ヒューゴ殿からのお呼び出し。
さて。学年も違いますので、イヴとも別れてしまいました。ここからは私一人となりますが、臆することもないでしょう。
扉を開けると、笑い声。ブリジット様を中心にご歓談されていました。いつもの光景となるのでしょうね。それはもう、致し方ないこと。
「――ごきげんよう、皆様方」
私は扇子を片手に優雅に微笑むまで。そう臆することもなく、堂々と。
さあ、終礼が終わりましたわ。どうやってヒューゴ殿と距離を詰めるかですわね。私は席に座ったまま思考を巡らせておりました。
「……」
本日、それとなく彼を探っておりました。なんともまあ……ブリジット様づくしでしたこと。彼の妄執ぶりは、プレイ当時でもわかっていましたが、ここまでべったりでしたのね。
「……さて」
時期を待つべきでしょうか。私の誕生日に彼も誘われるはずですから、近づくきっかけになるかと存じますわ。
――否!
まずはお話からですわ。ブリジット様達の集いに、私も混ぜていただきましょう! 彼の人となりを知る機会にもなりますものねっ。さあさあ!
「――お話、よろしいでしょうか。アリアンヌ様」
「……へっ」
私の席まで単独でやってきたのは、あろうことにもヒューゴ殿でした。心の準備が出来てなかった私は、素っ頓狂な声を出してしまいました。失礼と咳払いを一つ。私は応じることにしたのです。
ここまでの時間が長く感じられました。沈黙が続いたままでございました。珍しい組み合わせであると、視線も集まっておりました。私からあれこれ話しかけても、最低限の返答しかなく。
会話が、会話が……! 言葉のキャッチボールが成立しておりませんでした……! くっ!
そうした時間も経て、ようやくでした。
彼が連れてきたのは、私にとっては馴染みの場所。温室近くのテラス席でした。曇り空とはいえ、雨が降る様子はありません。
「……」
お話の機会は有難いのですが、その、昨日の今日ではありますから。気まずいとも申しますか。いえ、そうはいっていられませんわね。
「ここまで足をお運びいただき、ありがとうございました。人の目につかない場所で話したかったもので。さあ、どうぞ」
ようやくヒューゴ殿が口を開いてくれました。彼が引いたのは、一番手前の席。ええ……そうですわね。一等席とかもういいですわ。人の目もありませんし。
「ええ、失礼するわ」
「では、本題ですが――」
ヒューゴ殿も向かいの席に着きました。彼はテーブルの上で手を組んでおります。何を話されるというのかしら。
「率直に申し上げます。アリアンヌ様――何故、私をずっと見ておられたのですか」
ヒューゴ殿はいたって真剣なお顔。人目を避けて話したかったのは、このことだったようです。
「……」
ええ、その通りですわね。当然の疑問ですわね。私はこっそりと見ていたつもりでしたが、彼にはバレバレでしたのね。
「……何故だかわからなさ過ぎて、不可解でした」
「……ええ」
ええ、本当にその通りですわね。ヒューゴ殿としては、何故自分がといったところでしょうね。しかも、良く思ってない相手からです。お答えせねば。
「……。ヒューゴ殿というよりは、皆様方と申しましょうか。とても楽しそうにお話されていて、羨ましくなりましたの」
「羨ましい……ですか?」
ああ、ヒューゴ殿が胡乱げに見てきますわ。羨ましい、は嘘ではありませんのに。
「ええ、私も加えていただきたいなと。そう思うくらいにですわ」
「それは……それは、難しいでしょうね」
あら? 吐き捨てられるかと思ったのですが、どうしたのかしら。ヒューゴ殿は言葉を選んでいるようですわ。
「……ブリジットが、貴女を怖がっていますから。すみません、私達は貴女を招き入れるわけにはいきません」
「……そう」
会話に混じるのは、今は厳しそうですね。ともあれ、はっきり言ってくださったのは、よきこと。
「ありがとうございます、ヒューゴ殿」
感謝しなくてはなりませんわね。
「……はい?」
はい? とは。何をそんなに驚いているのでしょうか。感謝だけではありませんね、こちらも伝えなくては。
「それだけではありませんわ。私、あなたに不愉快な思いをさせてしまいました。申し訳ありませんわ。今後は改めますから」
「……不愉快?」
不愉快でしょう? 何のことかと思ってらっしゃるのかしら。よいでしょう、明言しましょう。
「私にずっと見られていたこと。淑女としても、よくないことでしたわね」
「……ああ」
ヒューゴ殿は今になって、お気づきになられたようです。そのことで呼び出したのでは?
「……話は以上です」
「あら、おしまいですの? ――ヒューゴ殿、羨ましいというのは本当なのです。お話でもしていきませんか?」
「……」
「ね、ヒューゴ殿」
「話は以上です。とはいえ、正門まではお送りしましょうか――先程のように無言でもよろしければ、ですが」
ヒューゴ殿はこれ以上話すことはないと、壁を作っておいででした。なんとか話を続けようとしたのですが。
「……いえ、お構いなく。供の者と合流しますから」
何となくですが、イヴも近くまで来ている気がします。もう、誕生日ですわね……そちらに賭けましょうか。




