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デビュー……のはずでしたのに。

 首都まで赴きまして、訪れたは憧れの『冒険者ギルド』。私の華々しい冒険者デビュー。そのはずでしたのに。


「――アリアンヌ・ボヌール様であられますね? 非常に申し上げにくいのですが、申請は受理しかねます」


 私は出鼻をくじかれることになりました。事務の方がこのように伝えてきたのですから。受理出来ないですって? 

 おかしいですわ、こんなやりとりあったのかしら。確かに、令嬢相手にというのもあるかもしれませんが……。


「ボヌール卿が娘の申請は通さないようにと。そう仰せつかっております。何卒御理解くださいませ……」


 なんということでしょう! 父によってそのような手引きがなされていたとは! 父も読んでいたというのでしょうか?

 イヴもあちゃーと額に手をあてていますわ。


「……かしこまりました。失礼させていただきますわ」


 事務の方、我が家の事情に巻き込んでしまいましたわね。ごねても仕方ありません。一度下がりましょう。私は入口ロビーの隅へと移動しました。



「さすがというべきか。手、打たれていましたね」


 イヴもついてきました。小声で話しております。隅でひそひそと話している私達は、注目を浴びております。私が公爵家の令嬢であると、数名も気づかれているようで。


「今からになってしまいますが、変装しましょうか」


 イヴが渡してきたのは、仮面でした。目元を覆うものです。目元は隠せるものではありますが。


「侮ってはいけませんよ。こうしてつければ、ほら」


 先にイヴが着用しました。


「ほら、と言われましても」


 イヴですわね。まんまですわ。


「ま、まあ……? 仲間意識とか、慣れ親しんだり? 好意を持っていたり……? と、特別な相手ならわかる、そういった仕様なんだ」


 イヴはやたらと嬉しそうにそう説明してくれました。ソワソワしてもおりますわ。


「なるほど……」


 冒険者達は、私がボヌールの令嬢だと認識しなくなっております。効果てきめんですこと。連携という点でも問題なさそうですわね。私も着用することにしました。


「……うん、わかる。アリアンヌ様だ」


 イヴは深く頷いておりました。私だと判別してもらえて良かったですわ。令嬢判定にならないので、イヴも態度を崩しております。思いっきり私の名を呼んでもいますが、それも問題ないようです。何気にチートアイテムはありませんの? 


「そう。私であると、大抵の方はわからないのですね?」


 さて、私が令嬢であるとはわからなくなりました。無免許で殴り込みをかけろ、そういうことでしょうか? 


「……なんか物騒なこと考えてない?」

「物騒ではありますが、活路を見いだせることですわ」

「……はあ。この仮面は悪目立ちしたくないから、着用していただいた。それだけだよ」

「ま、そうでしたの?」


 殴り込みではありませんでしたか。イヴは溜息をつきながら、こう述べたのです。


「……あなたはダンジョン入りが難しいみたいだから。僕がその分、潜って報酬を得てきます。お時間いただくけど、待っててもらえるかな」

「……そういうわけには」


 イヴ一人にダンジョンに行ってもらうと? いえ、彼のことですから他の方と組んだりではするでしょうが。私の都合だというのに……。


 何か方法がないものか。聞き込みでもしてみましょうか、私が考えていたところ。


「……」

「……」


 視線を感じますわね。イヴも気づいたようです。あからさまに怪訝なる視線を、イヴはその人物に向けていますわ。

「……」


 まあ、そうですわね。怪しい見た目ですわね。彼は非常に体格の良い殿方です。がっちりとした、……って。わかりますわよ。その、半裸ですもの。私は目を泳がせたまま、それから目を伏せることにしました。

 上半身もそうですが、インパクトがあったのは何より――獣の頭部を被っているようですわ。


「頭……本物かしら」


 狼のような魔物のもの。作り物かしら。やけにリアルですが、まさかそのままかしら。いえ、まさかね……? 


「……本物だよ。あの人、有名な人。恰好もそうだけど、強さからしても」


 イヴは彼を遠目に見たまま、そう教えてくれました。


「おう……」


 おう、とか言ってしまいましたわ。生々しさが過ぎましてよ……。どのみち、只者ではないようです。そのような彼が……ああ、まだ視線を感じますわ。今の私は、モブでしかないというのに。


「……何か御用ですか」


 イヴが私の前に立った。それも、その男性が近づいてきたからでしょう。何か伝えたいことがあるのでしょうか。


「――地下へ通じる隠し扉がある。そちらで受け付ければ、出自は問われない」


 奇抜な出で立ちとは違って、理知的な声。助言、いただいたのかしら。私は彼から目をそらしたままでしたが、いけませんわね。照れはありつつも、彼を見ようとしたのですが。


「……?」


 彼の姿はありませんでした。イヴも不思議そうにしております。彼はずっと視界に映していたでしょうに、突然目の前から消えたようです。


「……ごめん、僕知らなかった」

「いいえ? 気になさらないで」


 解決策はあったようです。イヴは知らなかったことを気にしていますが、元々極秘情報だったのでしょう。あの方、本当に何者なのでしょうか……。


 

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