ダンジョン中毒者。
「……」
早起きをしてパソコンへ。準備を適当に手早く済ませてパソコンへ。授業中も頭の中はパソコンへ。気配を消して帰宅してパソコンへ。それからはずっとパソコンへ。
「うへへ……」
私はすっかり――脳筋悪役令嬢の世界に夢中になっていた。
「――おっと」
時間はあっという間に過ぎていた。もうとっくに深夜を回っていた。私は、もう少しだけもう少しだけ。となると、もう夜が明けてしまっていた。
こっちで勝手に省略させてもらった、『脳筋遊戯』。自分でも良い略し方だと思うんだ。まさにって感じ。
今日は土曜日。休みだひゃっぽい! 思う存分、脳筋遊戯に浸れるぞい!
「……ふわぁ」
眠い。さすがに眠くなってきた。おかしいな、ハイになっているはずなのに。金曜日からの徹夜が効いてきたのかな。お昼ご飯も食べ損ねちゃった。まあいいか。
春のうららかな陽気が暖かい。カーテンからの日差しも心地良い。うたた寝しようかな……。
夢の中でも、私は脳筋遊戯の世界にいた。えへへ、楽しい。
脳筋と侮るなかれ、武闘派の主人公。私はアリアンヌ・ボヌールになっていた。
体が自在に動かせた。思いっきり走れるし、ジャンプだって出来る。
ああー、楽しい……。
「……おーい、結衣ちゃん?」
「はっ!」
私は遊びに来ていた従姉に起こされた。もう夜になっていた。夕ご飯ということで、起こしてくれたみたい。
「すっかり、ハマってくれてるみたいで?」
「うん、すっごく楽しい!」
「う、うん……凄いやり込んでくれてるね。スゴイスゴイ」
従姉は画面の方をチラチラと見ていた。どこか落ち着かない感じ。というか、引かれてる?
「えへへ、ガチってるからねー。見てみて、強いっしょー?」
私はもう、どっぷりハマってしまっていた。
「いやぁ、私としてはさぁ……おまけ、というか。攻略の手助け程度くらいだったのにぃ……」
どこか悔しそうな従姉をよそに、私はどこまでも得意になっていた。しかもおまけなんてとんでもない!
なんと、ダンジョン攻略もゲームに含まれていたのだ!
入る度に変化のあるダンジョンに潜るのがもう楽しくて楽しくて! 私は、恋愛そっちのけで育成に励んでいたのだ! 鍛え上げて、ガチムチ令嬢を仕上げたのだ!
「ねえ、真麻さん! こっちも別ゲーで出しても売れるって! すごいよね、どれだけダンジョンのパターン考えたの?」
「……え?」
驚いた顔をしていたのは従姉だった。褒めたつもりだったのに、何かおかしなこと言ったのかな? 従姉はそれから、プログラムしたっけとか呟いていた。
「……あとで解析しておくか。で、結衣ちゃーん? 肝心な恋愛の方はやってないのかなー?」
従姉の渾身のキャラ達を放置したと思われたのか。そこからの従姉は止まらなかった。
喋る喋る。従姉のマシンガントークが炸裂していた。最初の内は聞き取ろうとしていた私も、後半になってくると追いついてなかった。ごめん。
「……やらなかったわけじゃないんだ」
半泣きの従姉を見て、私は白状した。実は攻略もしようとしていたって。
「確かさ、四人だったよね」
「いんや、隠しもいるよ」
「そうなの?」
隠しキャラいたんだ。発見出来なかった。しょうがないよね。私は続けた。
「……とりあえず、二人まではやってみたけど。なんか――怖いエンディングで」
「あー、あるある。初見はバッドあるあるー……って、怖い?」
「……うん」
特に一人目の攻略。トラウマものだった。冷たくされながらも頑張ってみたけど、彼が選んだのはヒロインポジの子。それから悪役令嬢は――理不尽に殺された。
とてもグロテスクだった。惨殺されたといっていい。
それでも二人目ならって。最初の人よりはましとはいえ、これも気が参ってしまうような結末で。私は恋愛攻略を断念してしまった。
「いや、怖いって……。だって、ギャグ落ちみたいにしていたはずなのに」
「……」
従姉の発言に私は言葉を失った。制作者すら意図していない結末。
そうだよ。従姉が私にこのゲームをやらせたのも、こんな鬱な気分にさせる為じゃない。気晴らしにって、そんな気持ちからだって。
怖い。何かが、私の知らないところで蠢いているかのようで。
「……セーブだけしとく。一旦、パソコン内のデータ消去しておくね。ちゃんと検証できたらまたやってもらいたいから」
「……うん、お願い。ゲーム自体はね、良作だと思うから」
私は反対することはなかった。あれだけのめり込んでいた気持ちが、すっと冷めるようで。
あのダンジョン攻略の興奮に名残りがないわけじゃない。でもこれ以上は危険だって、頭の中で警鐘が鳴っていた。




