわね。猛省しなくては。
「明日、ですのね」
来る日は来てしまいました。明日はついに、五月末日。
ブリジット様と殿下の婚約発表日。駆け落ち予定日。――私の運命の日。
あれからもヒューゴ殿と交流を重ねてもきました。もう引き返せないところまできておりますから。今はもう、進むしかないのでしょうね。
「――そちらにいらしたんですか、アリアンヌ様」
声を掛けてきたのはヒューゴ殿でした。私に用があるようです。若干息が上がっていましたので、かなり捜させてしまいましたのね。
「突然な話なのと、ここではちょっと――」
温室近くの場所まで移動して参りました。ヒューゴ殿のお話になりますと。
「本当に急ですみません。以前、話していた花のこと、覚えていますか?」
「ええ、覚えておりますわ。夜に咲くと仰っていたお花でよろしくて?」
「はい。そちらが、その……ですね、明後日の夜、開花予定というか。貴女さえよければ、ですが」
「まあ」
ついにその時が来ましたのね。また、誘っていただけたことも嬉しく思えますわ。
――明後日、ですのね。婚約のお披露目後。私の運命の日の翌日でもありますのね。
「……無理にとは申しません。やはり夜遅くでもありますから。映像だけでもお渡し出来ますし」
「……ヒューゴ殿。私は直接拝見したいのです。ご相伴に預かってもよろしいかしら?」
「……!」
それが私の本音、願いです。ヒューゴ殿は驚いておられまして。
「しょ、承知しました! 一度帰宅する必要がありますが、私の方でお迎えに上がりますから。学園への侵入の手口もお任せください」
「まあ、ヒューゴ殿? 慣れてらして?」
「……ええ、まあ。夜に温室を訪れたりしてるので」
ヒューゴ殿は気まずそうにしてらした。常習犯のようですわね。意外な一面を知れましたわ。
「ふふ、私も共犯者になりますわね? お迎え、お待ちしておりますわ。なんとしても侵入してみせましょう?」
我が家の従者達の目を掻い潜る必要もありますが、そこはなんとしてもですわ。私は悪い笑みをしてみせました。
「共犯……ははっ、そうですね!」
「……!」
今度は私の方が驚くことに。本当に驚きました。そのように無邪気な笑顔もなさるのですね。
私のも楽しみが出来ました。運命の日を乗り越えたら、その先は――。




