お待ちしてますから。
「……私、また襲撃されちゃって。誘拐……されそうになってしまって」
言葉にするのは辛かったのかもしれません。ブリジット様は涙声になっていました。
「……みんな、とも、はぐれちゃって。私、私……どうなることかって……」
それでも懸命に話されています。お辛かったことでしょう……もう良いのでは。
「……十分です、ブリジット」
ヒューゴ殿にも十分に伝わったことでしょう。彼女の両肩には触れたまま、優しい目のまま。
「……ヒューゴ様。私、もっとちゃんとしなくちゃって。警吏の人、呼んだりとか……」
「そんなことはありませんよ。必死だったのでしょう?」
そう、どこまでも優しく接しているのです。すると、よりブリジット様のつぶらな瞳から涙が溢れ出てしまいます。
「……うん、必死だった。ヒューゴ様に、会えたらって……! 本当に会えるなんて……私」
「ブリジット……!」
溢れる涙は止まらず、ブリジット様は相手を――思い人を見つめたまま。そんな彼女からの眼差しから。彼もまた、目をそらせずにいた。
「……」
ブリジット様はまだ打ち震えたままでした。余程ショックだったのでしょう。二度目の襲撃でもありますものね。
「……ブリジット。貴女は大事な身です。ご自宅に帰った方が良いでしょう。はぐれたようではありますが」
従者連れか、学友か。はぐれてしまったと仰ってましたわね。一人で帰すわけには参りませんわね。
「……私の従者もついてきておりますから。彼らに――」
ヒューゴ殿も同様でしたのね。彼にも従者や護衛がついてきた。なので送らせようとしたのですが。
「ヒューゴ様……お願い、側にいてほしいの」
「……ブリジット」
不安定なブリジット様は、なおもヒューゴ殿を見つめたままです。そのまま再び、彼に体を寄せていました。ヒューゴ殿は迷っていました。抱き縋る彼女を、今度は拒むこともなく……。
「……一旦、ブリジットを送ってきます。失礼させていただきます」
「……」
一瞬でしょうか。ブリジット様の眉がぴくりとなったような……?
「……お願い、ヒューゴ様。一人にしないで」
ブリジット様はより震える声で、彼に縋っています。これだけ悲壮感を漂わせているのだから、気のせいですわね……?
「私は……」
ああヒューゴ殿、迷われるのですね……。あなたが彼女を放っておけないのは、私重々承知しておりますから。本当は離しがたいのでしょう。わかってはいます、わかってはいますが……。
「……戻ってきてくださるなら。私、お待ちしてますから」
私もまた、縋ってはいられなくなってしまいました。
――一旦。彼がそう口にしてくれたことに。ただ、信じていたくて。
「……アリアンヌ様」
彼は一度だけ、私を見た。何かを堪えるかのような眼差し。私には彼の真意がわからない。それでもそれきり。ヒューゴ様は彼女に行きましょう、と告げた。ブリジット様もこくんと頷いていた。
「……」
ブリジット様。あなたがわかりませんわ。だとしても、あなたを怖がらせる私についていく資格はない。私とて、あのブリジットを彷彿させるあなたが心配で、心配で……。
「……くすっ」
「……え」
今、私は笑われましたわ。それも、彼の胸元に伏せている――ブリジット様に。彼女は私だけに、勝ち誇った顔をしておりました。
わからない、あなたがわかりませんわ。
「お待ちに――」
私が追いかけようにも、人の波に阻まれる。彼らは人混みの中に消えていった――。
「……」
私は途方に暮れかけました。ブリジット様はきっと――彼を帰そうとしないでしょう。この状況が彼女によるものとは思えませんが、彼女にとってのきっかけともなってしまったようで。
ヒューゴ殿も……あれだけ愛した女性なのですから。彼もまた、受け入れて――。
「……待ちましょう」
私はあえて声に出しました。彼は一度は戻ってくれる気だったのです。
「あ……」
またしても雨が降り出してきました。私は傘を持ってきてましてよ。……待ちぼうけする為に持ってきたわけではありませんでしたが。
雨は本降りにもなってきました。ところどころから聞こえてくるのは、残念がる声。この広場での催しは全て中止になってしまいました。それは……人形劇も。
中止は残念ですわ。けれども、その後の予定もありますから。内容を楽しみにって、ヒューゴ殿も仰っていたではありませんか。
今は待ちましょう。




