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夜にだけ咲く花。

「贈りたいもの……」

「?」


 ヒューゴ殿は私の方を確認しながらも、花を選んでは摘み取っていく。実際に贈るのは先になりますから、お試し、シミュレーションになりますわね。ええ、本番に備えていきましょう。


「……」


 脅しになってしまったかしら。そのように何度も確認されなくても。


 あなたが選ばれた花束、実際に私が申すこともそうないと思います。あのようには申しましたけれどもね。

 ヒューゴ殿が言っていたような、寄り添うな。ああ、暖かみのある色合いも良いですわね。小粒の花たち、あなたの目に見えている彼女。ええ、素敵だと思いますわ。さぞかし喜んでくれるでしょう。


「変……ですか」


 そんなに窺わなくても。無言で見守っていただけの私も私ではありますが。


「ふふ、駄目出しするまでもありませんわ。私も素敵だと思ってます。喜んでくださるでしょう」

「そうですか……!」


 ヒューゴ殿の表情が明るくなりました。ええ、自信をもってくださいまし。


「よし、と」


 包装され、愛らしいリボンでくるりと。花束も完成しましたわ。これで本番もばっちりですわね。今回の分はきっと、ヒューゴ殿の方で持ち帰られるかと――。


「……どうぞ」

「……」


 ええと? 

 つっこみどころがあり過ぎる、そう申しましょうか。ええと、ヒューゴ殿? 

 なぜ、そっぽ向いて片手で。そのような適当というか、乱雑というか? 


「私に、でしょうか?」


 何故私相手に、なのでしょうか。そちらはブリジット様をイメージしたものでは? 


「自分で持ち帰るのも、なので。お礼と思って受け取っていただければ」

「……さようでございますか」


 いえ、御自分で持ち帰られた方が良いのでは? ご家族の方も喜びになるでしょうに。

 まあ……花々に罪はありませんわね。摘み取られ、切り取られてしまってますもの。


「ええ、頂戴しますわね。ありがとうございます」

「……はい」


 ヒューゴ殿は心底安心しているようです。正直困惑はしておりますが、せっかくの贈り物ですもの。有難くいただきますわ。


 さて、思ったより長居をしてしまいましたわ。イヴも迎えに来ないままでしたが、もうお暇することにしましょう。


「――あら?」


 私の目を惹いたのは、水辺にある一輪の大きな花。蕾の状態ですわね。私の視線の先に、ヒューゴ殿も気づいたようですね。


「ああ、あの花ですか。私が育てた花になります。もうじき開花予定となってます」

「まあ、そうですの。咲いた頃にまた、訪れたいですわ。よろしいかしら」

「……ええ、まあ。構いませんけど」


 あら、言ってみるものですわね。承諾してもらえましたわ。ですが、彼はどうやら気がかりなことがあるようですわ。


「……夜にだけ、咲く花ですから。忍び込む形になります」

「……まあ」


 夜、ですって。夜限定ですって。忍び込みときましたか。


「……夜、ですが。明かりは沢山持っていきますから」

「明かり?」


 ヒューゴ殿は逡巡してましたが、何やら結論づいたようです。相当暗いということでしょうか。私はつい、尋ねてしまいました。


「……いえ、こちらの話です。では、付き添わせていただきますので」


 私単独でというわけにも、いきませんし。育て主の付き添いも必要でしょうね……ヒューゴ殿の。別の婦人の方、というのもですわね。忍び込むわけですし。


「ええ、あなたさえよければ。伺わせていただきますわ」

「そう……ですか」


 あなたはもう反対されないのでしょう? でしたら、私とて乗じますわ。単純に開花も見たいですもの。


「ちなみに開花時期ですが、五月末頃となっております。前後することもありますので、またお知らせしますから」

「……!」


 ヒューゴ殿にとっては、何てことないことでしょう。だから、さらりと仰る。でも私に、私達にとってのその日は――。


「……どうかなさいましたか?」

「いいえ? 楽しみにしておりますわね」


 私の表情が陰ったのを、ヒューゴ殿は気づかれたのかしら。心配されていうようです。ここは何事もないように振る舞いませんと。



 外に出ると、またしてもでした。雨が降っておりました。


「雨季でもないのに。最近、よく降りますね」

「ええ、まったくですわ……」


 ヒューゴ殿のお言葉に私は同意する。準備の良い彼は、手に傘を持っておられました。


「……結局、こうなりましたね。お送りします」

「ええ、お願いしますわ」

「……はあ」


 今、溜息つきましたわね。ですが、この私。そのお言葉に甘えましてよ。傘持っておりませんもの。ずぶ濡れ確定ですもの。

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