誕生日を終えて。
明かりが元に戻ると、ヒューゴ殿はキリっとした顔立ちとなっていました。先程までのことが、幻だったかのようで。
「そちらにいらっしゃったんですか! ……このようなところで、二人きりで」
「……気分を悪くしていた私を、介抱してくださっていました。あとは自分で戻ります」
捜しに来ていたイヴに対し、ヒューゴ殿はそう返されました。本当に何事もなかったようでした。そう言って、足早に去っていかれました。
私はそんな彼の背中を、いつまでも見送っておりました。
「……」
ああ、イヴからの視線が痛いですわ。この物言いたげな視線。ええ、ちゃんと戻りますから。
「……そうじゃないよ。僕自身の心の問題」
「あなたの……?」
あなたのメンタルに及ぼしているのですか?
「はい。なので、自分で折り合いつけますので」
イヴはあっという間に切り替えていました。それから、と彼は話しかけてきます。
「今の内に、お伝えしておきますね。今年も準備しておりますから。皆さんも楽しみにしてます」
「まあ、今年もですわね。ええ、こちらこそ楽しみですわ」
イヴが指していること。当家のメイドや執事達によるもの。本パーティーを終えたあと、彼らもまた料理や催しを用意してくれているのです。
夜会ではまともに食べられませんから、この時ばかりは食べまくるのです! 無礼講ともなり気味ですが、今宵ばかりは羽目を外しても良いでしょう。私が許可しますわ!
「誕生日おめでとうございます」
「ええ、ありがとう?」
にやついていた私を見て、イヴが祝いの言葉をくれた。今朝や昼間、パーティ前にも聞きましたが、それはまあ良いでしょう。
「……一番に言えたらいいんですけど」
イヴは小さく笑いながら、そう言いました。難しいですわね。
「そればかりは、ですわね。お父様かお母様が一番に言うのが原則ですから」
「……ですよねー」
そうですわよ。なにかしら、別の意味でもあるというのかしら。
「――さて、復旧したことですし」
さあ、戻らなくては。
会場に戻ると、そこは煌びやかな空間。ああ、ヒューゴ殿もすっかり元通りですわね。来賓客と談笑しています。オスカー殿にも絡まれておりますわね。
本当に幻だったのでしょうか。
誕生日が終わりました。さあ、今日も登校しましょうか。胃もたれ? アリアンヌ・ボヌールには知らない単語ですわね。
さあ、一才年をとったことですし、今週末が待ち遠しいですわ! ついに、私もダンジョンデビューですもの! この時を待っておりましたのよ!
「……」
馬車に乗っての登校中、隣のイヴから視線を感じますわ。私が何で興奮しているかも、きっとおわかりでしょうね。
私を止められはしませんのよ、イヴ!




