彼女に贈る花束。
私達は正門まで歩いていく。傘の中、二人密着しながら……ということはありません。
「まあ、ヒューゴ殿……」
ヒューゴ殿の肩が濡れてしまっていました。私は濡れずに済んでおりますが、そうもいきません。
「どうぞ、もっと寄ってらして?」
「え!」
ヒューゴ殿の肩がびくっとなりました。ええと、拒絶反応かしら。まあ……傷つきはしますが、今はあなたの肩問題に意識を向けることにしますわ。
「濡れているではありませんの。なんでしたら。こちらがもう少しはみ出るようにしましょうか」
「それはそれで……困ります」
ヒューゴ殿は気持ち少しだけ、体を寄せてきました。わずかです、わずか。譲歩してくださったのでしょう。私達はそのまま並んで歩くことにしました。
「……」
「……」
やはり会話が上手くない私達。でも、そうですわね。そこにお花はなくても、香りを楽しんでなくても。そんなに苦痛ではなくなってきました。
我が家の馬車が見えて参りました。立っているのは、イヴですね。傘をさしています。何やら剣呑とした雰囲気です。あまりにも待たせてしまったからでしょうか。
「……。では、私はこのへんで」
「ええ、ありがとうございました」
ヒューゴ殿は頭を下げ、傘をさしたまま学園の方へと戻られました。まだご用事があったのかしら。
「ああ、イヴも。お待たせしました。さあ、帰りましょうか」
「……随分、打ち解けていらっしゃるのですね。きっかけにもなったでしょうし」
イヴはにこやかです。あの殺伐さはなくなって……ませんわね。目が笑ってませんもの。それに実際に目にしてきたかのような。
「きっかけ? あなた、来てましたの?」
「……あ」
イヴはしまったと言った様子でした。これはあれかしら。温室の近くまで迎えにきてくれていたのかしら。
「……ご心配にはお呼びません。お二人が温室に入られてからは、こちらで待機しておりましたから」
邪魔しないように。彼はそう小声で言っていました。
「さあ、お入りください」
イヴに誘われ、私は馬車に乗り込むことに。彼はもう、この話はして欲しくないようでした。
イヴ。一度は迎えにきてくれたのに、私達の進展の為にって立ち去ったのですね。気を利かせてくれていたのでしょう。
それからも定期的に温室に訪れるようになりました。ヒューゴ殿に会える日もあれば、別の方ということも。それはそれで、私は楽しんでおりました。花を愛でるのも交流も良いものですわね。
サロンでの活動は自然消滅となりましたが、私の最近の楽しみはこちらとなっております。
この日はヒューゴ殿がみえられてました。花束を作られています。
「……ふう」
彼の作る様を見ながら、私は思いを馳せておりました。
私の誕生日もそうですが、その後に控えているのが――婚約お披露目の会です。これもまた、五月末日というのですから、なんともまあ。
殿下とブリジット様が、式に声明を出されるようです。それを聞いたからか、事前に渡したくなったと。
『本当は前日に渡そうと思いましたが。もう、済ませておこうかと』
なんでしょうね。このさっさと渡したいといったような。私の穿った考えでしょうか。といはいえ、作るご様子は真剣そのもの。
真剣でした。花もわざわざ彼女の出身国から取り寄せたのだとか。そちらでしか咲かない花であると、ヒューゴ殿は語っていました。
ヒューゴ様が作られるのは、青を基調とされた高貴で品のありそうな花束。ブリジット様というイメージはそこまででしたわ。ええ、正直な話。
サムシングブルー、でしたか。そういったものにちなんでいるのでしょうか。こちらの世界にもあるかは耳にしたことはありませわね。
ヒューゴ殿はどこまでも真剣です。思いを込めているようでもありますわ。
彼は――諦めることを選んだ。
「……」
私はただ、そんな彼を見つめておりました。
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