灯りが消えた夜。
「あれ、ヒューゴ。そっちも来てたんだ」
「ええ。お呼ばれしましたので」
オスカー殿はまだ私の腰を抱いてますわ。ヒューゴ殿の険しい顔も気にされることもなく。ひとまずはご挨拶をしなくては。
「ようこそお越しくださいました、ヒューゴ殿。贈り物もかねがね――」
「……いえ。失礼、会話の途中でしたので。おめでとうございます、アリアンヌ様。私は失礼させていただきます」
ヒューゴ殿はおざなり。用はそれだけと言わんばかりに、彼はさっさと立ち去ろうとしていた。向こうで手招きをしておられる御仁はいる。本当なのでしょう。
ピカッ!ゴロゴロ……。
雷鳴ってますわね。明かりも安定しなくなってますわね。
「!」
大きく反応したのは……ヒューゴ殿。横顔から察するに、顔色も優れないようですわ。
「まさかのヒューゴ? 雷苦手な人」
「……何の事でしょうか。失礼します」
悠長なオスカー殿に対し、ヒューゴ殿は落ち着きがないようです。
「……ああ」
私は『存じて』いるのです。彼がどうしてこうなのか――。
「おーい、アリアンヌ様?」
「はっ……失礼しましたわ」
私はオスカー殿に呼び覚まされました。そうですわね、今はこちらに集中しませんと。
「アリアンヌ様、踊りませんか?」
オスカー殿は私の腰から離れると、その手を私に差し出した。
「……ええ」
公爵家令嬢として、その手をとる。誘われるまま、私達は踊りに出る。
「まあ、素敵……」
「はあ……お似合いの二人ですこと」
オスカー殿に身を任せて、音楽に乗って。時に見つめ合う。
この場にいる誰もが、私達を見ていた。羨望の眼差しや、妬み嫉みも。それらを一向に浴びながらも、私達は踊りに興じていく。
「……」
視界の端に映ったのは、こちらを見ているヒューゴ殿。彼が今何を思っているのか、その表情からは窺い知れない。私はそんな彼を――意識し続けていた。それとなくではあるけれど。
音楽が止む。踊りの時間は終わり。息が弾んでいた。
「……はあ、楽しかった。ねえ、もう一曲どう?」
オスカー殿も楽しんでいただけたよう。それは光栄なのですが……周囲の婦人達の圧も感じますの。
「あら、光栄ですわ。ですが、他の婦人方もお待ちでしてよ? 私は休憩に戻りますわ」
「え、また休憩?」
「ええ、そうですわね」
本日の主役といえども、独占する気はさらさらありませんから。本当に立て続けなのもありますし。何より。
「……」
本日の主役ではありますが、私はこっそりとホールを抜け出しました。静まり返った廊下を歩いております。
不安定な明かり。何度も点灯しております。そして、落雷。そろそろですわね――。
「きゃあっ!」
「な、なんだ!」
ホールの方から、叫び声。フっと消えたのは、邸内の明かり。非常灯もなく、真っ暗闇になってしまいました。
「……私は」
私は、手段を選んでいられないのです。私は――この先の展開を知っているから。早歩きで、目的の場所へと向かうことにしました。
扉が開かれていた一角にある部屋。私はそちらで立ち止まっております。
おそらく、いえ、確定でヒューゴ殿はこの中にいます。
「……」
縮こまったまま。怯えたまま。――暗闇を怖れたままで。
プレイしていた時に出てきたフラグ。選択肢は二つ。
部屋に入って、彼の側についているか。
嫌われている自分が入らなくてもと、立ち去るか。
私は誤操作によって、後者を選んでしまいました。当時はそれで良いと思っていました。その時の好感度も、底すれすれのものでしたから。逆に迷惑になるのかと。
「……ふう」
それは今も変わらないのかもしれません。迷惑かもしれません。でも本当に、手段は選んでいられなくて――私は前者を選択しましよう。




