忍び寄る影②
騒ぎもありましたからね。馬車に乗って帰路に着くことになりました。手配はイヴがやってくれました。心あらずな状態ではありましたが。
「……アリアンヌ様。僕は」
車中、並んで座る私達。イヴの顔がようやく緩んだようです。彼はずっと険しい顔をしたままでしたから。
「申し訳ございませんでした……父を諫めることも出来ずに」
「いいえ。あなたが気に病むことなどありませんわ」
私はただ、あなたが心配なのです。あなたに恐怖と痛みを与え続けてきた、そんな相手。まさかこうして再会してしまうなんて。
「……あなたはよくやってくれています。私の誇りです」
俯く彼の横顔を見つめた。何が不出来だというの。とても信頼が出来て、私にはもったいないくらいの。
「……アリアンヌ様」
イヴの瞳は揺れたまま。不安でしょう、そうだとしても。
私は彼を安心させるように、はっきりと頷いたのでした。
帰るなり、父や家の者が待ち構えておりました。父は私に対しては軽めの説教。イヴはなんと――連れていかれてはいるではありませんか!
噂だけ聞いたことはあります。あちらはおそらく『厳罰部屋』! 今回のイヴに責はありません。回避せねば!
「お待ちください! 今回は私の我儘によるものです! イヴは悪くない、悪くないのです!」
それからはごり押しのごり押しで、イヴへの説教は免れました。ふう、さすがに巻き込んでしまったわけですから。
ただ、厳重注意は受けておりました。
ああ、私達のギルド行きがバレてしまった。そのことでの注意かと。耳をそばだてていた私でしたが、どうやらそちらは発覚していないようです。
まず帰りが遅くなったこと。門限はぎりぎりといったこともあってでしょうか。それから。
「――はい、殿下とブリジット様のご婚姻の件で、ですね。はい、気をつけて参ります」
イヴは言い含められていました。ここ最近、あのお二人の婚姻もあってでしょうか。
――よくない気配が、暗躍している動きがあるのだとか。
「……」
ギルドの件がばれなかったとはいえ。慎重に動いた方が良さそうですわね……。
昨日は作法の先生にみっちりとしごかれ、先生が帰られた後。ドレスや装飾品を見繕っておりました。
いずれも五月末に備えてのこと。私――あの二人の婚姻のお披露目の場。そちらに参加しそうな流れですの。なんてこった、ですわ。気まずさの極みではありますの。
まあ、流れもありますから。精々ノーダメージを装うしかありませんわ。
「……」
あの時の悲痛は消えてわけではありません。ショックでもありましたから。それでも、和らいできているのも事実でした。




