表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/438

特別アイテム、思い出の絵本。

「ああ、こちら。助かります。入用だったのです」


 中身は、その微々たる上昇程度のものですから。『汎用草』。ええ、使い勝手の良いものですし、実用性に優れているといった点では、まあまあと申しましょうか。


「基礎ともなるものですから。沢山あると助かります」


 ヒューゴ殿は次々と開封していきます。


「これだけあれば、色々試せそうですね。良い機会です」


 その度に、こうして感想を述べてくださいます。


「私のこと、ご存知だったのですね。そうです、薬草を煎じるのも好きなのです」


 メッセージの差分でしょうか? こんなにも種類ありましたから? まあ、今まで同じのを数個も渡すことはありませんでしたが。


「染料としても使ってみましょうか。ふふ、試行錯誤もまた、楽しいものです」


 まだまだ、差分はおありのようです。あのですね、ヒューゴ殿? ……もう良いのですよ、ヒューゴ殿? 


「いくらでも欲しいくらいです。いえ、催促しているみたいでした。すみません……」


 本当に良いのですよ……ヒューゴ殿! 気でも遣ってくださっているのか、元からの仕様なのかは存じません。ですが、一個を除けば同一のもの。私、心苦しくなってきましたのよ……。


「あの、ヒューゴ殿? ネタばらしをしてしまいますが、ほとんど同じ中身ですから。残りは適当に開封してくださっても」

「……適当とか。また心ないことを」


 ヒューゴ殿は心外だと、そう訴えられたました。


「せっかく頂いたのですから。感想はきちんとお伝えしませんと!」


 ああ、張り切っていらっしゃるわ……プレゼント内容は同じものばかりというのに。


 その後も、ヒューゴ殿は律儀に感想を述べられ、最後の一つとなりました。


「こちらは……開けても?」


 一つだけ違った中身のもの。私も包装の仕方を変えておりました。ヒューゴ殿は手にとっています。


「ええ、最後の一つになります。汎用草ではありませんから」

「……はい、そのようですね」


 ヒューゴ殿が『そちら』を見つめる眼差しは、とても優しいものでした。これまでのように感想を述べることもなく、ただその本を見つめているのです。

 そちらは絵本でした。小動物が主人公の、ありふれた絵本でしたが。

――ヒューゴ殿にとっては、特別だったようです。


「……私の祖父母がよく、読み聞かせてくれたものだったのです。親に処分されてしまいました。絶版にもなっていて、古本市場にもなくて……」

「そうでしたのね……」 


 覚えておりますわ。暗闇の中、怯えていたあなた。心の支えはきっと、あなたの――。


「喜んでいただけたのでしたら……幸いですわ」


 ヒューゴ殿は静かな喜び。喜びを噛み締めておられて。私達のダンジョン攻略も報われた、そう思えたから。私は微笑まずにはいられませんでした。


「……アリアンヌ様」


 ヒューゴ殿は、絵本から私へ。顔を上げられました。私の名を呼んだものの、しばらくは黙りきりだった彼ではありましたが。


「……今週末。空いてれば、ですが。こちらの絵本をモチーフにした人形劇。そちらが開催されるんです。そこでお礼もできればと」

「それって……」


 ヒューゴ殿はまっすぐ、私の目を見ておいでです。


「ま、まあ? あなたの興味をそそらないものかもしれませんし? 惹かれもしない、凡庸なるものですので? ご理解いただけなさそうですし……無理にと申しませんが」

「まっ」


 私は小さく笑ってしまった。


「な、なんです……!」

「いやですわ、ヒューゴ殿。悪態ぶりが足りなくてよ?」

「なっ!」


 いつもの悪態つきとは思えませんの。だって、あなたの話し方があまりにも柔らかいものですから。


「ヒューゴ殿。お誘いありがとうございます。謹んでお受けしますわ」

「……」


 私の返答を受け、ヒューゴ殿はしばらく呆けておられましたが。


「……はい。こちらこそ光栄です」


 ヒューゴ殿も笑んでくださった。これも絵本、プレゼントがあってのこと。


「……」 


 胸が痛い。私が選んだわけでもないのに。ヒューゴ殿はそうとも知らないまま。


「……良き一日にしましょうね」


 私は胸の痛みを抱えたまま、彼に向けてそう伝えた。きっかけになってくれた。これを機に彼と仲良くなれたら。今はそう思うことにしました。


「それ、私が言おうと思ってましたのに」


 ヒューゴ殿はどこか拗ねています。ほほほ。


「言ったもん勝ちでしてよ?」

「はあ……。ああ、しかも! 授業の時間もすっかり過ぎているではないですか」

「あらあら。仕方ないこと。一限が終わるまでは、こちらで待つしかありませんわね。語らいでもしましょうか!」

「……ええ、仕方なく、ですね。……はあ」

「まっ!」


 得意そうにしている私をみて、また溜息をつきましたわね。いい加減、慣れましたもの。


 ねえ、ヒューゴ殿。きっとあなたは『彼女』を想い続けたままでしょうね。

 それでも、私、あなたと関係を深めたい。そう思えるようになりましたのよ――。




お読みいただきまして、ありがとうございました!

明日も投稿予定です。

気に入っていただけましたら、高評価・ブックマークをしていただけますと

大変励みになります!よろしくお願い致します。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ