表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/438

暗闇イベント――ヒューゴ編。

 私はこっそりと入室しました。部屋の隅で震えている方、ヒューゴ殿でしょう。私はそっと近づいていく。

 暗闇にも目が慣れてきました。私は彼の前までやってきて、しゃがみました。


「うう……」


 ヒューゴ殿は膝を抱えてうずくまっていました。彼はぎゅっと瞳を閉じて、震えています。


「……」


 今、私が来ましたと。アリアンヌが来ましたと。そう名乗れば良いのでしょうか。私でもいないよりはマシでしょうと。口を開こうとしましたが。


「……たす、けて」


 ヒューゴ殿は、ずっと誰かの名を呼んでいます。縋るように、です。


「……さま。おじいさま、おばあさま」

「あ……」


 彼が縋りたい相手は、祖父母。彼が頼れる相手は、そのお二方だった。そう記憶しております。


「……おねがい、たすけて。こわい、こわいよ」

「……」


 そのお二人に足りない私ですが、私が側におりますから。だからと、私は今度こそ自分だと明かそうとするのですが。


「……」


 私は首を振りました。出来ない……出来ないのです。私と明かせば、心証は良くなるかもしれない。名乗らなければ、好感度は何ら変動はないかもしれないのに。それでも……。


 彼の震える手に、両手を重ねた。言葉はいらない。私だって……知らないままでもいい。


「……」


 彼もまた、黙り込んでしまった。落ち着いたのでしょうか。彼の瞳は閉じたまま。あどけないお顔ですこと。凛々しい顔つきも、今はそうではありませんわね。


「あたま……なでて。いつもみたいに……」

「……ああ」


 いつも、そうしてもらってましたのね。あなたを宥めるために。愛情を持って。


「……ええ」


 あなたの祖父母の代わりになるのなら。


「……」


 遠慮がちながらも、私はヒューゴ殿の頭に触れた。それからゆっくりと頭を撫でる。整髪料でごわついた髪、普段でしたらもっと柔らかいのでしょうね。

 何度も何度も繰り返す。それで、彼が満ち足りてくれるのならと――。


「……そのへんで結構です。お手を煩わせてしまい、すみません」

「あら、良いのですか……って!?」


 慣れてきたところだったのに。そう思ったと同時に、私は慌てて手を離した。い、いつものヒューゴ殿に戻っていますわ。


「……醜態を晒してしまいましたが、もう、大丈夫ですから」

「い、いえ……」


 どうしましょう。ただただ気まずいですわ。


「……主役、なのでしょう。私に構わずお戻りください」

「それは……」


 ヒューゴ殿は気を取り戻したようです。ようなのですが……。


「……ヒューゴ殿? 明かりはまだ復旧しないようですわ。ですから、しばらくお付き合いくださいません?」


 雷鳴が鳴り響いていますし。この分だとまだ、明かりはつかなさそうですわね。


「アリアンヌ様、ですが……」


 口ではそう仰っていても、あなたの不安は消えないまま。私はもう、後者の選択肢は選ぶ気はありませんから。それに本日は私の誕生日。好きにさせていただきます。


「主役だから好きにさせていただきます。私はあなたの側にいたいのです」

「……!」


 私の言葉を受けてからか。


「……」

「……」


 黙られたままですわね。ええ、今の言い方はまずかったのかもしれません。


「……震えるあなたを放ってはおけない。そうした意味です。言葉足らずでしたわね」

「……」


 ええと、これもまずかったのかしら。ヒューゴ殿、何か言ってくださらないかしら。


「……わかってます。それでも、それでもでいい。そばにいてくださるなら。手も……温もりがあった方が安心するので、その」

「……ええ。わかっておりますわ」


 私は再び手を重ねた。ヒューゴ殿は振り払うことをしなかった。

 外で雷が鳴っている。激しい雨。まだ暗闇は終わらない。沈黙の中、ヒューゴ殿が呟く。


「私の祖父母はですね、暗闇が駄目な私をいつもこうして」


 在りし日を語る彼は、穏やかで優しい声をしていて。


「……天国にいる二人が、本当に近くにいるようでした」

「……そう、ですの」


 私は何ともいえない気持ちになった。重ねてた手が、握る形になっても。

 ヒューゴ殿が拒むことは無かった。彼は受け入れてくれていた。



お読みいただきまして、ありがとうございました!

明日も投稿予定です。

気に入っていただけましたら、高評価・ブックマーク等をしていただけますと

大変励みになります!よろしくお願い致します。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ