暗闇イベント――ヒューゴ編。
私はこっそりと入室しました。部屋の隅で震えている方、ヒューゴ殿でしょう。私はそっと近づいていく。
暗闇にも目が慣れてきました。私は彼の前までやってきて、しゃがみました。
「うう……」
ヒューゴ殿は膝を抱えてうずくまっていました。彼はぎゅっと瞳を閉じて、震えています。
「……」
今、私が来ましたと。アリアンヌが来ましたと。そう名乗れば良いのでしょうか。私でもいないよりはマシでしょうと。口を開こうとしましたが。
「……たす、けて」
ヒューゴ殿は、ずっと誰かの名を呼んでいます。縋るように、です。
「……さま。おじいさま、おばあさま」
「あ……」
彼が縋りたい相手は、祖父母。彼が頼れる相手は、そのお二方だった。そう記憶しております。
「……おねがい、たすけて。こわい、こわいよ」
「……」
そのお二人に足りない私ですが、私が側におりますから。だからと、私は今度こそ自分だと明かそうとするのですが。
「……」
私は首を振りました。出来ない……出来ないのです。私と明かせば、心証は良くなるかもしれない。名乗らなければ、好感度は何ら変動はないかもしれないのに。それでも……。
彼の震える手に、両手を重ねた。言葉はいらない。私だって……知らないままでもいい。
「……」
彼もまた、黙り込んでしまった。落ち着いたのでしょうか。彼の瞳は閉じたまま。あどけないお顔ですこと。凛々しい顔つきも、今はそうではありませんわね。
「あたま……なでて。いつもみたいに……」
「……ああ」
いつも、そうしてもらってましたのね。あなたを宥めるために。愛情を持って。
「……ええ」
あなたの祖父母の代わりになるのなら。
「……」
遠慮がちながらも、私はヒューゴ殿の頭に触れた。それからゆっくりと頭を撫でる。整髪料でごわついた髪、普段でしたらもっと柔らかいのでしょうね。
何度も何度も繰り返す。それで、彼が満ち足りてくれるのならと――。
「……そのへんで結構です。お手を煩わせてしまい、すみません」
「あら、良いのですか……って!?」
慣れてきたところだったのに。そう思ったと同時に、私は慌てて手を離した。い、いつものヒューゴ殿に戻っていますわ。
「……醜態を晒してしまいましたが、もう、大丈夫ですから」
「い、いえ……」
どうしましょう。ただただ気まずいですわ。
「……主役、なのでしょう。私に構わずお戻りください」
「それは……」
ヒューゴ殿は気を取り戻したようです。ようなのですが……。
「……ヒューゴ殿? 明かりはまだ復旧しないようですわ。ですから、しばらくお付き合いくださいません?」
雷鳴が鳴り響いていますし。この分だとまだ、明かりはつかなさそうですわね。
「アリアンヌ様、ですが……」
口ではそう仰っていても、あなたの不安は消えないまま。私はもう、後者の選択肢は選ぶ気はありませんから。それに本日は私の誕生日。好きにさせていただきます。
「主役だから好きにさせていただきます。私はあなたの側にいたいのです」
「……!」
私の言葉を受けてからか。
「……」
「……」
黙られたままですわね。ええ、今の言い方はまずかったのかもしれません。
「……震えるあなたを放ってはおけない。そうした意味です。言葉足らずでしたわね」
「……」
ええと、これもまずかったのかしら。ヒューゴ殿、何か言ってくださらないかしら。
「……わかってます。それでも、それでもでいい。そばにいてくださるなら。手も……温もりがあった方が安心するので、その」
「……ええ。わかっておりますわ」
私は再び手を重ねた。ヒューゴ殿は振り払うことをしなかった。
外で雷が鳴っている。激しい雨。まだ暗闇は終わらない。沈黙の中、ヒューゴ殿が呟く。
「私の祖父母はですね、暗闇が駄目な私をいつもこうして」
在りし日を語る彼は、穏やかで優しい声をしていて。
「……天国にいる二人が、本当に近くにいるようでした」
「……そう、ですの」
私は何ともいえない気持ちになった。重ねてた手が、握る形になっても。
ヒューゴ殿が拒むことは無かった。彼は受け入れてくれていた。
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