私はヒューゴ様が好き。
温室近くのテラス席。すっかり利用者がいなくなったそちら。ブリジット様はこの場所を指定されました。
「――すっかり人、いなくなっちゃったね」
「……ええ、その通りですわね」
はっきりと言われてしまいました。ええ、寂しくなったものですわ。
「人、離れていっちゃったからね」
「ええ、その通りでございますわ」
「可哀そう。せっかく群れていたのにね? 良い気分だったのにね? しょうもない話で盛り上がって」
「ええ、そうとも言えますが……」
随分と手厳しいですこと。正論ともいえます。ですが。
「……彼女達との時間はかけがえのないものでした。しょうもない、ということは決してなく。離れていったのも、私の慢心によるものですわ。精進せねばならないのです」
彼女達が悪く言われることもないではありませんか。
「……ふーん。ヒューゴ様、うるさいってストレス溜まってたけど?」
ああ、そのことに触れてもおきましょうか。ブリジット様にも不満ををもらしていたようですわね。
「以前、ヒューゴ殿にも直接注意されましたわ。反省しております」
「……直接? あの時?」
「ええ、直接。前に呼び出された時ですわね」
「……」
ブリジット様は何かを考え込んでいます。その時の表情が、こう、いつもの彼女らしからぬものでして……。
そういえば。沈黙の時間が訪れたことにより、今になって気づきました。彼女……タメ語ですわね。なんということでしょう。
「……ブリジット様?」
いきなり口調が変わったのもそうですし、黙ったままでおられるのも。私はお声掛けを試みましたが。
「……あの時。教室に戻ってきたの、遅かったけど」
苦々しい顔でそう言ってますが、帰りが遅いとは。
ああ、そういうことですのね。私がヒューゴ殿に呼び出されたあの日、ブリジット様とお約束されていたのですか。それは悪いことしてしまいましたわ。言ってくださらなかったけれど、言い出しにくかったのでしょうか。
「ブリジット様、申し訳ないことしましたわ。私に付き合わせてしまった故に。あなたを一人で待たせることになってしまいましたのね」
「一人じゃないし! みんなとお喋りしていたもん!」
秒で返答されましたわ。あまりの早さに私、驚きましてよ。目を見開く私をよそに、カッとなったブリジット様は続けられます。勢いのままに。
「私……幸せだったのに! みんなとお話して、楽しく笑い合って! ……ヒューゴ様もいて」
「あなた、何を……」
彼女は一体、何を言おうとしているの。
「中々勇気が出ないから、二人きりとか恥ずかしいから……! それでも、ふと目が合った時とか。私を見て、愛しそうにしているところとか……! 私だって、私だって!」
あなたは何を吐露しようというの。そのように、瞳に涙を浮かべて。一体何を。
「婚約の話、どんどん進んでいっちゃって……。もう止まらないところまでいっちゃって。ヒューゴ様まであんな贈り物を……!」
贈り物。あの青い花束ではありませんか。
「私、あの花束を見たらもう……抑えられなくなっちゃって」
ブリジット様は自身の胸元をぎゅっと掴んでいた。思いがこみ上げてきて、止まらないと。そう物語っていたのです。
「私、彼のことが好きなんだって……」
「……!」
衝撃を受ける私を知らずか、彼女はただ、彼への思いを語るばかりで。
「あんなに私を愛してくれる……私だってそう。私、もうね、自分を誤魔化せないの」
「……ブリジット様。それは確かなのですか」
私は口を挟まずにはいられなくなっていた。
「あなたは婚約している身ではありませんか。それも相手は我が国の王族。国と国との婚姻ともいえますわ」
「……わかってる。大切なことだって、わかっているんだよ」
わかっている。そうは仰っていますが、あなたはきっと……違うのでしょう?




