雨は降り注ぎ、日暮れ時。
傘では凌げなくなってきて参りました。濡れたドレスの裾も重くなってます。
私は一度、控えている彼らに指示を出しにいきました。待っているのは私の勝手。
「命令です。待機場所を変更なさい」
ならば雨宿りのできる場所でせめて潜んでいてほしいと。ええ、命じました。彼らは命令ならばと、雨宿りは出来つつも、有事の際には駆けつけられる場所に待機することに。
私も軒先に避難したいと、そう考えなかったわけではありません。でも、戻ってきたヒューゴ殿が見失ってしまったらって。そう考えた私は留まったままに。
雨の勢いはおさまってきましたが、降り続いたままです。もう夕刻も回ってしまいました。未だ、ヒューゴ殿の姿はありません。
「……アリアンヌ様」
「イヴ」
見かねたのでしょう。潜んでいたイヴが、私の前にやってきました。傘を差し出したら、そっと回避されてしまいましたわ。
彼だけが、私の命を聞かずに最短の距離にて待機しております。合羽を着ており万全の体勢です。
「お体、崩されますから。先方には文でもやればいい。あなたは十分なまでに待ったのですから」
イヴは怒りを声に滲ませながらも、私にそう提案してきました。
「それにご心配なく。私、ずっとこのままではありませんの。あまりにも遅ければ、殴り込みににいきましてよ?」
私は殊更明るく言ってみせました。イヴは何とも言えない表情をしております。
「なーんて……」
相手は他国の王族、しかも殿下の婚約者。無謀とは承知しておりますわ。
「……心配はしてくれたのですね。イヴ、お戻りなさい。本当でしたら、皆、帰ってもらいたいところですが」
「アリアンヌ様。お立場わかってますよね?」
「もちろんですわ」
ええ、わかっていましてよ。恵まれている立場でありながらも、制約がありますものね。
「……そういう方だからなぁ。僕、戻りますね。これ以上強制される前に」
「あら、おわかりでしたのね」
「……僕だって、あなたのお傍にいたいから」
あなたも強制雨宿りさせるところでしたわ。イヴはまた離れて見守ってくれるようです。ありがとう、イヴ。
雨は止まないまま、日暮れの時刻になってしまいましたわ。先週に続いて帰りも遅くなってしまいますわね。
「……しっかりなさい」
いくら楽しみにしていたからって。寂しいと思ったからって。……焦っていたからって。
私は、公爵家の娘。従者をいつまで自分の都合に振り回しているのです。
「皆、付き合わせてしまい申し訳ありません。お待たせしました。帰りましょう」
ぶるっ。体が冷えてしまってますわ。それは皆、同じこと。もうこれ以上は付き合わせられない。私は一歩踏み出しました。
今日はもう終わり。また、一歩踏み出そうとするのですが。
『本当に来てくださって良かったです。人形劇、貴女に見て欲しかったから……』
彼の、その言葉が偽りとは思えなくて。楽しみにしてくれていたって、そう思えてしまって。一歩、その一歩がどうしても。私には――。
「――アリアンヌ様!」
「……ヒューゴ、殿?」
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