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アリアンヌの誕生日。

 やって参りました、アリアンヌ様の誕生日! 

 本邸にて、夜会を開いてもらうことになっておりますの。今、支度をしている最中ですわ。

 化粧も施され、深紅の肩の開いたドレス。ティアラも頭上に頂く。鏡台に映るその姿は、絶世の美女といえましょう。さすがアリアンヌ様。さすアリ。


 ホールへ向かう間。窓に姿が映しだされる度、私は見惚れてしまいますの。なんて美しい――。


「……なんとまあ!」 


 ああ、声に出してしまいましたわ。窓の外を見て、でした。

 どういうことですの。さっきまでは晴天ではありませんでしたか。それが今となっては、曇り空。あれ……遠くで雷鳴っておりますわね? 

 というか、アリアンヌ生誕祭は毎年晴れておりましたでしょう? 何故、今年に限ってですの? 

 私は窓に齧りつきたいところですが、淑女淑女。ここは堪えますわ。


「……ええ、雨季でもないのに」


 そうして私が窓を眺めている間に、雨は降り出していった。




 私の生誕を祝って、ホールでは祝杯があげられる。未成年の私は、梨のジュースですわ。透明なので零しても安心ですの。昔、やらかしたことありますからね。

 管弦楽団の音楽に乗せて、ダンスが繰り広げられている。体を合わせた男女は、音楽に身を委ねていた。


 私も踊っておりましたが、今は休憩しております。壁際によりかかっておりました。

 休憩中であれど、本日の主役でもありますから。話しかけられてもきますし、お話は欠かしません。今もこうして――。


「――お誕生日おめでとう、アリアンヌ様」


 親しみを込めて話しかけてこられたのは、オスカー殿でした。正装姿も素敵ですこと。快活な普段の姿が、大人びた雰囲気となっておりますわ。


「ありがとう。お越しいただいたこと、並びに素敵な贈り物も感謝致しますわ」


 贈り物は別室にて保管されております。毎年沢山の物が届けられておりますの。殿下からも届けられていました。元婚約者だというのにね。文を送っておきませんと。

 例のプレゼントは……いえ、いいでしょう。いずれ処分せねば。


「いいえ、こちらこそ。お招きに預かりまして」


 オスカー殿が微笑まれたので、私も倣う。その……オスカー殿? 


「後で俺とも踊ってくださいね?」

「ええ、喜んで……オスカー殿?」


 近くありませんの? そんな密談するような内容でもありませんし。今、腰に腕を回されておりません? 


「ねえ、アリアンヌ様? 今回の夜会ってさ?」

「……ええ、私の誕生を祝ってのことですわね?」


 本当に近いのですが。お顔までではありませんか……? 平常心を保つのが精一杯ながらも、私は会話についていく。


「うん、それもあるけれど。――あなたの伴侶選びもあるって」

「!?」


 今、『ふぁっ!?』と叫び出すところでしたわ。とにかく、嘘を言っているようにも見えませんわね。それてにしても、聞いておりませんのよ。何故、当人が初耳でなくてはならないのです。


「……良い機会だなって。お近づきになれたらって」


 ああ、そのように耳元に口を寄せられましても。


「――お戯れはおよしになって? 今回はあくまで祝いの場。そのような趣旨はございませんわ」


 私、存じてましてよ。あなたの好感度が這うようなものであることは! 騙されませんわ。少なくとも、こちらから乗り気になることはなくてよ。


「えー。おかしいな。うちの父がそう聞いたって」

「知りませんわね?」


 知らないったら知らないですわ。それこそ騙されたのでは? ましてや、私の父が言ったのではないのでは。私が張りついた笑顔をしていたところ。

 激しい雷鳴がした。一瞬、ホールの明かりが消えましたわ。


「……雷、怖い?」


 オスカー殿がささやく。どこか惑う私を見て、そう思われたのでしょう。


「!」


 腰に回された腕の力、それが強くなっていた。そうですわ、振り払いませんと。


「くっ……」


 自然と払おうとしても、難しいものですわね。口頭でお願いするしか。


「――人前ですよ、オスカー」


 私が困りかねていた時でした。やってきたのは、ヒューゴ殿でした。

 彼もまた正装に身を包まれています。髪もまとめられていて、前髪もあげられています。より、精悍な顔立ちが際立っています。凛とした眼差しはそのままですわね。



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