きっとヒューゴ様だって、私のことが好き。
「……でも、気持ちだけは止められないから。私、彼と結ばれる為なら。――どんな覚悟だって出来ている」
恋する余りの暴走、そういえるのでしょう。ブリジット様は思い詰めている。あなたが、しかねないこと。私には想像がつくのです。大変なことになってしまうと。
「――ブリジット様。どうか、早まったお考えは控えていただけませんか。私が想像していることが合っているのでしたら」
本当にとんでもないことですのよ。あなた――駆け落ちでもするのならば。覚悟、とまで仰ってますものね。
「……えへへ。あなたの考えている通りだよ。私はもうその気。あとは――ヒューゴ殿のお覚悟さえあればいい」
「……そうですのね」
本当に本気ですのね。あなたは本気で、ヒューゴ殿がお好きというのでしたら。
「……」
どうしたものかしら。ヒューゴ殿は吹っ切れたものだと。その為に花束を渡したのでは、そうではありませんでしたの?
「……本当に覚悟だけ。だって、ヒューゴ様が好きなのは私だし。でしょ?」
そこにあったのは、勝ち誇った顔。ブリジット様は自分こそが選ばれた者であると。
顔つきが別人のようでした。こうも人が変わったような顔を……なさるなんて。
「――ねえ、アリアンヌ様? あなたは、ヒューゴ様のこと、好きなの?」
「!」
「……なんてね。どっちでもいいの。だって、ヒューゴ様は私のことが好きなんだから」
にたりと笑ったまま、ブリジット様は私に詰めてきました。
「ヒューゴ様がくださった花束。うちの国のね、花だったの。それだけでも嬉しかったのにね?」
彼女の国の花。取り寄せたというものでしたわね。彼女を喜ばせる為に……なのでしたら。
「……ふふ。あははっ」
私のことをジロジロ見ながら、ブリジット様は笑い声を上げている。
「――どの花言葉もね? 私のこと、大好き。愛してる。そんな花言葉ばかり」
「……なんですって」
「あははっ、情熱的だよね?」
彼女の笑い声が響き渡っていた。私はただ、ヒューゴ殿を思い浮かべていた。どうして、と。私に対して嘘をついていたのかと。
『……いえ、好きでした。ちゃんと過去にします』
「……ええ、そうでしたわね」
私は『あの時』の彼を思い出しました。そうですわ、彼は確固たるご様子でした。
「……私は、信じるまでです」
彼が決別しようとしたこと。そして、私を欺くようなこともしないと。私が信じるのは、そちらの方です。そもそも、最初から愛の花束を贈るのでしたら、はっきりとそう言いますでしょうに。
ブリジット様、揺さぶりをかけたかったのでしょうか。あなたもまた……中々の曲者であられるようですね。私は負けじと構えました。
「……なに、なんなの?」
面白くない反応だったのでしょう。ブリジット様は険しい顔をしています。
「ブリジット様。あなたは殿下の求婚を受けたのでしょう。ヒューゴ様を想っていようと、あなたが選ぶ道は茨の道であると、おわかりでしょうに」
「なっ……」
「はあ……」
私は溜息をつかずにはいられませんでした。駆け落ち、ときましたか。ドラマティックとか、盛り上がっている場合ではありませんのよ。他人事ならば興奮出来ますが、こちらは当事者ですのよ。
その展開、非常にまずいのです。何より。
「そもそも今になってですの? 残念ながら、もう戻れないところまで来ているのですよ? 私には破滅がみえております。易々と見過ごすわけには参りませんの」
私はブリジット様を見据えた。そう、戻れませんのよ。それは私にも言えること。
「……あはは、止める気? 愛し合っている私達を差し置いて? アリアンヌ様が?」
「なんとでも仰いませ。あなたの思い通りにはさせませんわよ」
私の言葉にブリジット様も睨んで来られた。ええ、怖いお顔ですわ。本当に色々な表情をなさいますこと。
ねえ、ブリジット様。
あなたがあのブリジットと同じなのかは。わからないままです。
このような敵対することになってしまって、別人説を推したいくらいですわ。
それを確かめる術は今はありません。
あなたがそうだろうと、そうでなかろうと。
奪い合いは避けられませんのね。
ならば今は、色々な思いは封じておくことにしましょうか。




