特別アイテム、思い出の絵本。
「ああ、こちら。助かります。入用だったのです」
中身は、その微々たる上昇程度のものですから。『汎用草』。ええ、使い勝手の良いものですし、実用性に優れているといった点では、まあまあと申しましょうか。
「基礎ともなるものですから。沢山あると助かります」
ヒューゴ殿は次々と開封していきます。
「これだけあれば、色々試せそうですね。良い機会です」
その度に、こうして感想を述べてくださいます。
「私のこと、ご存知だったのですね。そうです、薬草を煎じるのも好きなのです」
メッセージの差分でしょうか? こんなにも種類ありましたから? まあ、今まで同じのを数個も渡すことはありませんでしたが。
「染料としても使ってみましょうか。ふふ、試行錯誤もまた、楽しいものです」
まだまだ、差分はおありのようです。あのですね、ヒューゴ殿? ……もう良いのですよ、ヒューゴ殿?
「いくらでも欲しいくらいです。いえ、催促しているみたいでした。すみません……」
本当に良いのですよ……ヒューゴ殿! 気でも遣ってくださっているのか、元からの仕様なのかは存じません。ですが、一個を除けば同一のもの。私、心苦しくなってきましたのよ……。
「あの、ヒューゴ殿? ネタばらしをしてしまいますが、ほとんど同じ中身ですから。残りは適当に開封してくださっても」
「……適当とか。また心ないことを」
ヒューゴ殿は心外だと、そう訴えられたました。
「せっかく頂いたのですから。感想はきちんとお伝えしませんと!」
ああ、張り切っていらっしゃるわ……プレゼント内容は同じものばかりというのに。
その後も、ヒューゴ殿は律儀に感想を述べられ、最後の一つとなりました。
「こちらは……開けても?」
一つだけ違った中身のもの。私も包装の仕方を変えておりました。ヒューゴ殿は手にとっています。
「ええ、最後の一つになります。汎用草ではありませんから」
「……はい、そのようですね」
ヒューゴ殿が『そちら』を見つめる眼差しは、とても優しいものでした。これまでのように感想を述べることもなく、ただその本を見つめているのです。
そちらは絵本でした。小動物が主人公の、ありふれた絵本でしたが。
――ヒューゴ殿にとっては、特別だったようです。
「……私の祖父母がよく、読み聞かせてくれたものだったのです。親に処分されてしまいました。絶版にもなっていて、古本市場にもなくて……」
「そうでしたのね……」
覚えておりますわ。暗闇の中、怯えていたあなた。心の支えはきっと、あなたの――。
「喜んでいただけたのでしたら……幸いですわ」
ヒューゴ殿は静かな喜び。喜びを噛み締めておられて。私達のダンジョン攻略も報われた、そう思えたから。私は微笑まずにはいられませんでした。
「……アリアンヌ様」
ヒューゴ殿は、絵本から私へ。顔を上げられました。私の名を呼んだものの、しばらくは黙りきりだった彼ではありましたが。
「……今週末。空いてれば、ですが。こちらの絵本をモチーフにした人形劇。そちらが開催されるんです。そこでお礼もできればと」
「それって……」
ヒューゴ殿はまっすぐ、私の目を見ておいでです。
「ま、まあ? あなたの興味をそそらないものかもしれませんし? 惹かれもしない、凡庸なるものですので? ご理解いただけなさそうですし……無理にと申しませんが」
「まっ」
私は小さく笑ってしまった。
「な、なんです……!」
「いやですわ、ヒューゴ殿。悪態ぶりが足りなくてよ?」
「なっ!」
いつもの悪態つきとは思えませんの。だって、あなたの話し方があまりにも柔らかいものですから。
「ヒューゴ殿。お誘いありがとうございます。謹んでお受けしますわ」
「……」
私の返答を受け、ヒューゴ殿はしばらく呆けておられましたが。
「……はい。こちらこそ光栄です」
ヒューゴ殿も笑んでくださった。これも絵本、プレゼントがあってのこと。
「……」
胸が痛い。私が選んだわけでもないのに。ヒューゴ殿はそうとも知らないまま。
「……良き一日にしましょうね」
私は胸の痛みを抱えたまま、彼に向けてそう伝えた。きっかけになってくれた。これを機に彼と仲良くなれたら。今はそう思うことにしました。
「それ、私が言おうと思ってましたのに」
ヒューゴ殿はどこか拗ねています。ほほほ。
「言ったもん勝ちでしてよ?」
「はあ……。ああ、しかも! 授業の時間もすっかり過ぎているではないですか」
「あらあら。仕方ないこと。一限が終わるまでは、こちらで待つしかありませんわね。語らいでもしましょうか!」
「……ええ、仕方なく、ですね。……はあ」
「まっ!」
得意そうにしている私をみて、また溜息をつきましたわね。いい加減、慣れましたもの。
ねえ、ヒューゴ殿。きっとあなたは『彼女』を想い続けたままでしょうね。
それでも、私、あなたと関係を深めたい。そう思えるようになりましたのよ――。
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