彼女が好きでした。
私は温室に案内されました。芳醇な香りに、手入れの行き届いた植物たち。さぞ、愛情をかけられているのでしょうね。ああ、香りが華やぎますわ。
「よく管理されてますのね。主にあなたが?」
「……ええ、まあ。私だけではありませんが」
「ま、そうですの。活動でもなさっているのかしら? 部活動といったような」
「まあ、自発的に……」
私達は相変わらず会話が乏しいですが、進展してはいるのでしょう。会話は弾みませんが、以前に比べたら気が楽なものです。
植物たちを見ているのも楽しいですから。何気にこの時間を楽しんでおりました。そんな中、ヒューゴ殿が質問をされたのです。
「――アリアンヌ様。その……女性が。女性がです。好まれる花束はどういったものでしょうか」
「まあ! ……いえ」
私はその問いに浮き足立ちました。ええ……一瞬だけ。これは振りですわね。私読めておりましてよ。
「……ブリジットに贈りたくて」
ほらね? 読めてましたもの。なので、ズコーとはなりませんわ。
「……」
ええ、忘れてはなりません。彼はブリジット様を好いておられる。婚約している相手だろうと、こうして健気に私にまでリサーチしようとしているのです。……ええ! めげてはおりませんわ。相談されるようになるとは、進歩しているではありませんか!
「……そう、ですわね」
どうしたものでしょうか。ブリジット様との仲を後押しする形になる。でも、信頼は勝ち取りたい! まずは、不仲からの修復でしょうか。信頼をとることに致しましょう。
さあさあ、アリアンヌ・ボヌールの名にかけて! 神チョイスで見繕って差し上げませすわ!
「……もちろん、お祝いとしてです。家として贈り物もしますが、私個人として」
彼が贈る意味。それは私が想定していたものとは違ったものでした。
「……ヒューゴ殿」
承知でしたのね。ヒューゴ殿、あなたもまた、祝福しようというのですね。
『――あなたはどうなさるのかしら』
前にあなたに問うたこと。それがあなたの答えだと――。
「――以前、貴女にも聞かれたことがありました。彼女への思い、どうするのかと」
「!」
いやだ、タイムリーですこと。ちょうど考えていた頃合いでしたの。
「公爵家の方の問いに答えないままなのも、なので。私は……私は」
ヒューゴ殿は言い淀んでらっしゃいます。それでも彼は口を開き、こう告げました。視線は遠くを見たまま、それでもしっかりと。
「――私はブリジットが好きでした。この学園に彼女がやってくる前から。交流がありましたから」
「……ええ」
知っておりますわ。――あなたが彼女にどれだけ溺れていたのか。
「悩める私にそっと寄り添ってくれるような。女性に不慣れな私のエスコート、それも笑わずにいてくれる。穏やかに包み込んでくれる。そのような彼女が……」
「……」
「……そんな彼女が、好きなんです」
彼女のことを語る彼。愛おしそうに、幸せそうに。それでいて泣きそうでもいて。どれだけ、彼女のことが好きなのか。伝わってくるのです……。
「……いえ、好きでした。ちゃんと過去にします」
彼は訂正はしていた。そのような涙声でも、ふんぎりをつけるようです。ならば、応えるまでですわ。
「――ヒューゴ殿。私の鍛えられてきた審美眼も中々のものです。私が美しいと思ったものは、周りをも唸らせるものでしょう」
「……」
なんです、その辟易とした顔は。ぶち壊しだと訴えるかのような目は。いえ、続けさせてもらいますわ。
「心ときめく花束も造作もないこと。ですが、本当にブリジット様らしいもの。あなたが彼女によく似合うと思っているもの。……それが何よりではなくて?」
それが一番贈り物に相応しいと。私は微笑みました。
「アリアンヌ様……」
感銘でも受けてくださったのかしら。彼は私を見ているではありませんか。それも柔らかい表情で。
「……らしい、ですか」
ヒューゴ殿は可憐な小花を見ています。ええ、彼女らしいと。そうあなたは思ったのでしょうね。
「あなたが心から贈りたいもの、それでよろしいでしょう? もちろん、あまりにも冴えないものでしたら? きちんと駄目出し致しますから」
「なっ……」
私が意地悪めに笑うと、ヒューゴ殿は顔を赤くされた。あら、お怒りかしら。
「……はあ、お手柔らかにお願いします」
「ええ、かしこまりました」
ヒューゴは頭を抱えながらも、頼んでこられた。もちろん、引き受けますわ。




